父親が家庭で抱えるつらさとは?

今回は、共働きで子育てしている父親が家庭で抱えがちなつらさについて考えます。

将来を具体的に要求されるのがつらい

日本では男性に比べて相対的に女性の賃金が低いので、女性の場合は結婚することによって、ようやく将来を描ける人が多いという現実があります。だから、女性は結婚する前から住居や子どもの数、住む場所などを具体的に考える傾向があるわけです。

一方で男性は、何も考えていない人が少なくありません。「彼氏に結婚したあとの具体的なビジョンを語ったら、別れを切り出された」という女性の話を聞いたことがあります。なぜそうなるのか。それは、男性が結婚によって自分の生活が変わってしまうのを恐れる傾向があるからです。

女性に比べて相対的に賃金が高くなる男性は、今までどおり働いていれば生活していけるわけですから、何も変わらない、変えたくないと思ってしまいがちです。何も変わらないであろう日常を期待していた中で、急に具体的な将来の話が出てくると、自由を失うような気がして逃げたくなってしまうのです。

これは結婚してからの家事や育児にも言えることです。自分の育った昭和の家族のように「男は仕事、女は家庭」と分業しようと思っているところに、子どもをいつ何人つくるのか、受験をどうするか、教育費をどのようにためていくかなど、将来の家族生活について具体的に考えなければならなくなると、男性は面倒臭いと思ってしまいがちです。

家は「くつろぐ場所」だと思っている

さらに、男性は家で「くつろぎたい」と思っているのが実情でしょう。「くつろぐ場所」だと思っている家で、家事や育児をふられると、「俺はどこで休めばいいんだ! 」となってしまうのです。ただし、いままで述べてきたことは、全て男性の側が意識を改める必要があると僕は考えています。働いていてさえすれば全て許されるはずだというのは男性の言い分で、これまでは女性が我慢することで関係が成立してきたのではないでしょうか。

専業主婦の女性は、24時間態勢で家事・育児に取り組んでいます。たまには自分が子どもを連れて外出して家でゆっくりしてもらったり、家で子どもと留守番をして自由にショッピングに行ってもらったりすることも大切です。妻がパートでもフルタイムでも、共働きの家庭では、夫婦共に家事・育児に責任を持つことが必要になってきます。

育児に関わりたくても関われない

ただ、男性の「働くしかない現実」については、女性にも理解してもらいたいとは思います。今の日本では、「男性が最低限1日8時間、週40時間、40年間働くのは当たり前」という現状があるということは前回説明しました。そうすると、「育児休業」というカードを切るのはとても難しいことだと思います。「当たり前」の働き方もできないのかという上司からの評価になってしまうからです。

結果としてほとんどの父親は初期の段階で育児にコミットできず、子どもとの接し方が学べなくなってしまいます。里帰り出産をしたら、確かに仕事に専念する上では好都合かもしれませんが、自宅に帰ってくるまでは自分の子どもに会う機会すらありません。当然子どもは母親になつきます。子どもからしても、あまり家にいない父親に親しみを感じにくいかもしれません。

目の前に立ちはだかる「働くしかない現実」は、子育てに関わりたいと考えている男性にとってはあまりにつらい現実です。「子どもは母親に任せてお給料だけ入れていればいい」という時代にはなかった苦しみだと思います。悲しいことに、「定時」で仕事を切り上げて帰宅することもままなりません。本来であれば「例外」であるはずの残業が「普通」になり、その感覚から8時間という「普通」の労働時間が「手抜き」に見えてしまっているのです。

定時で帰宅し、19時には家に到着すれば、子どもとごはんを食べてお風呂に一緒に入ることくらいはできます。さらに早く18時に帰宅できれば、晩御飯の用意をすることもできます。しかし残業が「普通」になってしまっていたら、平日は子どもがすでに寝てしまっていて、会う時間すらとれないということになりますよね。いきなり育休や時短勤務は難しくても、せめて定時で帰宅することができる社会になったら、父親はもっと楽に家事や育児に参加できるようになると思います。

3回目までは、共働きで子どもを育てる父親が抱えるつらさについて解説しました。次回からは、どのようにしたら母親・父親ともに生きやすくなるのかについて考えていきます。

※写真と本文は関係ありません

著者プロフィール

田中俊之
武蔵大学社会学部助教。社会学・男性学を主な研究分野とし、男性がゆえの生きづらさについてメディア等で発信している。自身も0歳児の子どもを持つ育児中のパパ。単著に『男性学の新展』『男がつらいよ』『男が働かない、いいじゃないか! 』などがある。