コラムニストの小林久乃がドラマや映画などで活躍する俳優たちや、世間で話題の著名人たちについて考えていく連載企画『バイプレイヤーの泉』。

第162回はタレントの永尾柚乃ちゃんについて。この子が妙に気になって仕方がない。2023年放送『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)で主人公の保育園時代を演じた姿によって、柚乃ちゃんは一躍、時の子役に。あの大人びた様相を見せる完璧な演技をしているは誰なのかと、ドラマを見ていた大人がざわついた。私もあの独特な目力に吸引された記憶がある。あれから2年経過して柚乃ちゃんは8歳になった。今『誘拐の日』(テレビ朝日系)での演技が、大人たちを魅了している。

  • 永尾柚乃
    撮影:蔦野裕

主役よりも注目の集まる存在感

『誘拐の日』は韓国で放送されたドラマのリメイク版だ。ダメダメ人間の新庄政宗(斎藤工)がトラブルによって、誘拐する羽目になってしまったのは外科医の娘で天才少女・七瀬凛(永尾)。天才の力を利用しようする人物から逃げるため、両親を殺害されて単身になった凛は、政宗を相棒にして逃亡中だ。この事件の裏にいるラスボスは誰なのか? それが分からず、毎週政宗たちと一緒に逃亡する気分になって視聴を続けている。

柚乃ちゃんが演じている凛は、何カ国の言語を見事に使いこなし、逃亡アイデアも次々に提案する天才少女。子どもらしさを全く見せず、喪失した記憶を思い出しながら、自分が何者なのかを探している。この文章を読んだだけでも、複雑な設定の役であると分かってもらえると思うけれど、演じているのは子役の女の子。彼女のまわりを囲むのは斎藤工、江口洋介、内田有紀、安達祐実といった名前を見るだけで納得の一級線の俳優陣。それでも世間の視線は柚乃ちゃんに集まる。

作品において子役が可愛がられるのは昔からのセオリー。ではなぜ柚乃ちゃんの人気は特別なのか。

芸能界という部活に属して

理由は彼女の対応力にある。少し前に「情報が溢れかえる現代に必要な子育ては、部活動で鍛えられる達成感」などと書かれた論説を読んで納得していたけれど、その典型が柚乃ちゃんだ。彼女は今、芸能界という部活動を頑張って対応力を磨いているのではないだろうか。

部活といえば上下関係の構築が一番にくるけれど、バラエティー番組で見る限り、大人への配慮を忘れていない柚乃ちゃん。全く物おじせず、周囲が期待している反応をするりと露出している。さらに朝練も求められる部活なのか、先日『めざましテレビ』(フジテレビ系)で原稿を読んでいる姿を見た。この暑さの中「ご苦労様です」としか言えない。

そして先輩たちが記憶しやすく、世間に失礼のない、子ども定番のパッツン前髪のワカメちゃんヘアで礼節を守る。愛嬌で「可愛い~!」と大人からの評価をごまかすのではなく、あえての冷たい無表情の演技で印象を残す。この練習を重ねた結果だろうか。CM契約社数も『ブラッシュアップライフ』出演以来、途切れていない。

あと10年後はどんな子に?

最近「可愛いだけじゃダメですか?」というフレーズの含まれた曲がヒットしている。この曲があちらこちらから流れてくるたびに、私が「ダメに決まってるじゃん」と心の中で突っ込んでいた。ではこんな時代を生きていくうえで可愛い以外に何が必要なのかといえば、情報力と対応力だ。窮地に追い込まれたときに他人は早々簡単に助けてくれないし、勉強ができても対応ができない大人を、私ことおばさんはたくさん見てきた。

柚乃ちゃんは誕生からたった8年で、対応力を手中にしているのはメディアでの周知の通り。このスピードは今、天才少女を演じているけれど彼女こそ、天才少女。真似はできない、奇跡は見ていて気持ちがいい。でもいつか、その対応力も当たり前と言われる大人になる。それまでに情報力を身につけて、また新しい形で私たちを楽しませてほしい。それまで芸能部活動、部長を目指して頑張ってください。