金融市場はデフォルトの可能性をどう見ている!?
ギリシャ政府は6月末に、IMFから受けた16億ユーロの融資を返済する必要があるが、EUやIMFから支援延長を引き出すことができなければ、デフォルト(債務不履行)となり「ユーロ離脱」を余儀なくされる見込みだ。
緊縮財政の放棄を宣言して選挙に勝ったギリシャのチプラス政権は、EUが要求する年金カットなど厳しい緊縮策をそのまま受け入れることができない。とは言って「ユーロ離脱」に突き進むこともできず、苦しい立場に追い込まれている。煮え切らないギリシャ政府に対して債権団は「緊縮策を受け入れなければデフォルト」と最後通牒を突きつけている。
こうした環境下、金融市場はデフォルトの可能性をどう見ているのだろうか。ギリシャ国債の利回りを見る限り、市場は「どうせギリギリで支援延長が引き出される」とタカをくくっているように見える。
ギリシャ10年国債利回り推移:2012年1月~2015年6月19日
ギリシャ国債のデフォルト不安が最高潮に達していたのは2012年1月である。この時ギリシャ国債が投げ売りされ、利回りは30%を超えていた。今もデフォルト不安が高まりギリシャ国債が売られているが、利回りはまだ12%までしか上昇していない。
ギリシャの信用不安は、2012年以降、緩和に向かっていた。ギリシャ政府は信用回復に向けた緊縮財政を実施し、EUによる金融支援も続いていた。利回りは昨年一時6%を割るところまで低下していた。
ギリシャは、反緊縮を掲げるチプラス政権が2015年1月に成立するまでは、信用回復に向けた取り組みが着々と進んでいた。その成果で、2008年にGDP比で14%を超える経常赤字を抱えていたギリシャは、2013年から経常黒字に転換している。
ギリシャの経常収支、対名目GDP(%):1990年―2015年
普通に考えると、ギリシャはギリギリまではらはらさせ、「土壇場でなんらかの妥協をして支援延長を引き出す」シナリオに落ち着く。
「不測の事態」が発生する可能性も
ただし、チプラス政権が態度をはっきりさせないことによって「不測の事態」が発生する可能性も出ている。ギリシャの銀行から、預金流出が止まらなくなっているためだ。
ギリシャ国民は銀行にお金を預けていることに不安を感じ始めている。もし、デフォルト→ユーロ離脱となれば、ギリシャは通貨ユーロを使用することができなくなるので、ギリシャの預金は「ドラクマ」に交換されることになる。その前に、ギリシャは銀行からの資金流出を抑えるために預金封鎖を実施することになる。通貨「ドラクマ」は対ユーロで急落し、ギリシャはハイパーインフレ-ションに見舞われるだろう。ギリシャ国民は、預金を引き出すことができない内に、預金価値の激減に見舞われることになる。そうなる前に預金を引き出す動きが静かに進んでいる。このまま預金流出を放置すれば、ギリシャ支援に必要な資金規模はどんどん膨らんでいく。
「ギリシャ一国ならデフォルトしても問題ない」という"開き直り"がEUに広がり
ギリシャを見るEU諸国の目は厳しさを増している。2012年当時は、EU全体に危機が広がるのを食い止めるため、ギリシャを何としてでも支援してユーロ解体が始まるのを防ぐ強い意思がEUに働いていた。今は「ギリシャ一国ならデフォルトしても問題ない」という開き直りがEUに広がっている。
2012年にはギリシャだけでなく、スペイン・イタリア・アイルランド・ポルトガルなどEUの多重債務国に信用不安が広がっていた。このため、ギリシャを切り捨てると、危機がEU全体に広がる可能性が高かった。ところが、欧州の多重債務国はその後、粛々と緊縮財政を続け、信用回復に成果を上げている。そのため「なぜわがままを言い続けるギリシャを支援し続けなければならないのか」という不満がEUに広がっている。
今回は、ギリシャが小手先だけの緊縮策を提示して、支援延長を取り付けようとしても、EUは簡単に妥協しない可能性もある。ギリシャ・デフォルトのシナリオも、まったくないとは言えない状況である。
執筆者プロフィール : 窪田 真之
楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。