【あらすじ】
コマガール――。細かい女(ガール)の略。日々の生活において、独自の細かいこだわりが多い女性のこと。細々とした事務作業などでは絶大な力発揮をするが、怠惰な夫や恋人をもつとストレスが絶えない。要するに几帳面で神経質な女性。これは世に数多く生息する(?)そんなコマガールの実態を綴った笑撃の観察エッセイです。

前回の続きである。4月下旬に発症したチーの高熱は、ゴールデンウィークに入ってからも一向に治まらなかった。おかげで4月29日の我らの結婚記念日も、チーは一日中寝込むことに。休日のため病院もやっておらず、僕ができる限りの看病をした。

しかし、僕は30日から大阪出張に行かなければならなかった。いくつかの仕事がまとめて入っていたため、帰京は6日の予定だ。そこでチーの母親に出張中の看病をお願いしたところ、ありがたいことに4月30日~5月3日まで家に泊まりこんでくれるという。

5月に入ってからも、チーは39度以上の高熱が続いていた。以前の夜間診療でもらった解熱剤はまったく効果がなく、その後また別の病院に行ったのだが、そこでは「ウィルス性の風邪の疑い」と診断され、抗生物質を処方された。しかし、それでもチーの容態は変わらなかった。それどころか胃痛や腹痛まで発症し、事態はますます混迷を極めた。

かくして、また別の病院に行った。そこでチーは前の病院で診断された「ウィルス性の風邪の疑い」ではなく、新たに「マイコプラズマ肺炎の疑い」と診断された。しかも胃痛や腹痛といった新たな症状は、前の病院で処方された薬が合っていないためらしく、だから別の薬を処方された。これで病院は3軒目だ。もうわけがわからない。

マイコプラズマ肺炎。もしそれが事実だとしたら、厄介なことになりそうだ。1週間やそこらで完治する病気ではなく、さらに他人に伝染するため、外出はもちろん禁止。だったら僕としては入院を勧めたいところだが、入院するにしてもGWが終わるのを待たなければならない。いずれにせよ、あと何日かは家でしのぐしかないわけだ。

前述したように5月3日までは、チーの母親が泊まり込んでくれたため、どこか安心だった。チーの母親は生来の世話好きであり、福祉の仕事もしているため、こういう状況には慣れている。チーにしても、実の母親に付き添われるのが一番だろう。

しかし、4日以降はどうすればいいのか。チーの母親にはどうしても外せない用事が入っており、そこまでが限界だ。僕も僕で、6日までは身動きが取れない。

そこで大阪に住む僕の母親(通称・マリーバ)、つまりチーの義母を東京に派遣することにした。マリーバについては本連載の第5回目でも紹介しているので、そちらもあわせて読んでいただきたい。とにかくマリーバは、僕の近い友人たちから「山田家の最終兵器」と称される、一風変わった女性なのだ。

東京に派遣する直前、僕はマリーバにチーの病状と注意点を丁寧に伝えた。主な注意としては「胃が弱っているから食事には気をつけること」「伝染するかもしれないからマリーバ自身も気をつけること」「外出は絶対に禁止」の3点。当然マリーバもそれぐらいは心得ているようで、「大丈夫、任せなさい! 」と自信満々の笑みを浮かべていた。

そして5月4日の昼、マリーバはいよいよ東京に上陸した。そのままチーが寝込む我が家に向かい、チーの母親とバトンタッチして看病に入る。チーは依然として39度以上の高熱が続いており、食事も満足に摂れない容態だという。マリーバ、頼んだぞ。

ところが、である。その夜、病に伏せるチーから僕に電話が入った。そして今日一日の報告を受けたのだが、それを聞いた瞬間、僕は思わず椅子から転げ落ちそうになった。

報告1 マリーバはチーに刺身を食べさせた。
報告2 マリーバはチーを散歩に連れ出した。
報告3 マリーバはチーをファミレスに誘って、2人でお茶をした。
報告4 マリーバはチーが食べ残したものを迷わず食べた。

なんだそれは――。女子同士の普通の休日じゃないか。あれほど胃に負担をかける食事はダメだと言ったのに、よりによってナマモノを食べさせるとは。あれほど外出禁止だと言ったのに、「散歩→ファミレス」という荒業を強行するとは。あれほど伝染に気をつけろと言ったのに、チーが食べ残したものを平気で食べるとは。事前の注意は完全無視か。

頭が痛くなった。マリーバの天然ボケはある程度予測できていたものの、まさかここまでとは思わなかった。状況が状況なだけに、チーのことが余計に心配になってしまう。

しかし不思議なことに、ここにきてチーの熱が下がり始めたのだ。10日以上続いていた39度の高熱が、いつのまにか38度になり37度になり、そして僕が帰京した5月6日にはついに平熱の36度台に突入。さらに翌7日、つまり久々の平日に病院に行くと、あろうことか医師から「完治」の診断まで受けた。なんという、スピードだ。

なんでも医師曰く、詳しく調べてみるとマイコプラズマ肺炎ではなく、複数のウィルスをこじらせた結果のため、原因の特定はできなかったとか。すなわち謎の病気というわけなのだが、「治ったのなら、深追いはしない」ということで、いまだわからずじまい。うーん、いったいなんだったのだろう。気になるなあ。

ちなみにマリーバは「わたしのおかげね」と明るい声で言っていた。僕は断じて「それは違う」と主張したい。きっと三軒目の病院で処方された薬と、マリーバの前に看病してくれたチーの母親のおかげだろう。いずれにせよ、散々なゴールデンウィークでした。

<作者プロフィール>
山田隆道(やまだ たかみち) : 作家。1976年大阪府生まれ。早稲田大学卒業。おもな著作品に『雑草女に敵なし!』『Simple Heart』『阪神タイガース暗黒のダメ虎史』『彼女色の彼女』などがある。また、コメンテーターとして各種番組やイベントなどにも多数出演している。私生活では愛妻・チーと愛犬・ポンポン丸と暮らすマイペースで偏屈な亭主。チーが几帳面で神経質なコマガールのため、三日に一度のペースで怒られまくる日々。
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