就職活動をするうえで、まず大事なことが企業研究だ。就活生に人気の企業ランキングをチェックする方も多いと思うが、就活生からの評価ではなく、取引先からのリアルな評価はより参考になるだろう。Sansanが提供する学生向け企業研究レポート「ECS for アカデミア」の企業ランキングから、同社研究開発部 R&D SocSciグループ シニアリサーチャーの真鍋 友則に解説をしてもらう。
企業にとって、ステークホルダーからの良い評判は競争優位性の源泉であり、重要な資産である。特に昨今のコロナ禍のような経済の不透明性の強い時代には、日頃からのステークホルダーとの信頼形成の重要度がより増しているとも考えられる。
当記事「ビジネス関係者から評判の良い金融系企業ランキング」では、ステークホルダーからの評判を指標化した「Eight Company Score (ECS)」に基づいたランキングを解説。なおSansanが提供する学生向け企業研究レポート「ECS for アカデミア」では1400社強について、このスコアを公開している。会社選びの参考にして欲しい。
「Eight Company Score」とは
「Eight Company Score(以下、ECS)」は名刺アプリ「Eight」のアンケート調査に基づき、対象企業の名刺所有者におけるその企業の評判を収集・定量化したスコアである。評価対象者が名刺所有者であることから、企業とビジネス上の接点を持つビジネスパーソンからの評判が収集できる仕組みとなっている。
評価者は0から10の11段階で企業を評価する。評価項目は「ブランドの魅力」「製品・サービスの有用性」「人の好印象」の3項目。1企業あたりの回答人数は平均およそ130人となっている。回答者のレーティングを認知のレーティングでウェイトをかけた平均値を各項目のスコアと定めた。さらにそれらのスコアを総合したECS総合スコアを算出している。
また、評価者はレーティングの他に、その企業についての自由な印象も記述する(自由記述文)。このテキストからも、企業の評判の傾向を把握することが可能である。
金融業界ECSランキング結果、1位は?
2021年における金融業界部門のECS総合スコアランキング Top 10 を、下記の表1に記している。今回の調査では調査対象の金融系企業104社の中で、「レオス・キャピタルワークス」が総合スコアで1位であった。その後は2位「東京海上日動火災保険」、3位「日本政策金融金庫」、4位「沖縄銀行」と続いた。
調査項目別に見た場合、「ブランドの魅力」では「東京海上日動火災保険」、「製品・サービスの有用性」では「日本政策金融公庫」、「人の好印象」では「レオス・キャピタルワークス」がそれぞれ1位であった。
評価総合1位「レオス・キャピタルワークス株式会社」の特徴
2021年上半期のECS総合スコア1位であった「レオス・キャピタルワークス株式会社」が、取引先やビジネス関係者からどのように見られているのかを、ECSのデータから読み解いていこうと思う。
図1はレオス・キャピタルワークスに対するECSの自由記述文の特徴を可視化したものである。文字の大きさは特徴度(頻度×特異度)に比例している。「ひふみ」と「藤野」という単語が目立っている。「ひふみ」はレオス・キャピタルワークスの主力の投資商品である「ひふみ投信」「ひふみプラス」、「藤野」は代表取締役会長兼社長の藤野英人氏に由来するワードである。
このようにレオス・キャピタルワークスにおいては、主力商品の名称と代表の名前がビジネス上の繋がりのある人々の中で高く認知されていることがわかる。これは主力商品の位置付けが明確でありそのブランドが確立されていることや、藤野英人氏がメディアへの露出や著作の出版などの情報発信を積極的に行っており、その主張や存在感が強く印象付けられていることの表れであると考えられる。
実際「ひふみ」に言及している実際の自由記述文には次のようなものがあった。
「ひふみという素晴らしい投資を運用されている会社と思います。もっと多くの方に知ってもらえるようになるといい。また、国内の会社にもっと積極的に投資されて日本をもっと元気にしてほしいと思います」(製造業、課長)
「ひふみ投信の会社顧客に信頼され、確固たる信念を持って金融商品を取り扱っているイメージ」(食料品, 一般社員)
やはり、ひふみ投信と企業が結びついて認識されていて、この商品のパフォーマンスやブランドが企業のブランドにに貢献している事が伺える。
また、藤野氏に関するコメントには次のようなものが見られた。
「代表の藤野さんの著書をいくつか拝読し、人柄にも魅力を感じております。人のことを大事にし人間味があり、それでいて投資に関する冷静な判断があり、そのような姿勢で投資商品も作られているのだろうと感じます」(会社役員)
「投資信託を広く普及させた功績が大きい。 特にCEOの藤野さんの影響力が強い」(サービス業、部長)
代表が経営理念やメッセージを外部へ積極的に打ち出しているその透明性と責任感が、やはり企業のブランドを支えているように思える。
ここまで、レオス・キャピタルワークスのブランド上の強みが固有の商品や代表の情報発信にあることを見てきた。
なお、一般に特定の商品や人物の印象が特に強い企業においては、その商品や人物に関する評判の変化が、企業全体の評判の変化により強く関連すると考えられる。会社選びの中で、その主力商品や代表等の人物の主張やメッセージに対して自分が共感できるかどうかを予め調べておくことは、判断材料のひとつとして重要であろう。
「レオス・キャピタルワークス株式会社」の取り組み
レオス・キャピタルワークスは「人の好印象」スコアが金融系企業で最も高いという結果も示していた。このような企業では対外的な活動においてどのようなことを実践しているのだろうか。
例えば、同社の経営理念を見ると、「資本市場を通じて社会に貢献します」と社会貢献に明確にフォーカスしたシンプルな一文となっているのが目を引く。また、バリューの項目には「一日一笑」という項目があり、「わたしたちは、「柔らかなコミュニケーションをする」ことを大切にします。」と記載されている。金融系の企業としてはユニークなバリューと言えると思うが、このバリューの実践や、それを背景とした社風が、顧客やビジネス関係者から見たときの「人の好印象」の高さにつながっているのかもしれない。
また、同社はコミュニケーションの媒体としてYouTubeなどを早くから活用しており 、情報発信や運用報告などを行っている。このような大手金融機関と比べると柔軟なコミュニケーションスタイルが、ビジネス関係者における親しみやすさや信頼感を醸成してきたのかもしれない。
会社に入るということは、その内部の社員のみならず、取引先などこれまで会社が築いてきた外部のコミュニティとの関係性を引き継ぐということでもある。したがって、事前に会社を取り巻くコミュニティとの関係性の質を知っておくことも、会社選びのための重要な視点のひとつとなるだろう。
地銀のランキング、1位は?
表1の総合ランキングでは、「沖縄銀行」(4位)「琉球銀行」(6位)といった地方銀行がランクインしている。
ECSのコメントを見ると「地元に密着した地方銀行 地域貢献などにも力を入れていて、大変好感の持てる企業です。」(医療、課長) 、「県内で信頼できる銀行」(公務員、課長) など、地域密着型で地元企業や地元の利用者から信頼されていることが伺える。地域社会への貢献に関心のある就活生には選択肢のひとつとなり得るだろう。
以下の表2にて、ECSの地銀ランキングTop5を掲載する。
なお、沖縄銀行と琉球銀行は2021年1月に包括業務を締結し、「県経済の発展に資する協業」「バックオフィス業務の共同化によるコスト削減」を打ち出している。 コロナ禍で打撃を受けた地域経済下でのこのような取り組みがビジネス関係者から評価された可能性もある。
コロナ禍での役割が企業イメージに反映
コロナ禍での金融機関の活動に対する言及は、上記のような地銀の他にも見られる。例えば、総合ランキング3位の日本政策金融金庫に寄せられたコメントには「コロナで困っているときに親身になってくれた。」(経営者)、「コロナ過で融資ができることに安心感があります。」(小売業、経営者) などがあった。これは日本政策金融金庫の「新型コロナウイルス感染症特別貸付」の制度が役立った関係者が一定いたこと、さらにその施策が企業のイメージとして印象付けられたとことを表している。
就活人気ランキングとの比較
これまで見てきたように、名刺所有者という企業のビジネス関係者からの評価には、提供するサービスの質に加え、対外的な関係性構築における心構えや会社のカルチャー、地域社会との結びつき、コロナ禍のような経済的な危機における役割などの要因が反映されていることがわかる。この評価のランキングはいわゆる「就活人気ランキング」とは幾分異なった結果となっているように見える。ここで、実際にどのように違うのかを見てみよう。
図2はキャリタス就活というサイトの「2022年卒の学生が選んだ金融業界注目企業ランキング」における Top20企業(※注)の人気のポイントと、ECS総合スコアを比較したものである。横軸にECS総合スコア、縦軸にキャリタス就活ランキングのポイントをプロットしている。このデータセットでは、図からわかるように、両者に強い相関関係 (片方の変数の上昇に伴いもう片方の変数も上昇している傾向)は見られない。就活の人気とビジネス関係者からの評価は必ずしも一致していないことがあるということだ。
※注:ただしランキングの上位企業のうち、ECS調査企業ではない企業(日本銀行、国際協力銀行、明治安田生命保険、商工組合中央金庫、AIGグループ、住宅金融支援機構、岡三証券、NECキャピタルソリューション)は除いている。
図2の右上は、ビジネス関係者からの評価も就活生からの人気もどちらも高い企業が位置している。「三井住友銀行」がそれに該当する。一方、右下はビジネス関係者からの評価は高いにも関わらず、就活人気は相対的に低い企業が位置する。「日本政策金融公庫」「東京海上日動火災保険」「三井住友カード」などが該当する。
もちろん、就活人気が相対的に低いとは言ってもTop20にランクインしている企業であるから全体の中では極めて高い方である。今後、このような分析をより多くの企業のデータを用いて行うことで、就活人気とのギャップを抽出して、就活生の知らない優良企業を発見していくことも試みていきたいと考えている。
このように私たちのECSは、企業が社会に対してどのようなコミュニケーションを行い、どのような価値を提供しているか、そしてどのように受け止められているかを、名刺所有者というビジネス上の接点と繋がりを利用して知ることのできるデータである。是非ともECSAのサイトやレポートを活用いただければ幸いである。また、この連載では様々な業界についてECSの分析を行いながら、企業の社会的なイメージを解き明かし、企業研究に役立つ知見を提供していきたいと思う。