麻婆豆腐や炒飯、回鍋肉など、スーパーに行くと様々な"中華料理の素"が販売されている。食材を合わせるだけでカンタンに本格中華が楽しめるといった優れものなのだが、この連載では"中華料理の素"にほんのちょっとの手間を加えるだけで劇的においしさがアップする方法を披露する。教えていただくのは東京・代々木上原の人気中華料理店「老四川 飄香(ピャオシャン)」オーナーシェフ・井桁良樹さんだ。

教えていただく料理人


「老四川 飄香」オーナーシェフ・井桁良樹さん
2005年4月に東京・代々木上原に「老四川 飄香」を出店。中国での修業経験を生かしつつ、独自のアレンジを加えた本格四川料理が評判となり、連日予約で席が埋まる人気店に。店名は、"OLD四川が漂い香る"という店のコンセプトから付けた。日本人向けに、直接的ではなく香りで辛さを感じるような独自の工夫を行なっている。

「老四川 飄香」オーナーシェフ・井桁良樹さん。店舗は代々木上原駅から徒歩3,4分の場所にある

住所: 東京都渋谷区上原1-29-5 BIT代々木上原001
電話: 03-3468-3486
※店舗データは取材時のもの

四川料理の代表格、麻婆豆腐

1回目に登場するのは「麻婆豆腐」。唐辛子のホットな辛味、山椒の痺れるような辛さのコンビネーションが魅力の定番中華だ。そのまま食べてもおいしいが、あったか白ごはんとの組み合わせも魅力的である。

「麻婆豆腐の素」

今回、味のベースになるのはごくごく一般的な「麻婆豆腐の素」。各社様々な工夫を施した商品を出しているが、唐辛子や豆板醤、テンメンジャンといった中華調味料を使用するのは共通のよう。さらに手軽さが出るよう、挽き肉が入っているタイプも多く、毎日の食事で悩む主婦にはなんともうれしいところ。別添えで、とろみ付け用のでんぷんが付いており、わざわざ水溶き片栗粉をつくる必要もないのだ。感心!

そんな市販品の完成度の高さに驚きつつも、井桁さんに今回のポイントについて聞いてみた。

「すでに『麻婆豆腐の素』の味がしっかりとしていて、ベースの味が決まっています。ですから、塩気などの入った調味料を使わずに辛味と酸味でアレンジしよう思いました」。なるほど、むやみに調味料を加えてしまうと"単に濃い味"になってしまうというわけだ。

井桁さんは辛味をラー油、酸味を黒酢で表現。これで本場四川の辛味を出しつつ、さっぱりとした後味も出すことができるのだ。また、麻婆豆腐を本格的につくるとなると、木綿豆腐を湯通しするなどして固めの食感に仕上げることが多いそうだが、今回は絹ごし豆腐を使っておぼろ豆腐風にやわらかくするのだとか。その一方で、かた焼きそばと大豆(節分の豆まきで使うあの大豆! )をトッピングし、食感のコントラストも楽しめる一品になっている。ちなみに、かた焼そばや大豆は、中国の屋台料理ではトッピングアイテムとしてよく使われるのだとか。

卓上コンロと1,000円フライパンで……

この卓上コンロと1,000円フライパンで調理。井桁さん、怒ってないですよね!?

ふむふむ、おいしそうな予感がしてきた! 「早速、レシピ紹介! 」といきたいところだが、料理経験のある方なら気になっているポイントがあるのはないだろうか。

「中華料理店と家庭では火力が違うから、結局はあの火力がなければおいしい中華なんてムリでしょ」

ごもっともである。炒飯をつくってみても、火力の弱さからベチャベチャとした仕上がりになってしまった悲しい過去はあなたにもあるのではないだろうか。しかし、ご安心を。井桁さんには卓上コンロと、スーパーで1,000円程度で売っているフライパンをお渡しした。このチープなセットを見て、一瞬井桁さんの表情が曇っていたような気もするが、「いいですよ、問題ないですよ」と心強いお言葉をいただいた。

それではいよいよ、家庭でもカンタンにつくることができる、四川屋台風麻婆豆腐レシピを紹介!

「四川屋台風 おぼろ麻婆豆腐」

材料(3人前)
水180cc / 絹ごし豆腐1丁 / 「麻婆豆腐の素」3人分 / 「麻婆豆腐の素」に添えられているとろみ用でんぷん / 3人分 / 水(でんぷん溶き用)30ml / ラー油大さじ1 / 黒酢小さじ2 / かた焼きそば適量 / 炒り大豆適量 / 香菜適量

つくり方

1.フライパンに水を入れ、強火で加熱する。すぐに絹ごし豆腐を加え、お玉で潰していく。
2.湯が沸いてきたら、「麻婆豆腐の素」を加える。
3.ぐつぐつと煮立つ程度の火力で加熱し、お玉でかき混ぜながら軽く煮込む。
4.豆腐に火が通ったら、水でといておいたとろみ粉をゆっくりとまわし入れ、お玉で軽くかき混ぜる。
5.とろみが付いたら、ラー油と黒酢を加える。
6.皿に盛り付け、かた焼きそばと炒り大豆、香菜を飾る。

できあがった麻婆豆腐は、豆腐がふわっとやわらかく、トッピングのカリカリ感が印象的。黒酢のおかげで爽やかな後味になっており、いくらでも食べられる。ごはんも進む、進む! 辛さは本場四川より随分とマイルドになっているので、家族で楽しめる。ぜひ、夕飯の献立に!