「取材に行きましょう」

電話の声の主は編集部の担当C氏である。
野口「わかりました。しかしまさかタイトルが『趣味的第一種接近遭遇』だからって、いきなりUFOを呼び出せとか、ゲテモノを食べろとか、スカイダイビングしろとかそういう類いではないでしょうね」
C「ははは、まさか」

電話越しにもかかわらず、私にはC氏の笑っていない目がはっきりと見えた。こちらはあわてて代理企画を提案する。
野口「豆本の展示即売会なんかどうでしょう? こうした草の根的なイベントもなかなか見逃せないと思うのですが」
C「まあ、いいでしょう」
……なんとなくその場しのぎの気がしないでもない。

さて今回お邪魔したのは、4月に東京卸商センターで行われた豆本即売会の「まめまつり」。豆本と言うと、なんとなく芸術家肌のご老人が多そうな渋いイメージが漂うが、私と担当C氏を待ち受けていたのは、予想に反して会場の大半が女性という、ファンシーさにあふれたイベント会場だった。

会場となった東京卸商センターの入り口付近。殺風景な通路と業務用エレベーターが怪しさを醸し出す……

会場は入り口付近とうって変わって大盛況! この日は120点のサークルが参加し、約500人が集まったとか

女性中心のイベントだけあって、まったりした雰囲気にあふれている。窓の外には屋形船と隅田川。平和だ……

野口「……我々、浮いてますね」
C「どう見ても男ふたりで来るところじゃないね」

会場には豆本のほかに、小物やアクセサリー、ポストカードなど、手作り感覚にあふれた様々なグッズで賑わっており、小物好きの女性ならあっと言う間に時間が経ってしまうことだろう。大学生、家族連れ、主婦サークルから年配のご婦人まで様々な豆本ファンが参加しており、会場はさながら世代を超えた、手芸部と文芸部の合同展示といった雰囲気だ。「ホビー」とひと口に言うと、プラモデルやラジコンといった男性的なものが目立ちがちだが、こうした場に来てみると「手芸」という、女性向けホビーの存在の大きさに改めて気づかされる。

ファンシー! 作者のイラストレーター、古賀さんははるばる福岡からいらしたとか

やはりファンシー! どのブースも女性らしい飾りつけがされているのが特徴的。豆は子供たちにも人気だった

超ファンシー! 豆本ならぬ豆ビン入りのカエル。豆本だけでなく、自作アクセサリーなど小物関係もたくさん

とにかくファンシー! 編みメーター(!)のやたみほさん作成による編み物豆本。ひとつ作るのに約6時間とか

もちろん手描きで描かれた昔ながらの豆本も。アーティストの縷衣香さんが日本神話などを題材に描いたもの

ポルトガル旅行をフォトエッセイとしてまとめたjourney journalさんの豆本。写真やデザインなどかなり本格的

海外出身の方も。Joei Lauさんの豆本 -Growing Up in a Chinese Family カリグラフィー作家のJoeiさんは都内で教室を開催中

各サークルをまわるうちに、豆本に2タイプあることがわかってきた。ひとつは1冊1冊手描きで作る昔ながらの豆本。もうひとつはプリンタで印刷して作る豆本。手軽さもあって、現在の主流はやはり後者だが、手作り豆本の「世界でひとつだけ」という魅力にも根強い人気がある。参加者にとってはアイテム自体が小さいため、荷物が少なくて済むのもメリットだという。そのため、自分のスペースを飾りつけるための道具も余分に持ってこられるのだとか。分かれて取材していた我々はしばらく経って合流する。

C「なかなかいいイベントじゃない」
野口「しかしCさん、まわりは悠々自適に趣味を楽しむ素敵なご婦人方ばかりです。このままじゃオチがつきませんよ!」
C「アンタ、そんな心配しとったんかい」
野口「あっ、あそこに我々と似たオーラを持つ方々が! Cさん、行ってみましょう」
野口&C「ゲエッ!……こっ、これは!?」

最後に待ち構えていた掟破りの逆ファンシー!! 屈強な男たちが大暴れする、水星工房さんの豆本童話。ただ我々と同様、まめまつりでは若干浮き気味

野口「……いやーよかったよかった。おかげで無事取材を終えることができました」
C「気が済みましたか」
こうして豆本の素敵な世界との接近遭遇を果たした我々は、ホビーの世界の奥深さと、最後にオチがついた安心感を噛み締めながら帰路に着いたのだった。