赤れんが倉庫と聞くと、横浜や函館のベイエリアを思い浮かべる人が多いと思いますが、北海道札幌市の隣にも、日本有数の生産量を誇る「れんがの街」があります。それは、札幌市の東部に隣接する江別市。2016年、この街ならではの魅力を存分に楽しめる商業施設「EBRI(エブリ)」がオープンし、江別市の人・もの・産業の交流の場、観光拠点として賑わっているようです。
本特集では、EBRIを中心とした地域経済活性化の取り組みについて紹介します。
北海道開拓を支えたれんが
江別のれんがは、2004年に北海道遺産に選ばれ、街を歩けば図書館やバス待合所などれんが造りの建物をたくさん見かけます。北海道のれんがの歴史は古く、江別市に最初のれんが工場ができたのは1891(明治24)年で、現在まで120年以上の歴史を重ねてきました。
明治は北海道の開拓期。れんがが大量生産されて鉄道や炭鉱施設など北海道の近代産業を支え、最盛期には江別市の野幌駅を中心に15社の工場が稼働していました。でも、戦後はれんが需要が減少し、工場がどんどん閉鎖されていきます。現在、北海道の主な生産地は江別市だけとなりましたが、今でも日本有数のれんが生産量を誇っています。
歴史的建造物を再生し地域活性化事業がスタート
今回紹介する「EBRI」も、1998(平成10)年に廃業した土管製造工場であった「旧ヒダ工場」が原点です。文化的価値の高い赤れんがの建物を保存・活用するために工場跡と敷地を江別市が取得しました。EBRIとは、江別【EBETSU】とれんが【BRICK】を組み合わせたオリジナル名称です。
歴史的建造物を再生し、江別市らしい施設づくりのために民間のアイデアを生かそうと、2014(平成26)年に事業者を公募。商環境デザイン・設計等を手がけるストアプロジェクトと連携することとなり、20年後を見据えた地域経済活性化事業がスタートしました。
EBRIを拠点に「江別市の魅力」を発信
江別市観光振興課 主事 森本翔子さんに、EBRI誕生からこれまでの市民の反応などをお聞きしました。
「旧ヒダ工場の赤れんがの建物は、JR野幌駅に近く、線路に面して車窓からも見えることから市民に愛されてきました。赤れんがの外観をはじめ建物の価値を十分に生かしてリノベーションし、個性的なテナントが集うEBRIとして生まれ変わり、市民はもちろん市外の方にも江別の魅力を発信している場となっています」(森本さん)
EBRIのグランドオープン前から市民に建物内部を公開して、地元中学生オーケストラによる演奏会を開催するなど、アピールに力を尽くしてきました。2016年3月のオープン後は、「なつまつり」や「ものづくりワークショップ」、音楽イベントなど、市民に気軽に足を運んでもらえるようさまざまなイベントを企画しているそうです。
「市民の認知度は高いと思います。野幌駅から近く、おしゃれで、ゆったりできる場所なので、私自身ランチなどによく訪れています。今後もEBRIは人・もの・産業の交流の場として地域活性化の一翼を担っていくと思います」(森本さん)
地域活性化の役割を担うため、たとえば、EBRIにある「江別アンテナショップGET'S(ゲッツ)」は観光案内所として、市内のお勧めスポットやイベント情報などを提供しています。
「江別市は、豊かな自然に包まれた街です。小麦や地場産野菜にも恵まれた“食と農”の街でもあり、素材の良さを生かした飲食店も多彩です。江別市ならではの魅力をさらに磨き上げて価値を高め、プロモーションなどを通してアピールし、この街の面白さを広めていきたいです」(森本さん)
2019年3月に、国の登録有形文化財に登録されたEBRI。日が落ちるとライトアップされ、あたたかな光が赤れんがの外観をさらに味わい深く、幻想的な表情に映すそうです。
また2017年から始まった野幌駅北口前のロータリーを光のオブジェで彩る「NOPPOROイルミネーションプロジェクト」が今年さらに拡大され、冬には南口もライトアップされる予定。野幌駅からEBRIへ続く冬の街歩きが、ますます楽しくなりそうです。