おじいちゃん、おばあちゃんの家に親戚が集まり、かるた遊びや百人一首などをしてお正月を過ごす―。昔はそうして新年を楽しむのが、ごくごく普通のことでしたよね。今、そんな風に「かるた」に親しんでいる方はいますか?

「かるたは子どもの遊び」と思われているかもしれませんが、その多彩なデザイン、芸術性など、かるたは実に味わい深いものです。実際、中高年女性を中心に「かるた人気」は高まっているとか。日本唯一といえるかるたの専門店「奥野かるた店」で話をうかがいました。

奥野かるた店の外観。看板もどこかレトロで印象的

京かるたと江戸かるた

「いろはかるた」はかつて京都が本場でした。それが江戸にも広まりますが、詠まれる内容は異なります。最初の「い」の場合、「犬も歩けば棒にあたる」。これは江戸かるた。京では「一寸先闇の夜(または、石の上にも三年)」です。「ろ」は江戸が「論より証拠」で京は「論語読みの論語知らず」。

以下、江戸、京の順に「花より団子」「針の穴から天覗く」、「にくまれっ子世にはばかる」「二階から目薬」、「骨折り損のくたびれ儲け」「仏の顔も三度」……と続きます。しかし、「つ」だけは「月夜に釜を抜く」でどちらも同じ。ちなみに最後は江戸が「京の夢大坂の夢」、京は「京に田舎あり」です。

「江戸いろはかるた」「京いろはかるた」にはことわざの解説もついている

奥野かるた店は創業1921(大正10)年。現在、取締役会長を務める奥野伸夫さんの父親が、京都のかるたや輸入品のトランプなどを扱う事業を東京で始めます。しかし、それ以前、祖父の奥野籐五郎は将棋の駒や盤を製作する店を開いていました。

「祖父は棋士であり、また駒を彫る駒師でした。当時、地方の駒の文字は草書でしたが、東京の駒は今のような洗練された文字で、祖父の下で修業した人が、駒の生産で知られる山形の天童市へ現在の楷書の書体を持ち帰ったのです。ただ、その頃、将棋の格は囲碁より低く、祖父は熱海に逗留したりして将棋を教え、収入を得ていたようです。父は将棋を嫌い、かるた店を開いたわけです」

昔の棋士というのは不安定な仕事と思われていたため、奥野さんの父親は問屋業になったそうです。しかし、現在も店内には日常的に使うものから高級品まで、将棋や囲碁関連の商品がそろっています。

味わいのある「かるた」は必見

奥野かるた店には、昔のかるたなどを再現や復刻したオリジナル商品が多数あります。かるた専門店として90年近い歴史を誇っているのは、このオリジナル商品のおかげ。年に2、3種類は企画し続けているそうです。

最近は漢字の学習や恐竜、花や鳥などをモチーフにしたものが、子どもたちの人気を得ています。遊びながら文字や知識を身につけることができるため、教育現場でも活用されています。

漢字の部首を組み合わせたり、絵の中から漢字を見つけたり、恐竜について学んだり。さまざまなシリーズがある

1949(昭和24)年に『暮しの手帳』に掲載された料理の心得を記した「お料理いろはかるた」、1937(昭和12)年に築地で作られたというかるたの復刻版「お魚かるた」などは、懐かしいと思われる方も多いようです。

「お料理かるた」の題字は『暮しの手帳』の名物編集長だった花森安治

さらに伊藤卓美の版画シリーズには、温かみがあり味わいのあるかるたの数々がそろいます。花をテーマにしたもの、日本各地に昔から伝わる玩具を取り上げた「郷土玩具いろは」、また宮沢賢治の世界を再現したかるたなど、鑑賞しているだけでもこころが和みます。思わず作品世界に引きこまれることは間違いありません。

伊藤卓美の版画作品には独特の風合いが感じられる

最近人気が高い家紋のかるた

また、童画家・童話作家の武井武雄の作品は特にファンが多いとのこと。「亡くなってから25年経ちますが、いまだに根強い人気を誇っていますね」と奥野さん。2階の一角には特設コーナーもありました。その絵と文字には誰しも、にっこりと微笑むはずです。

今でもたくさんのファンに愛されている武井武雄の作品

奥野かるた店では、芸術的な価値の高いかるたや百人一首なども鑑賞できます。現在は、大牟田市三池カルタ記念館の所蔵作品も展示中。こちらも普段はなかなか見られない、一見の価値があるものばかり。そのほかにも地方ごとに違った花札、珍しいトランプや、昔懐かしい遊び道具、さまざまなボードゲームなどがそろっています。

定番の百人一首もいろいろとそろう。4万円以上の高級品も

意外と売れている百人一首CD。練習用と鑑賞用の2枚組

最近出版された新書。奥野さんも文章を寄せている

三池カルタ記念館の所蔵品。絵巻物の一部を見ているようだ

テレビゲームに熱中している子ども(と、大人)たちも、かるたなど昔の素朴な遊びに改めて触れるとその奥深い魅力に引きこまれてしまうのではないでしょうか。今年のお正月は、もう一度その温もりを我が家で感じてみませんか?

なお、2月中旬から下旬にかけては特別セールが開催される予定です。思わぬ掘り出し物に出合う可能性があるかもしれません。詳細は同店ホームページ等でご確認を。