新連載『モノの価格』では、楽天証券経済研究所 コモディティアナリストの吉田哲(さとる)氏が、コモディティと呼ばれる原油や金などの商品の価格決定の仕組みや、現在の価格の動向やその背景などについて解説します。

シェールオイル生産はついに減少へ

昨年11月、原油価格が下落する中、サウジアラビアが、「減産せずに原油価格の下落を許容する」と発言したことが話題になった。

原油が主な収入源のサウジは、原油価格が下がれば収入減に苦しむことになる。

それでも、アメリカのシェールオイルたたきを目的に原油価格を下げる姿勢を示した。

12月ごろより、シェールオイル生産の減少が確認され、今年に入りその傾向が顕著になってきている。

サウジの思惑通り、原油価格の下落がアメリカのシェールオイル生産量を減少に転じさせ始めたのである。

「シェールオイルを推進するアメリカ」VS「世界の原油生産シェアを維持したいサウジ」の戦いが進捗し、まずはサウジに軍配が上がったといえるだろう。

気になるサウジとアメリカの原油をめぐる今後…

確かに原油価格の下落は、アメリカのシェールたたきに寄与したものと思われる。

それにより、サウジが目論んだサウジらOPECのシェア拡大への道筋も見えてきつつあるだろう。

しかし、ここに大きな問題がある。

たたくべきはシェールオイル以外にもあったのだ。

アメリカで生産される原油のうちシェールオイルは2割弱しかない。

残り8割は生産コストの低い従来型の油田から産出される。

以下のグラフのとおりこの従来型の原油の生産量は年々増加傾向にある。

その規模は大きく、仮に今、シェールオイルの生産がゼロになったとしても、アメリカはそれでもなお世界で5本の指に入る産油国であり続けるレベル(※)である。

(※BP社統計より)

繰り返しだが、シェールオイルの生産は減少傾向にあるようである。

しかし注目すべきは、米国の従来型の原油生産が大きく伸びてきているという点である。

このアメリカの従来型原油の生産量増加は今後、サウジを脅かす目の上のたんこぶとして存在感を増してくることになるだろう。

シェールオイルとの戦いに勝利してもなお、サウジにとっては安心できない日々が続きそうだ。

執筆者プロフィール : 吉田 哲(さとる)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト。テクニカルアナリスト。大学卒業後から、コモディティ業界に入る。2007年から、コモディティアナリストとして、セミナーや投資情報提供業務を担当。2015年2月から、楽天証券経済研究所 コモディティアナリストに就任。海外・国内のコモディティ銘柄の個別分析や、株式・通貨とコモディティの関連に着目した分析が得意。楽天証券ホームページにて「週刊コモディティマーケット」を配信中。