安倍改造内閣が始動
自民党総裁選で無投票再選を果たした安倍首相の元で、10月7日の午後、改造内閣が始動する。改造内閣では、「経済」を政策の中心に据え、GDP600兆円を目指すことが宣言されている。安保法制の成立に執心し、経済政策がおろそかになっているとの批判があることに対応したメッセージと取れる。ただし、600兆円に向けての具体策が乏しく評価できないとの声もある。
確かに、「1億総活躍」をキャッチコピーとする「新3本の矢」を見ると、特に新味に乏しい。来年の参議院選挙に向けての選挙対策という声が出るのも当然だ。ただ、アベノミクスでは、構造改革・成長戦略のメニューは、既にたくさん出されており、ここから何か新しいメニューを増やすより、既に出ているメニューを着実に実行する方が重要である。
そういう意味では、私は、長年の懸案が実行段階に入ったことに注目している。具体的には、(1)TPP、(2)マイナンバー、(3)郵政上場が実現に向けて動いていることに注目している。長い年月、日本中を二分して賛否が争われた改革が実現しつつあることには、深い感慨がある。
TPP大筋合意
各国の承認を得てTPPが実際に発効するまでにまだ1~2年かかりそうである。ただ、実現に向けて大きく進展したことは注目できる。実現すれば、貿易立国の日本に大きなメリットがある。TPPは、日米主導の経済圏作りの核となる。中国主導の経済圏作りに対抗する狙いもある。日本と米国は、中国主導で設立されたAIIB(アジアインフラ投資銀行)への参加を見送った。資本主義の基本的ルールが守られていない中国が主導する経済圏作りとは一線を画し、TPPを通じて日米主導の経済圏を作っていく方針だ。
マイナンバーの通知が始まる
マイナンバーは行政分野の効率化を進める切り札となる。何十年も前から導入が検討されながら、保有資産や収入がガラス張りになることを嫌う富裕層などの反対で、実現しなかった。ところが、「消えた年金」などの問題発生を受け、マイナンバー実施への機運が高まり、今回、実現する運びとなった。
これで、行政分野の効率化が大きく前に進む。「電子政府」の実現に向けて、重要な一歩となる。先を見ると、行政分野だけでなく、民間分野での利用も視野に入っている。ただし、マイナンバー情報のセキュリティ管理などのインフラが整うことが、利用拡大の鍵となる。
郵政3社上場
郵政民営化の仕上げとしてのグループ3社が上場する。親子上場という問題を抱えているものの、巨大な官業ビジネスを民営化し、効率化するための、重要な一歩となる。
JR・JT・NTTドコモなど、過去の大型民営化株は、10年20年かけて大きな成果を生んできた。長い年月をかけて経営を効率化し、成長産業になってきた実績がある。その成果として、当初IPO(新規上場)時の、公募・売り出し価格対比では、NTT以外は、いずれも株価が大きく上昇している。
郵政事業の収益改善は、5年くらいでは、大きな成果は出ないだろう。10年20年の時間をかけて、効率化や、業務範囲の拡大がゆっくり進むと考えている。
執筆者プロフィール : 窪田 真之
楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。