大阪駅から札幌駅まで、約1,500kmを走り抜ける日本一の長距離寝台特急「トワイライトエクスプレス」。デビューした頃、筆者は20代になったばかりで、まだまだ将来への夢に満ちあふれていた頃でした。「いつかトワイライトエクスプレスのスイートに乗って新婚旅行に行くんだ~」などと、いま思えば完全に世迷い言の類の将来を思い描いていました。
結局、独り身のまま四半世紀の年月が流れ、世の中の厳しさや縁遠さなどに打ちひしがれているうちに、今年3月12日に発車する列車をもってラストランを迎えるという、悲しいお知らせに接してしまうのでありました。時の流れは無情なものです。
そんな筆者のもとに、ジェイアール西日本フードサービスネットから一通の案内が届きました。「トワイライトエクスプレス食堂車『さよなら特別メニュー』発表会(試食つき)」という魅惑のインビテーションです。こっ、これは! 行かないわけにはいきませんよね。それで1月のある日、大阪市内の会場にお邪魔しました。
辻調グループとのコラボで「さよなら特別メニュー」提供
「トワイライトエクスプレス」の廃止にともない、さまざまな記念商品が販売されます。近頃こういうグッズの販売が加熱していて、今回も一部入手困難が予測されているほどだそうです。とくに今回販売される商品は「乗らないと買えない」ものですから、レアなアイテムとなること必至ですね。
ただ、「トワイライトエクスプレス」の醍醐味はあくまで「おもてなし」とのことで、メインのダイニングで盛り上げたい。そんな思いで今回、2月1日からラストランまでのメニューに関して、辻調理師専門学校とのコラボレーション企画が立ち上がったそうです。
辻調理師専門学校というと、関西では昔「♪フォアグラ~ 田楽~ 四喜丸子~ アップルパイ あべの~ 辻調 料理界の東大」というCMが流れていて、メジャーなイメージがあります。一体どんなメニューか、期待が高まります。今回の試食はフルポーションではなく、およそ半分の量とのこと。そのことを頭の片隅に置いた上で、写真をご覧ください。
トワイライト厳選の黒毛和牛のグリエと牛舌の煮込み、里芋のムースリーヌ |
「プレヤデス」パルフェ・グラッセ、マカロン、果実のサラダ、ハスカップのソース |
利尻昆布やフランスの海塩を練り込んだ「潮の香りのするバター」がパンに添えられた |
何と言って良いのか……。見た目も味も悪いわけがありません。すばらしい! 日本海の車窓を楽しみつつ、これらのメニューを味わえる人が、心の底からうらやましいです。
沿線の食材をふんだんに使ったメニューは、食材の確保が大変だったそうです。たとえばハスカップ。フレッシュな状態で流通する期間は、1年のうちたったの2週間。これを合計3,500食分確保しないといけないのです。それ以外の野菜も、「トワイライトエクスプレス」で使うものはすべて国産だそう。調理に関しても、テリーヌなどは仕込みも含めて4日かかるといいます。車内でこれを提供するのは並大抵ではないのでしょうね。
「トワイライトエクスプレス」の運行も、いよいよ最後のひと月あまり。いまから予約を取って乗るのは難しいでしょう。キャンセル待ちという手もありますが、それは「明日ちょっと札幌へ」が可能な、時間とお金のある人でないと難しいですよね。
それでもなんとか乗れないか、ちょっとあがいてみたい気持ちになる今日この頃。ただ、筆者は貧乏性だけに、もし乗れたとしても、「せっかく寝心地の良いベッドがあるのだから寝たい。でも、起きたらもう札幌だった、車窓を楽しむ間もなかった……ということになるのは怖いし、寝たらダメな気がする」など、すごいジレンマに苦しみそうですけどね。