人は皆、自分の頭で冷静に物事を判断しているつもりだが、実際のところはバイアス(=思い込み)に左右されている。心理学を知る人なら誰でも知っているであろう定説にふれた時、私は激しく動揺したのでした。自分では筋道立てて物を考え、書いているつもりのことが“思いこみ”と言われてしまったら、商売あがったりではないですか。しかし、実際にいくつものバイアス(思い込み)を知ると、確かにこういうところがあるなと膝を打たざるを得ない。後になって、心理学の言わんとするところは「人が人をジャッジする無意味さ」なのではないかと思うようになりました。

心理学では、バイアス(思い込み)を悪いものと決めつけていません。ただ、バイアスというものは確かに存在し、バイアスを持たない人はいないと結論付けています。自分にバイアス(思い込み)がないと思う人は、自分の目の前の出来事が“真実”だと決めつけがちです。

  • イラスト:井内愛

冤罪に巻き込まれる人に共通事項すること

バイアスと国家権力が結びついたときに起こる悲劇が、冤罪と言えるでしょう。「無罪請負人 刑事弁護とは何か」(角川oneテーマ21)において、その名のとおり、無数々の無罪判決を勝ち取っている著者の弘中惇一郎弁護士は、冤罪に巻き込まれる男性の共通事項について触れています。それはずばり、恵まれていること。いわゆる名門家の出身ではなく、一人でのしあがった人というのはもてはやされるし、成功者ですから、女性関係も派手であることが多いもの。そんなときにかすかなほころびが見つかると、羨望が嫉妬に変わって、あいつが成功を収めたのはズルいことをしたからだ、もともとそういうヤツだとオレはわかっていた、今まで相当悪いことをやってきたに違いないと思われてしまうそうです。

数あるバイアスの中の一つ、信念バイアスをご紹介しましょう。これは、いい結果が出ているときは、ここまでのプロセスはすべて正しく、反対にいい結果が出なかったときは、やり方が全部間違っていたと思ってしまうことです。たとえば、某球団の監督が成績不振の責任を取って休養する(事実上の更迭)ことになりましたが、監督は若手を叱らない指導法を取っていたそうです。そんな甘いことをしているから勝てないんだと言いたいのでしょうが、これこそが信念バイアス。もし、この球団が勝ちまくっていたら、若手を頭ごなしに叱らない方針がよかったと言われたはずです。プロ野球選手に限らず、残念ながら、世の中というのは結果を出さない人に冷たく、すぐに「そんなことだから」と言われてしまうもの。

紀子さまはおそらく今、日本で一番“信念バイアス”にさらされている

今、日本で一番信念バイアスにさらされているのは、秋篠宮親王妃・紀子さまではないでしょうか。秋篠宮さまが皇嗣となられたことでスタッフが増え、それに伴う改修工事に30億もの費用がかかったこと、佳子さまは新しい宮邸にお住まいにならず、仮住まいにしていた分室に今もお住まいになっているそうですが、税金の無駄遣いという声がネットでは上がっています。

紀子さまと言えば、学習院大学の書店員さんから秋篠宮さまを紹介されて知り合われたたことから「キャンパスの恋」と報じられ、お父さまが教員を務めていた学習院大学の社宅にお住まいだったため「3LDKのプリンセス」とちょっと意地悪な呼ばれ方をされたこともありました。しかし、皇室入りされた後は、すぐにお子さまに恵まれ、美智子さまをお手本として皇室にうまく適応していきます。雅子さまが適応障害のために療養を余儀なくされた時も、紀子さまは公務と子育てを両立し、悠仁さまを出産なさいました。現行の法律では、女性は皇位を継承することができませんので、紀子さまが“お世継ぎ”をご出産されたことで、皇室の救世主となられたわけです。現在の天皇陛下の妹君・黒田清子さんの結婚相手、黒田慶樹さんは小学校から秋篠宮さまのご学友で、紀子さまとはサークル活動のお仲間でもあったそうです。気軽にデートができない二人のために、宮邸を開放するなど、婚家のために尽くしまくり、“パーフェクト宮妃”と言われたものでした。

一方、その頃、叩かれまくりだったのが現在の皇后陛下、雅子さまでした。適応障害で療養中にも関わらず、オランダにご静養に行かれたことで「公務はしないのに、遊びには行ける」と批判されます。保守系の月刊誌には「美智子さま、紀子さまは社会人経験がないから、皇室にすんなり馴染めたが、雅子さまはキャリアウーマンだから適応できない」と書き立てられ、役に立たない嫁なのだから、実家が引き取るべき、つまり離婚せよとはっきり言った論客もいました。ご実家のご家族もどんなにか苦しまれたことでしょうか。

かつて雅子さまも美智子さまも…行き過ぎたバッシング報道に対応はできないの?

こうやって見ていくと、批判と言うのはバイアスというか、結果ありきの後付けと言えるのではないでしょうか。雅子さまがかつて批判されたのは、キャリアウーマンだったことが悪いのではなく、単に公務をお休みになっていたから。同様に、パーフェクトな宮妃と言われていた紀子さまが今、バッシングにさらされているのは、小室眞子さんの結婚の際の遺恨が尾を引いているのだと思います。小室圭さん本人の問題ではないのに責めるのは酷ですが、母上の金銭トラブルをもっと早く、もっと円満に解決できていたら、こんなことにはならなかったと思います。「いい結果の時はすべて正しい、悪い結果のときはすべて間違っている」という信念バイアスを、日本の諺に置き換えると「勝てば官軍、負ければ賊軍」ではないでしょうか。結果を出さない時にはいろいろ言われてしまうのは、人の世の習いなのでしょう。ですから、周囲に何を言われても気にしないのが一番です。

上述したとおり、雅子さまも紀子さまもバッシングされていますが、美智子さまも激しいバッシングにさらされ、お声を失ったことがありました。芸能人であれば、SNSを通じて否定のコメントを出せますし、取材方法に不正があれば抗議もできるでしょう。しかし、皇室の方はそうはいかないのです。この状態を放置すると、妃殿下方の名誉が棄損されるのはもちろん、バイアスがますます強くなってネガティブな報道が続くでしょうし、国民も皇室を敬遠するようになってしまうのではないでしょうか。行き過ぎた報道にストップをかける役職が宮内庁にあっていいと私は思います。

「お身体を大切にしてください」-紀子さまこそ、御身おいといあそばして……

いつの時代も皇太子妃決定までには紆余曲折ありますが、妃殿下方のバッシングが続けば、「うちの娘もあんな目に合うのだろうか」とお嫁入りを敬遠する親御さんが増えるのではないでしょうか。現在の法律では、女性皇族は結婚すると皇室を出ることになりますが、受け入れる男性側の家族も「あれこれプライバシーをほじくられてはたまらないから、荷が重い……」としり込みしてしまうことだってあるでしょう。皇室に入られる、もしくはお出になる、どちらの場合でも、今の状況はマイナスでしかないでしょう。そして、また皇太子妃が決まらないのは、誰が悪いという犯人探しが始まり、新たなバイアスが生まれることは目に見えています。

今年の初めに、体調不良で公務を休まれた紀子さま。これだけバッシングされたら体調もおかしくなってもおかしくないと思いますが、石川県を訪問し、能登半島の地震の際、医師を派遣した金沢大学で医師たちに「お身体を大切にしてください」とお声がけになったそうです。妃殿下こそ、御身おいといあそばして。そう願わずにいられないのでした。