今回のテーマは「相席」である。

まず相席とは何かというと「飲食店などで、よその人と同じテーブルの席である状態」だそうだ。

  • 相席

できれば全力で回避したい状況だ、「相席でいいですか」と言われたら「ならぬ! 」と言って1人で食える店を探す。

食事というのは基本1日3回だが、私は朝と昼を食べないので実質1回だ、そんな1日1回しかない楽しみならベストな状態で挑みたいのが普通だろう。

そして、私のベストとは、何度も言っているが自室で「ギャンブルの借金で困っている人のブログ」とかを見ながらペペロソチーノを食うことである。

これが私の「自由で 孤独で 救われている状態」であり、外食のうえに目の前に知らん人がいる、というのはその対極と言える、これでは食べこぼした時、袖で拭く自由もない。

飯の時だけでなく、何をするにも人が近くにいると落ち着かないので、席を取る時はできるだけ周りに人がいない場所を選ぶ。

幸い私ぐらいオーラがあると、相手のほうが私のそばを避けるということも珍しくない、このまま徳を積み続ければ、モーゼになれるのではないだろうか。

しかし、私が「飯は1人で食いたい」と思うのとは逆に「誰かと食いたい」と思う人もいるらしく、席が空いてないから、ではなく、わざわざ相席しに行く「相席屋」という飲食店があるらしい。

私にしたら、ヘッドフォンとアイマスクを付けた状態で飯を食えと言われているような、どう考えても楽しく飯を食える環境ではないのだが、この相席屋、なかなか人気だという。

知らない人間の顔より、他人の不幸を見たほうが絶対飯が美味いのにと思うのだが、相席屋が人気なのは、その独自のシステムのおかげだという。

まず相席屋というのは、女性は相席時、飲食が全て無料なのである。

つまり、目の前に知らん人がいる分、タダで飲み食いできるのだ、タダと聞けば当然女が集まり、それ目当ての男も集まるという仕組みだ。

ちなみに男のほうの料金は食べ放題飲み放題の一律料金で、それもそんなに高いというわけではない、キャバクラなどに行くよりはよほど安上がりだという。

また、キャバクラと違いあくまで素人同士ゆえに「出会いの場」としても相席屋は人気らしい。

もちろん私は「金払ってでも1人で食いたい」「他人の顔を見ながら食うタダ飯より1人で食う自分の金で買ったペペロソチーノ」派なので特に魅力は感じないが、飯を食っている時、他人の顔面が視界に入ったり話しかけられたりしても平気、むしろそのほうが良い、という人には良いシステムと言えるだろう。

女側からすると、向かいに何が来ようとタダだからある程度良いかもしれない。しかし、男側は直接奢っているわけではないと言えども、女どもがタダなのは自分らが払っている料金がそれを賄っているからである、できれば可愛い子と相席したいし、逆にそうでないのと相席になったら、1人で吉牛に行ったほうがマシだったと感じるだろう。

だが、相席屋というのは基本的に相席相手を選べないという、最初に「このぐらいの年齢の人がいい」という希望を聞いてもらえる程度だそうだ。

つまり、男の場合、わざわざ金を出して、見ると食欲が落ちるダイエットに最適なデザインの女性と飯を食わなければいけない可能性が出てくる、ということになってしまう。

そういった事故に対するクレームが多かったのか、最近では「相席相手が気に入らなければ相手を変えてもらえる」という「チェンジ」的なシステムもあるらしい。

このチェンジシステムは男女ともに使えるのだが、使用するのは圧倒的に男性客のほうが多いそうだ。

何せ男は金を払っているので、相席したくない相手に無駄な時間を使っている暇はなく、席について「ない」と判断されたら、即トイレに行くフリをして「席替え希望カード」を店員に渡すという。

つまり当初は圧倒的に女性有利だった相席屋だが、今では「チェンジを食らう」というリスクが女側にはあるのだ。

おそらく「チェンジ」されたら、気分的にはもう飯どころではないだろう、そんなリスクを負いながら食う飯など、タダでも嫌だ。

よって最近では、「相席屋は多少自分に自信がある方が行くべき」という助言さえある。

つまり、チェンジされないレベルの女が行かないと大ヤケドを負う恐れがありますよ、ということだ。

そんな心のヤケドを負うぐらいなら、自分の金で1人焼肉に行き、1枚目のタン塩で舌をヤケドしたほうがまだマシだろう。

タダより高いものはない、さすが昔の人は良いことを言う。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。