今回のテーマは「Tシャツ」である。
私は服を持ってないし、買わない。何故なら無職だからだ。無職ゆえに月の3分の2は家から1歩も出ない、つまり1カ月のうち20日は服を着る必要すらないということである。
出かける時も、近所のコンビニかスーパー、あとはゴミ捨て場ぐらいだ。よって3着ぐらいの服を、寝間着、部屋着、外出着の3ウェイとして巧みに着まわしている。
メーカーとしては「寝間着」を想定して作ったものであっても、サボテンだって毎日声をかけ続ければ花を咲かせるのだ、服だって、お前は外出着だと言い聞かせれば、そうなるはずである。
よって、私は服を持っていない上に、持っている服も全部古い、昭和の歓楽街のように、明らかに還暦越えの服が未だに「エースです」という顔で登板してくる。
しかし、そんな私もTシャツだけは豊富に持っている、もはや上下Tシャツにしても良いぐらい持っている。
Tシャツが好きというわけではない。それらは全部、自分の作品のグッズだ。
我々にとってグッズといえば、ラミカとグラデーション便せんなのだが、どうやら出版社にとっては「Tシャツ」らしい。
9年も漫画家をやっていると、大して売れてなくてもグッズを作る機会がそれなりに訪れる、何故なら最近は受注制作が多く、1個も売れなくても別に関係ないからだ。
そして実際、出版社のグッズ販売サイトでは1個も売れたことがないものがけっこうあるという。
そう考えると、自分のグッズが販売サイトに並んでいるのも打ち首獄門に見える、損がないからと言って作ればいいというものではないだろう。
では1個も売れてないやつはこの世に存在しないのかというと、一応サンプルは作られ、そしてサンプルは作者にも送られる。
その結果我が家は、サンプルのTシャツだらけになったのだ。
だが私は前述の通り、服を全然持っていないので、服をもらえるのは大変助かる、欲を言えばTシャツだけでなく、長袖や全身タイツも作ってほしいぐらいだ。
だが、自分のグッズなので、当然そのTシャツには己の漫画のキャラクターが書かれているのである。
よって私は夏の間ずっと自分のキャラのTシャツを着ており、「そんなに自分が大好きならさぞかし人生楽しいでしょうね」という人になってしまった。
だが幸いにも私の作品は知名度ゼロなため、誰もキャラクターグッズであることすら気づかないので、余裕でそのまま外に出ていた。
しかし、ある日、夫と外出することになった時、いつものように己のキャラTシャツを着て出ようとしたところ「それで出るのか? 」とまさかの「待った」がかかった。
たしかに夫は、このTシャツがキャラグッズであることを知っているたった2人のうちの1人だ。
さらに「自分の作品のキャラTシャツを着ている中年の妻」というのは、確かに若干同伴したくない感じはする、中年の部分が。
しかし、私は服を持っていないのだ。
考えた結果、読者の方からもらった『KING OF PRISM(キンプリ)』のTシャツを着て再度夫の前に出たところ「うん」とOKが出た。
実際には、知名度がないキャラグッズから、すごく知名度のあるキャラグッズに着替えたことになるのだが、そのキンプリTシャツがデザイン性に優れていたせいか、厳しいチェックをクリアすることができた。
この出来事から、そのキンプリTシャツは「よそ行き」としてこの夏大活躍することになる。
ちなみに今年も自分のキャラTシャツが2着増えたのだが、そのうちの1枚は自分のキャラどころか自分の顔が描いてある。
このコラムの挿絵として、頭部が陰毛の人物がよく出てきていると思うが、あれは私の自画像である。
その自画像がプリントされたTシャツが、この夏新しくラインナップに追加された。
デフォルメされているとはいえ、自分の顔面である。自分の顔がプリントされたTシャツを着る人間など、サミュエル・L・ジャクソンぐらいしかいないと思っていたが、まさか自分がジャクソンに並ぶとは思わなかった。
ちなみにそのTシャツも一般に販売されたものなのだが、なんと買った人間がいるようだ。しかも私の顔面グッズはこれだけではなく、他にも何点か存在する。
言っておくが私は一度たりとも「俺の顔グッズを作ってくれ」と言ったことはない、ただ先方が何故か作るのだ。
残念なことに入手したのが秋口だったため今年は出番がなかったが、来年の活躍が期待される。