前回、融資は起業する際の現実的な資金調達手段ではないか、という話をしました。今回は融資について実務の視点から考えていきます。

融資を受けることは、端的に表現すれば、支払日と支払金額が定められた状態で資金調達をすることです。融資の契約を締結するにあたり、検討する要素は6つあります。「(1) 金額」「(2) 期間」「(3) 金利」「(4) 担保」「(5) 保証」「(6) 返済方法」です。各々について見ていきましょう。

(1) 金額

どのような企業であれ、無限に融資を受けることはできません。資金の使途を明確にする必要があり、使途に必要な金額を超えて借りることはできないのです。貸し手は複数の判断基準を持っており、様々な相場があります。

創業融資の場合は自己資金の金額が融資金額に大きく影響し、2017年現在の数字ですが、自己資金の1~2倍借りた事例を多く耳にします。4倍借りたケースがあるという噂も聞きましたが、稀だろうと思います。

無担保融資の場合、個人的には利益の5倍程度の金額、負債比率200%を目安にしていますが、最終的には貸し手との交渉の過程で個別の事情に合わせて条件が決まります。参考程度に留めていただければ幸いです。

(2) 期間

融資を返済する期間が1年までの場合を短期、1年を超える場合を長期と呼ぶ慣習があります。期間が長くなるほど返済が不確実になり、交渉も難しくなります。最初は短期で融資を受け、返済実績を重ねて信用を得て、長期の融資に取り組むケースが王道です。

地方自治体と金融機関が協力して実行される制度融資を利用するケースでは、申込の条件を満たすことができれば、初回の融資から長期で借りることができます。

無担保で運転資金を借りるケースでは貸し手によって検討可能な期間に差があり、都銀の標準は1年で頑張って7年、地銀の標準は3年で頑張って10年だと聞いたことがあります。信用保証協会付きの融資は7年での申し込みが多いという情報もあります。

(3) 金利

市場金利に連動して見直しのタイミングがある変動金利と、金利が一定である固定金利があります。変動金利はTIBOR(Tokyo Interbank Offered Rate)を基準に、固定金利は短期プライムレートを基準にすることが多く、相場は日本経済新聞にも掲載されています。提示される金利と基準との乖離が借り手の信用力を表します。

2017年7月現在、TIBORはおおよそ0.056%、短期プライムレートは1.475%なので、変動金利の方が低い状態です。制度融資はほとんど固定金利なので選択の余地がありませんが、制度融資以外では先々の金利を予測しながら指定することになります。

(4) 担保

融資を返済する元手として考えられるのは、将来得られる利益か、処分可能な資産です。資産を担保として設定することで、貸し手である金融機関は貸倒れリスクを低くすることができます。担保は不動産や有価証券のような換金性が高いものを利用することが多いです。 借り手側のメリットは、融資金額が大きくなり得ることと金利が下がり得ることです。

(5) 保証

万一借り手が返済不能となった場合に、誰が肩代わりするのかを定める条項です。大きく分けて、信用保証協会を利用する方法と個人保証をつける方法、保証をつけない方法があります。 信用保証協会を利用する場合、金利とは別に信用保証料が必要となり、かつ、信用保証協会に対して個人保証します。金融機関に対して個人保証する場合は、信用保証料は不要です。無保証の場合は、金融機関から見ればリスクが大きくなりますので金利が高くなります。

何故保証が求められるのか、貸し手の立場から考えてみます。融資が実行された後、企業が高額な役員報酬を支払い、即座に倒産したとしましょう。役員の個人保証をつけていれば、金融機関は資金を取り戻す余地があります。無保証の場合は役員に請求することができず、裁判に持ち込んだとしても訴訟コストは無視できないものになります。

保証はいわば貸し手をガードする役割があり、エクイティ・ファイナンスにおいて株式買戻請求権が設定されることを鑑みても、悪しき商習慣と一方的に断じることはできないです。

(6) 返済方法

元本相当金額を一度に支払う一括返済か、分けて支払う分割返済があります。分割返済するケースでは、毎月支払うことが多いです。例えば期間が5年であれば60回分割返済、8年であれば96回分割返済となります。

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以上の条件を交渉しながら契約内容をまとめていくのが、融資の実務です。

次回は融資についてより深く理解するために、出資と融資との違いについて説明します。

※写真と本文は関係ありません

執筆者プロフィール:千保 理(せんぼ ただし)

株式会社情報基盤開発 CFO(最高財務責任者)

ロンドン日本人学校中学部、東京学芸大学教育学部附属高等学校、東京大学運動会バドミントン部を経て、東京大学大学院経済学研究科修士課程企業・市場専攻修了。専門は企業金融(コーポレート・ファイナンス)。生命保険会社のシステム子会社にて勤務した後、東京大学発IT系ベンチャー企業である株式会社情報基盤開発にCFOとして参画。Microsoft Innovation Award 2015にて勤務先が優秀賞を受賞した際のプレゼンター。融資による資金調達を得意としている。