この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。

今回は、「社会インパクト投資(社会貢献事業投資)」を実践している、小倉優さんにインタビュー。借金から仮想通貨、株式暴落まで――失敗の連続を経て見えた“投資の本質”とは?

  • 小倉優氏/VALUEINVESTOR株式会社 代表。投資家がつくったバイクチーム「TEAM-8A」では、交通安全の大切さを啓蒙中

    小倉優氏/VALUEINVESTOR株式会社 代表。投資家がつくったバイクチーム「TEAM-8A」では、交通安全の大切さを啓蒙中

――小倉さんが投資を始めたきっかけは、なんだったのでしょうか?

小倉優氏(以下、小倉氏):ちょうど20歳の頃です。電車に乗っていて、ある大手ゼネコンが経営危機に陥っているというニュースを見ました。株価が8円まで下がっていたので、「これなら買える」と思ったんです。消費者金融で借りたお金をすべて、その株に投資しました。結果的に株価は2倍以上になり、売り抜けることができました。

そのとき、「リスクを取った人がリターンを得る」という感覚が身体に刻み込まれたのを覚えています。この体験が、後に24歳で起業するきっかけにもなりました。

また、自分でリスクを取って投資をすると、世の中から情報を得ようとします。経済、金融、流通、経営……、そういった情報に自然とアンテナが立つようになりました。知識も得られるわけですし、得た知識はだれにも奪えません。その蓄積も、自分の資産になっていると思います。

■仮想通貨の熱狂と、FXの大失敗

――その後も、さまざまな投資にチャレンジされたのですね。株式投資以外に、特に印象に残っている投資はありますか?

小倉氏:一番インパクトがあったのは、XRP(リップル。国際送金向けに開発された仮想通貨のひとつ)ですね。当時は暗号資産ではなくまだ仮想通貨と呼ばれていた頃でした。1XRPの価格が0.3円くらいのときに、コインチェックで5万円分くらい買ったんです。ご存じのとおり、ストップ高がない仮想通貨市場は日本株とは全く違う値動きをします。1日で10%、30%、さらにその30%と上昇することもあって、もうダイナミックそのものでした。

一方で、為替(FX)では本当にやらかしました。投資した大切な資金を、たったの2日で吹き飛ばしてしまったんです。当時はレバレッジ規制がまだなくて、300倍なんていう異常なレバレッジをかけられた時代でしたから。でもその失敗から、自分のメンタルと向き合う必要性を強く感じました。

為替を始めたのは、リーマンショック後でした。「FXで損した」という話を聞くようになって、「FXってなに?」「株はやったことがあるし、FXも株と同じでチャートが上がるか下がるか。それなら自分にもできるかも」と思ったんです。

XRP(暗号資産のひとつ)も含め、さまざまな投資をしてきましたが、今は為替オンリーです。ロット(取引数量の単位)を減らして、欲張らない投資を徹底しています。以前は、超短期トレード(スキャルピング:数秒~数分で売買)もしていたのですが、今は状況に応じてスイングトレード(数日~数週間)や、ときどきデイトレード(1日内で売買完結)を行っています。ロットを減らし、余力を残してナンピン買い(下落時に買い増して平均購入価格を下げる手法)という、コツコツ手堅い運用をしています。

■20代に戻れるなら「自己投資」にもっと時間を

――特技が人によって違うように、投資手法の正解は人によって違いますから、経験としてさまざまな投資をしてみるのは良いですよね。あくまでも「余力資金で」という前提ですが。もしも今、20代に戻れるなら、小倉さんはなにに力を入れたいですか?

小倉氏:今この瞬間に20代に戻れたとしても、金融などの投資をもちろんすると思います。それ以外でしたら、やはり自己投資ですね。英語をはじめとする語学、それに健康。暗号資産の世界では、情報が英語でしか出てこないことが本当に多くて、英文の情報の方が早いです。英文を読めないだけで、大きな機会ロスになってしまいます。AIで翻訳もできますが、ニュアンスの理解や、外国人投資家とのつながりなども考えると、やはり話せるにこしたことはないですね。

もう一つは“健康”です。運動を始めたことで、身体の不調が一気に改善されて、メンタルも安定しました。トレードにおいて一番大事なのは、実は“冷静さ”です。メンタルやテンションが一定になることで、含み損に耐えることもできるようになりました。それに早く気づいていれば、もっと効率よく成長できたと思います。

■「バイク旅×為替トレード」が社会貢献に変わるまで

――仲間とバイクチームをつくったりと、ユニークな活動もされていますよね?

小倉氏:バイクで日本一周しながら、旅費は自己資金を為替運用して賄うという企画をやったんです。結果的に旅費を差し引いても、70〜80万円はプラスで残りました。

でも、その旅の途中で「バイク事故で亡くなっている人が多い」という現実を知って、ショックを受けたんです。バイクが好きなみんなが「安全で楽しい豊なバイクライフを」と思っているのですが、悲しいことに1年間に5万件程の死傷者が出ています。

自分でもなにかできることはないかと、「TEAM-8A」という交通安全啓発のバイクチームを立ち上げました。最初は私一人きりでしたが、今ではTEAM-8AのアンバサダーのSNSフォロワー合計は33万人超。バイク女子などにも支えられ、社会的にも認知される活動に成長しました。立ち上げた当時、映画やアニメの東京リベンジャーズが流行っていたのですが、「一人だけのチームって」と、子どもには笑われましたね。

この名前は、バイカーは道でバイクとすれ違うと片手を挙げて「ヤエー」という挨拶をするのですが、その言葉がもとになっています。バイカー同士だけでなく、車にもこの挨拶文化が浸透して行けば、もっと交通に対しても、人に対しても優しくなれるのではないかと。道を譲り合えるくらいの心の余裕や豊かさを養っていけば、交通事故は減少して行くと思います。「バイク女子大名鑑」や「月刊交通事故ニュース」「日本一周リレーツーリング」など、面白い企画を考えながら、交通安全の啓蒙を続けています。

■投資は「波に飲まれず、波を読む」

――では最後に、これから投資を始める若い人たちに一言お願いします。

小倉氏:インデックス投資であれ、株式投資でれ、暗号資産であれ、値動きには必ず「波」があります。その波に飲まれるのか、それとも波を読んで動けるかは、日々の観察と経験にかかっています。なので、チャートは毎日見る方が良いですね。どんな市場にも暴落はつきものですが、実際にそれが来たら恐怖です。その恐怖に慣れ、「むしろ今、買えば良い」と思えるようになるには、経験がいると思います。知識として暴落の存在を知っていても、いざ数字が下がるのを目の当たりにすると耐えられず損切する人がほとんどです。

また、SNS等で流行っている投資法を鵜呑みにせず、自分なりに考えて試してみてほしいと思います。投資は、経験と反省の積み重ねでしか身につかないものです。損をしたときも、それを「授業料」として受け止める器があれば、後から取り返せます。20代で始めて損したとしても、それは最高の体験資産になるはずです。