Googleブランドマーケティングマネージャーの山本裕介さん

インターネットとみんなのアイデアで、女性が働きやすい社会をつくろう――。そんな目的で、Googleが2014年10月から展開しているのが「Women Will」プロジェクトだ。テクノロジーの活用による女性の活躍推進を目指し、アジア太平洋全域でさまざまな取り組みを行っている。同プロジェクトの具体的な内容について、Googleブランドマーケティングマネージャーの山本裕介さんに話をうかがった。

制度と風土を育て、テクノロジーを活用しよう

「Women Will」は、テクノロジーの活用促進によってアジア各国の女性が直面するさまざまな問題を解決することを目的として始められたプロジェクト。例えばインドやタイでは、一般の女性にインターネットの使い方を無償で教えている。ジェンダーギャップが激しく、インターネットに接続している人の7割が男性という現状があるからだ。

日本では、出産・育児期にあたる30代で女性の労働率が著しく減少するいわゆる「M字カーブ」の問題に焦点をあて、働く時間と場所に制約のあることが女性活躍における課題と分析。テレビ会議機能など、テクノロジーの活用を推進し、会社にいなくても会議に参加できたり、資料を共有できたりすることで、女性が働き続けられる可能性が広がると考えている。

「日本ではインターネット導入率は高いものの、テクノロジーをフル活用している企業はまだまだ少ない」と山本さん。例えばテレビ会議は導入率に対する利用率が半数以下に落ち込んでいる。さらに、在宅での会議参加には活用されていなかったり、直接顔を合わせて話さないと、自分の意図が正確に伝わらないという意識を持っていたりする人も多いのが現状だ。

それでは具体的に、これらの課題をどのように解消しようとしているのだろうか。1つ目の取り組みとしては、未来の働き方を実現していくためのアイデアを集めた「未来の働き方プレイブック」の作成があげられる。同社では、働く女性が活躍するために、

(1)柔軟で効率のよい働き方を支援する「制度」を整える
(2)それぞれのライフスタイルに合わせた働き方を尊重する「文化」を育む
(3)時間と場所にとらわれない働き方を「テクノロジー」で促進する

の3つが重要だと指摘。既にあるたくさんの事例や実証研究をもとにしたアイデアに加え、広島県庁、KDDI、日産自動車と協力して行った「働き方改革」の結果を他社の参考となるようネット上で公開している。例えば在宅勤務制度の利用が低迷していた日産自動車では、一部の部署全員が在宅勤務をトライアルで使用し、その際、インスタントメッセージやウェブ会議ツールなどのITツールを活用。利用者が増えることで、在宅勤務に対するポジティブな反応が随所に見られるようになったという。

女性が働きやすくなる「アイデア」をみんなで実践

2つ目は、2015年3月にスタートした「#HappyBackToWork」だ。配偶者、上司、同僚、人事担当など、社内外のさまざまな立場の人にとって「女性が働きやすくなるためにできること」を投稿できるフォームをネット上に設置。同時に、働くママを応援するサポーター企業も募り、集まったアイデアから1つを選び、実践してもらうという取り組みとなっている。

現在までに集まったアイデアは約5,000件。具体的には、「帰社時の『すみません』禁止」といったすぐに実践できるものや、「家事・育児は『手伝う』ものではなく『一緒にする』もの」「男性には2週間の育休よりも1年間の定時あがりを」など、男性が育児に関わるきっかけとなるものが多く寄せられた。

「残業ではなく前業を」「在宅や時短でも成果ベースで評価」など、アイデアの中から既に1,600件が実施されている。直近のものでは、「複数の企業で共有できる保育所を」というアイデアをサポーター企業のママスクエアが実践。2016年6月6日には、東京都の六本木ヒルズ内に各社共有のワーキングスペース兼託児所がオープンした。

「多様な立場の人からのアイデアを募ることで、女性の働き方の問題は、働くママだけでなく、周りの人全ての問題であると自然に伝わるように工夫しました」と山本さん。3歳と1歳のお子さんをもつ山本さん自身、保育園の送り迎えなどを通して育児の大変さを実感。男性を含めた周りの人たちの意識を変えることの必要性をあらためて感じたという。

そうした思いを込めて、2015年3月には復職する日を迎えたママたちを、みんなでアイデアを出し合って応援するドキュメンタリームービー「ママが復職する日」も制作。公開されたYouTubeでは、200万回以上の再生回数を記録した。「#HappyBackToWork」の企画時に配慮したのは、「意見」ではなく「アイデア」を集めること。「議論をしても課題は解決しません。それぞれの立場で具体的にできることを提案してもらうことが大切だと考えました」と山本さんは話す。

女性が働き続けるためには、制度だけでなく、働くママを社会全体が心から応援する雰囲気をつくることが重要。後編では、この具体的な取り組みをお伝えする。