FXのコストは、一般的には3つあると言われている。為替手数料とスプレッド、そしてスワップポイントの差額がそれだ
為替手数料は、通貨を売ったり買ったりする際の売買手数料を指す。そしてスプレッドは、売りと買いのレート間にある価格差だ。これらについては、すでにFXを利用している方ならご存知かと思うので、これ以上の説明は不要だろう。
スワップポイントの差額については、これをコストと思うかどうかは人によって違うとは思うが、厳密に言えばコストに含まれると考えて良いだろう。最近は、受け取るスワップポイントと支払うスワップポイントが同額というFX会社も増えているが、かつては両者に差額があるのが普通だった。
ここに挙げたコストについては、基本的にかなりの程度まで少額化が図られてきた。為替手数料は無料、スプレッドも1pipsというFX会社もかなり増えている。このうえ、スワップポイントの受け払いについても同額ということになれば、これはもうほとんどコストなしでトレードできると考えても良いだろう。
ただ、投資家が負担すべきコストがどんどん極小化していくと、果たしてFX会社はどこで収益を上げるのかという疑問が生じてくる。
以前、このコラムで顧客の注文を呑んでしまうFX会社があることに触れたことがある。顧客の買い注文は自社の売りポジション、顧客の売り注文は自社の買いポジションとして保有し、基本的にカバー取引は行わない。一般的に、投資家の平均的な勝率は3割と言われているため、顧客の注文をすべて呑んでしまえば、7割方の確率でFX会社は儲けられることになる。
ただし、カバー取引を行わなければ、FX会社はリスクを負うことになる。7割方儲かるなどと言っても、残り3割の負けで大きくやられたら、FX会社の財務状況は大きく毀損することになる。実際、サブプライムローン問題が浮上してからの、為替レートの大きな変動のなかで、カバー取引を行わずに大きな損失を被ったFX会社もあると聞く。
より安全に、FX会社自身が傷つかない形で顧客にコストを転嫁できる方法はないものか。恐らく、そのようなことを考える業者もいるはずだ。ひとつある。それがスリッページだ。
投資家のなかにも、一度や二度は経験したことがあると思う。たとえば、リアルタイムレートをウォッチして、タイミングよく注文を出したはずなのに、自分が出したタイミングのレートからかけ離れたところで約定されてしまうというケースだ。1ドル=95円50銭で米ドルの買い注文を出したはずなのに、実際に約定されるレートは1ドル=95円60銭だったりする。逆に、1ドル=95円50銭で米ドルの売り注文を出したはずなのに、1ドル=95円40銭で約定されてしまう。なかなか、自分が思っているレートで注文が入らない。これがスリッページと呼ばれる現象だ。
確かに、市場の流動性が損なわれていたり、レートが乱高下したりする局面で、時々この手の現象が生じるのは、仕方のないことだ。実際、インターバンク市場でも、マーケットが荒れている時など、スプレッドを広げてレートを提示するケースがある。
しかし、あまりにもスリッページが頻発するようなら、何か意図的にレートを動かしているのではないかということを疑った方が良い。為替手数料無料、スプレッド極小を謳っているFX会社のなかには、スリッページが頻発するところが少なくないという話をよく聞く。そして、スリッページによって、リアルタイムレートと実際に約定されたレートとのズレの部分については、FX会社の収益になる。実質的に、投資家はこの分のコストを背負っているのと同じだ。
自分が思ったように約定できるかどうかは、何度かトレードを繰り返しているうちにわかってくる。もし、あまりにもこの手の現象が頻発するようなら、FX会社にクレームを入れても良いし、あるいは他のFX会社に替えて、二度とそことは取引しないようにするのが賢明だろう。
執筆者紹介 : 鈴木雅光氏(JOYnt代表)
主な略歴 : 1989年4月 大学卒業後、岡三証券株式会社入社。支店営業を担当。 1991年4月 同社を退社し、公社債新聞社入社。投資信託、株式、転換社債、起債関係の取材に従事。 1992年6月 同社を退社し、金融データシステム入社。投資信託のデータベースを活用した雑誌への寄稿、単行本執筆、テレビ解説を中心に活動。2004年9月 同社を退社し、JOYntを設立。雑誌への寄稿や単行本執筆のほか、各種プロデュース業を展開。