投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。これまで本シリーズで避けてきたテーマが「仮想通貨」です。実のところよく理解できていませんが、ここで一度触れておきましょう。

  • 仮想通貨を持つ意義とは

    仮想通貨を持つ意義とは

そもそも仮想通貨って?

今さらですが、仮想通貨とは何でしょうか。日本銀行の広報サイト「教えて!にちぎん」では以下のように解説されています(一部抜粋・要約)。

「暗号資産(仮想通貨)」とは、インターネット上でやりとりできる財産的価値であり、次の性質をもつ。

(1)不特定の者に対して、代金の支払い等に使用でき、かつ、法定通貨(日本円や米国ドル等)と相互に交換できる
(2)電子的に記録され、移転できる
(3)法定通貨または法定通貨建ての資産(プリペイドカード等)ではない

暗号資産は、銀行等の第三者を介することなく、財産的価値をやり取りすることが可能な仕組みとして、高い注目を集めました。

暗号資産は、裏付け資産を持っていないことなどから、利用者の需給関係などの様々な要因によって、暗号資産の価格が大きく変動する傾向にある点には注意が必要です。

また、暗号資産に関する詐欺などの事例も数多く報告されていますので、注意が必要です。

なるほど、仮想通貨は米ドルや円などの法定通貨ではないが、それらと交換でき、代金の支払い等にも使用できるということのようです。解説の後半部分はネガティブな色彩が強く、「積極的に使って欲しくない感」が滲み出ていますが、自分たちがスルーされるのだから無理からぬことかもしれません。

さて、その他のサイトなどでも、仮想通貨は決済や送金に便利でコストが安い等の利点が紹介されています。経済のキャッシュレス化とともに、仮想通貨が社会に普及していくというのであれば、今から保有しておいても悪くないかもしれません。 ただ、今や様々な決済サービスがあり、海外からのサービスや物品の購入もクレジットカードで簡単にできます。また、海外に送金するサービスも存在するので、筆者は全く不便を感じていません。むしろ、どのサービスを使うか迷うほど多くの選択肢があります。

したがって、仮想通貨が他のサービスで代替できないほど存在感を増してから、保有を検討すればよいと考えています。少なくとも現時点で、仮想通貨を持たなければならない理由はなかなか思い浮かびません。

仮想通貨を持つ2つの意義

ここで敢えて仮想通貨を持つ意義を考えてみると、次の2つではないでしょうか。

1つは、有事における資産保全や決済手段の確保です。もう1つは、ズバリ投資目的です。まずは有事における仮想通貨の有用性について考えてみましょう。

インターネットで調べてみると、2013年にキプロスで起きた金融危機に際して、仮想通貨が有用だったことが代表的な例として挙げられています。仮想通貨は、伝統的な金融システムの枠外にあるので、仮に金融システムが機能不全に陥ったとしても仮想通貨の取引は円滑に行われたのでしょう。

また、仮想通貨が政府や金融当局に管理されないということは、両者の政策の失敗からも悪影響を受けないということでもあります。例えば、日本の財政破綻や日銀の財政ファイナンス(国債の直接引き受け)によって、円が大幅に下落するケースなどが想定されます。

ちなみに、仮想通貨は発行上限が決まっているので、財政ファイナンスのように貨幣が際限なく発行されて価値が暴落するリスクはないようです。最近、MMT(現代貨幣理論あるいは現代金融理論)に基づいて財政ファイナンスにも問題ないとの論調もありますが、その考察は別の機会に譲りたいと思います。

仮想通貨は外貨資産より安全?

さて、筆者は常々、財政破綻や財政ファイナンスによる円の暴落が現実となる可能性はゼロではないので、一定割合の外貨資産を保有すべきだと考えています。外貨資産を持たないということは、円のリスクを100% 抱えていることだと。

ただ、厳密に言えば、外貨資産を持っていても安全とはいえません。外貨キャッシュをタンス預金している場合は別ですが、外資系を含む、日本に存在する金融機関は政府や金融当局に管理されています。そのため、有事に際して外貨預金や外国株、外国債券を自由に動かせなくなる可能性が高いからです。そういった点では、外貨資産よりも仮想通貨に分があるかもしれません。

ただし、日本で有事が発生して従来型の資産が棄損する可能性と、仮想通貨の相場変動や何らかの理由での取引停止等によって資産が棄損する可能性を比較衡量する必要はあるのでしょう。

最近流行りの「ステーブルコイン」は一定比率で既存通貨と交換できる仕組みのようですが、そうだとすると投資妙味はないかもしれません。

というわけで、次回は仮想通貨が投資に適しているかどうかを考察します。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクエア 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして活躍。 2012年、マネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。「投資家教育(アカデミア)」に力を入れている同社のWEBサイトで「市場調査部レポート」「スポットコメント」「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、動画サイト「M2TV」でマーケットを日々解説。