ドル/円独特のチャートパターンを、ご紹介しましょう。
一般に「ダブルトップ」というのは、ほぼ同じ大きさの山が並び、その山と山との間に谷間ができます。その麓に水平に引いたラインのことをネックラインと呼びます。そして、ネックラインを実体(ロウソク足の寄り付きと引け値の間の太い部分)で下に割り込むと、山の頂上とネックラインとの高低差分が下がるというものです。
ところが、ドル/円で散見されるのは左の山が大きく右の山が小さい形状で、「変形ダブルトップ」と呼んでいます。右の山の側面がネックラインまで下りてきて、同じく更にネックラインを実体で割り込んでくると、この場合は、左の山の頂上とネックラインの高さ分だけ落ちるというものです。
そして、現実問題として、大きな左の山は2014年9月頃から2016年6月頃で完成し、今は小さい右の山が2016年10月から形成途上であり、しかも右の山の頂上もほぼ完成し下げ始めています。
ネックラインを割り込んだ場合、どうなるか
ところで今回の場合、左の山頂上はおおよそ125円、そしてネックラインの水準は100円近辺です。これで右の山がネックラインまで到達すると、変形ダブルトップは完成です。
形勢を初めたのが2014年9月ですから、3年以上を掛けているということです。逆に、かなりの「動こうとするエネルギー」を持っていることは想像に難くありません。
では実際ネックラインを割り込んだ場合どれぐらいの下げになるかを予想しますと、ネックラインと左の山の高さが25円と申しました。そして、100円を割り込むと、100円-25円=75円までの下落の可能性があります。75円は2011年につけた戦後の円の最高値です。
ちなみに戦前を含めての円の最高値は、明治7年のドル/円が創設されたときの1ドル=1円でした。それを考えれば、75円で円高が止まるとは言い難いと思います。
いすれにしても、今回の変形ダブルトップは未完成ながら既に3年を掛けており、このような長期のチャート形成はその後大相場になる可能性が高いと思われます。
ファンダメンタルズ面から考える円高の可能性
さて、テクニカル的なお話をしてきましたが、ファンダメンタルズ面からの円高の可能性についてはどうでしょう。既にお気づきかと思いますが、昨年と今年で政府・日銀の為替に関する姿勢が異なります。
昨年は少しでも円高になろうとすれば、間髪入れずに政府・日銀と金融庁が会合を開き、「投機的な円買いなら断固たる措置をとる」としつこいぐらいけん制してきました。
ところが昨年11月に為替介入を嫌うトランプ氏が大統領になると、それから一言も介入けん制を発しなくなりました。その後、介入ではないものの、下がればしつこくドル/円の買いが出ていることが気になっていました。
これはあくまでも私の憶測ではありますが、多分政府・日銀としては出られないため、GPIF・ゆうちょ銀行・簡保生命・KKRなどの共済など公的の運用機関に代理介入を依頼しているのではないかと思っています。かなりの買いが出ていることは、値の出合い方でわかりました。
しかし、それでも売りはかぶさってきており、これは買った公的な機関が上げてきたところで、売ってロングを解消しているのではないかとみています。いずれにしても、不自然なことを続けると必ず歪みが出ると思われますので、今後のドル/円相場には、警戒が必要です。
執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)
バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀において為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら。