前回のどこでもサイエンスでは、火星の大接近をご紹介しました。7月31日、楽しみですなー。ただ、接近といっても6000万キロメートルも離れておるのですね。でもまあ、これが北極星とかになると、ざっと400光年、約4000兆キロメートルです。うひゃー! でございます。ただ、思いますね「そんなの、どうやって測るんやー!?」…ということで今回は、星までの距離を測るお話でございますよー。
星は遠い、とてつもなく遠いです。そのうちで、近いものだけでも、ちょっと表にしてみましょうか…遠すぎて、距離の数字を入れてもまったく実感がわきませんねー。えっと、新幹線が時速300キロメートルで突っ走り続けて、どのくらいかかるかも書いておきますね。
天体 | 距離(km) | 新幹線でかかる日数 |
---|---|---|
月 | 40万km | 60日 |
太陽 | 1.5億km | 60年 |
土星 | 10億km | 400年 |
シリウス | 80兆km | 3000万年 |
北極星 | 4000兆km | 15億年 |
その辺にあるという月ですら、新幹線で2か月もかかるというのでございます。参考までにニューヨークまではざっと1万キロメートルですから、1日半というところですね。飛行機で半日かかりますから、新幹線結構速いですね。それですらでございます。
さて、そーんなに遠い距離ですが、どうやって測るんやろー、でございます。だいたい、ニューヨークまでの距離だってどう測るんよ、といいたくなりますな。とりあえず巻尺じゃあ無理ですね。むかーし学校の校庭で運動会のために先生が測っていたような記憶がありますが、100メートルでもしんどそうですな。
ただですね。4000年前のエジプトのギザにあるクフ王ピラミッドは、底辺が230mもあるんですよ。しかも四辺が等しいのです。つまり、230mをちゃんと測るということがやられたはずなのですね。これは、計測輪というのを使ったといわれています。ようは車輪が何回転したかで、距離を調べたということで、自動車の距離計と同じでございますな。まあ、手動でももうちょいがんばれば、2キロとかくらいはいけそうです。途中で数えまちがいそうですけどね。まだニューヨークにすら届いてないですが。だいたい海を渡れないじゃないということになります。
そう、車輪がいけないところが問題になりなすね。たとえば、川の幅などはどうしようということになります。そこで登場するのが、「三角測量」でございます。
三角測量は、人間が自然にやっていることです。両目をつかって、モノをみるだけて、モノまでの距離を推し量るということでございます。モノをみると、左目と右目では、見る方向がちょっと違いますね。その違いが、近いと大きく、遠いと小さくなります。ま、言葉でグチャグチャいうより、雑な絵いっちょの方が、わかりやすいですかねー。
さて、図を見るとわかるとおり、遠いと近いでは別の三角形が登場しますね。目の幅が同じならば、三角形の頂点(モノのところ)の角度がわかれば、距離の比がわかるというわけでございます。三角関数のサイン・コサイン・タンジェントは、ここに登場するわけですな。また、高校で登場する三角関数をつかわんでも、相似三角形という中学校でならうヤツを使ってもよいわけです。そうそう、目の幅は測らないといけません。
ということで、目の幅、まあベースラインとか基線とかいいますが、と三角形の頂点の角度、視差=パララックスといいますが、がわかればモノまでの距離がわかる。これが三角測量でございます。
さて、こんな話をするともう分かるかと思いますが、天体までの距離も基本は三角測量で測定するのですな。ただ、星は遠いので、目の幅にあたる基線を大きくとらないと、三角形の頂点にあたる視差が小さすぎて、測定ができないのでございます。
かりに左右幅が7センチメートルの目を基線にすると、モノが月(距離40万キロメートル=400億センチメートル)だとして頂点の角度はどれくらいかというと、7/400億ラジアンなので、えーっと、1ラジアンが57度くらいだから…1度の50億分の1くらいですな。分度器の1度の50億分の1を測れと、そんなんわかるわけがないですな。
ただ、これを東京とニューヨークの間の1万キロメートルを基線にすると、1:40ラジアンなので1度を超えるのです。東京とニューヨークで同時に月を見ると、1度ばかり位置が違うのですね。これは、背景にある星と比較すればわかりますから、同時に写真を撮影するといいですな。そういうのを中学生や高校生にやらせてみようってなキャンペーンもやられたようです。
ただ、実はですね。月までの距離はレーザー光線で直接測定できるんですな。たとえば、こちらの解説をごらんくださいませ。ただ、これ結構難しくて、フランスのニースなど国際的に2~3か所でしか成功していないとは聞いております。さらに、金星くらいだとレーダーで測定しています。また、太陽については、太陽の前面を金星が通過することなどを利用して間接的に距離が測定されています。太陽系の天体もそうで、位置関係の変化と天体の移動を牛耳る力学法則の理論を組み合わせて「こんくらいみかけで動いているのだから、これくらいの距離」という感じで求めていきます。
さて、三角測量です。基線を地球上においたくらいでは、シリウスなどにはまだまだたりません。そこで、地球が1年かけて太陽をめぐることを利用。たとえば秋と春に測定してその差を調べるってなことが行われます。
で、シリウスの場合だとその差が1万分の3度くらいでございます。これを測るんですねー。最近は人工衛星を使い、微小な角度を測定することでシリウスの1000倍、8京キロメートル、ざっと8000光年くらいまで測定に成功しています。まあ、肉眼で見える星ならすべてフォローできる感じですね。ハッブル宇宙望遠鏡による成果で、日本のアストロアーツ社が日本語の紹介記事を書いています。かなりマニアックな記事ですねー。天文ファンはマニアな人が結構いますから、ちゃんと意味がわかる読者がそれなりにいるんでしょうなー。
ところで、8000光年はいいけど、アンドロメダ銀河は200万光年とか、宇宙戦艦ヤマトで大マゼラン雲は14万8000光年とか(いまは17万光年くらいに訂正)いってたけど、あれはどうなってるの? あと宇宙が100億光年がどうのとか…はい、またの機会にご紹介いたします。
著者プロフィール
東明六郎(しののめろくろう)科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。