9月30日、ついに富士スピードウェイでのF1が開催された。1976年と1977年の2年間にF1が開催されたことがあるからじつに30年ぶりに富士スピードウェイで開催されたわけだ。このときために2000年にトヨタは富士スピードウェイを買収して傘下に納めた。さらにF1開催ができるサーキットとしての規格"グレード1"を取得するために約200億円の巨費を投じてコースを改修した。

あいにくの悪天候でスタート前から路面はヘビーウェット。気温17度、路面温度22度、湿度94%のコンディションのなかで、セーフティカーによる先導でレースはスタート。雨が降り続きセーフティカー先導による周回は40分以上に渡って続き、19周目にようやく本当のレースがスタートした

ボクらプレス関係者も期待していたF1。プレス関係者の多くは自動車メーカーの招待で観戦することが多く、以前ホンダだけが参加しいたときもホンダがF1観戦プレスツアーを行っていた。トヨタが参戦した2002年からはトヨタ・ホンダ合同のプレスツアーが行われるようになり、今回の富士スピードウェイ(以下、富士)のF1もトヨタ・ホンダ合同で開催された。

しかし、富士で開催が決定したときから関係者からは不安の声があがっていた。富士は80年代に開催されていたグラチャン(富士グランドチャンピオンシップ)や現在のスーパーGTのレースでも周辺道路が激しく渋滞することがよく知られている。大きなレースではサーキットにたどり着くことができないほど渋滞することがあるのだ。富士と地元関係団体と協議した結果、今回のF1では「チケット&ライド」という方式をとることが決定された。愛知県で開催された「愛地球博」でも採用された「パーク&ライド」の変形版だ。周辺道路の渋滞を避けるために観戦チケットと来場時の最終アクセスをセットにしたシステムをチケット&ライドと呼ぶ。サーキットにアクセスする道が少ないためこうした方法をとるのは理解できるが、自転車や歩いて行ってもサーキットに入れないのだ。道が狭いため歩行者や自転車がいるとバスやタクシーが走りにくいからだが、歩いてアクセスする歩道ぐらいは整備してもよかったのではないだろうか。

確かに決勝レース開催日でも富士に向かうときには、ほとんど渋滞せずに会場に入ることができた。14万人もの人が集まるだけにサーキット手前で数百メートルの渋滞があったが、チケット&ライドのバスやタクシーなどのクルマだけなので30分ほどの渋滞に遭遇しただけだ。しかし、問題はここからだった。富士の施設の1つである交通安全施設"モビリタ"がボクたちのバスの駐車場。指定席のグランドスタンドまでは通常は歩いて10分ほどの距離だ。あいにくの雨のためバスの中で時間をつぶし、11時ごろから行われる予定のレクサスIS-F(この時点では未発表のクルマ。富士F1から4日後の10月4日に正式発表)のデモ走行を見るために駐車場を10時45分ごろに出た。

駐車場からの出口でまず驚いた。会場まで歩く人で大渋滞していてほとんど動いていないのだ。駐車場として使われたモビリタは小さなサーキットのような施設のため、ちょうど出口のところがカードレールで仕切られていて歩行スペースが狭い。さらに通路は一方通行ではなく駐車場に入ってくる人もいるため、混雑をさらにひどくしていたのだ。多く人が歩くことを想定した"導線"ではない。鈴鹿サーキットは20年かかってスムーズな開催ノウハウを得たというが、それにしても富士の場内誘導のオペレーションはお粗末だった。200億円かけて施設を改修したならば、駐車場からの仮設の出口を造ることくらいなんでもないはず。そんなことを思いながら時間が経過することにイライラしながら渋滞を進むと、さらに渋滞はひどくなり、動けなくなってしまった。原因は"パスコントロール"。チケットを持っていない人を入れないために入場ゲートがあるのだが、そこは人の流れを絞って主催者側がチケットを確認しやすくしているのだ。完全にボトルネックになっている。

チケット&ライドは、サーキットに入る専用バスなどに乗るチケットまでセットになっているわけで、会場に入って来る人は必ずチケットを持っているわけだ。改めてチケットを確認する必要はないはずで、仮に再度確認するにしても通路を狭くすること自体が間違っている。周りからも歩こうにも歩けない状態に不満の声が上がっていた。また場内では数カ所車道を渡る必要があった。場内であってもクルマの通行が優先で、ガードマンによって人の流れが止められるからさらに渋滞がひどくなる。こうした場所も仮設の橋が掛けられていれば人の流れはスムーズになるのだが、そうした対策はされていなかった。当然だがIS-Fが走るところは見ることができず、駐車場からグランドスタンドの指定席まで1時間掛けて移動することになってしまった。

暴動寸前の帰り道

レーススタート前の会場入りは、それぞれのバス到着時間が違うため人が分散し、何とか渋滞を我慢すれば席にたどり着けたが帰りは別だ。レース終了後ほとんどの人が席を立つためバスの駐車場や最寄りの駅や駐車場までのシャトルバス乗り場までの歩道はさらに大渋滞。ほとんど動かないことにイライラした数人が車道に入って歩き出した。それを見たカードマンは「ピー、ピー」と警官のようにけたたましくホイッスルを吹いた。このホイッスルの吹き方は、イライラが頂点に達していた人たちのモラルを崩壊させた。

交通安全施設モビリタを使ったバス駐車場からの出口で大渋滞。会場へと続く奥の上まで人がびっしり

F1開催時だけでも手前のカードレールを撤去すればかなり歩道は広くなるはず。さらに土手と車道に歩行者用の仮設の橋を設置すればかなり流れはよくなるはずだ

それまで動かない歩道で我慢していた人たちが一斉に車道になだれ込んだのだ。一瞬で車道はなくなり、その場所は歩道に変わった。ガードマンがホイッスルではなく「危ないのですみませんが歩道に戻ってください」と言葉で伝えていればこうはならなかっただろう。不満が頂点に達するほど帰りの歩道渋滞はひどかった。動けないので周りの人を観察していたが、小さな子供を連れた家族やベビーカーを押す若いカップルはさらに大変そうだった。あるカップルが「もう来るのはやめようね」と話していたのが印象的だった。サーキットまでクルマでアクセスしていれば、歩くのに時間がかかってもクルマに乗ればオムツを取り替えるのも楽だし、ミルクを飲ませることも簡単。だがバスではそうはいかない。小さな子供も自家用車なら乗せて寝かせてしまえば、自宅までゆったりと帰ることができる。シャトルバスの利用者は、なんと夜遅くまで乗れない人がいたようだった。

周辺の道路状況を考えると"チケット&ライド"以外の方法がないことはわかるが、将来のF1ファンを増やすことを考えると子供を連れて行きにくい状況は深刻だ。少なくとも鈴鹿サーキットでは子供連れも多く、会場へのアクセスもいい。すでに2009年からは鈴鹿サーキットと富士での交互開催が予定されているが、今回のような状況ならば2008年からF1開催は鈴鹿サーキットにしたほうがいい。クルマのレースはやはり愛車で見に行きたいものだ。富士は新たに周辺に道を作らなければ愛車で行くのは事実上不可能。今回の方式でも一部でレース開催に間に合わなかった人がいるくらいだから、自家用車でアクセスさせたら富士周辺の道はすべて"駐車場"になってしまうはずだ。東京から近い富士での開催を楽しみにしていたが、今回の状況では来年の来場者数が激減することは想像に難くない。

レース翌日の10月1日には富士スピードウェイの取締役会長 冨田 務氏と取締役社長 加藤裕明氏の連名で"お詫び"がホームページに公開された。トヨタ得意の"カイゼン"に期待したいが、チケット&ライドに代わるいい案がなければ来年鈴鹿サーキットに戻すことも必要だと思う。また、今回コースが見にくかったC席仮設スタンドの人にはチケット代金の一部を返金するそうだ。詳細は上記のホームページで案内しているから確認してほしい。それにしてもトヨタモータースポーツ参戦50周年という記念すべき年に開催された富士F1は、後味の悪いものだった。