コラムニストの小林久乃が、ドラマや映画などで活躍する俳優たちについて考えていく、連載企画『バイプレイヤーの泉』。第146回はタレントの玉袋筋太郎さんについて。酒と中華とスナックと。(敬意を込めて)タマさんのことを考えると、こんなワードが浮かんでくる。そんな彼がドラマに出演していた姿を見て、いろいろと考えた。そのいくつかを並べたい。
どこまでもイメージまんまの人
先日、最終回を迎えた『あのクズを殴ってやりたいんだ』(TBS系)に出演していたタマさん。主人公の佐藤ほこ美(奈緒)の母親が経営するスナックの常連客役だ。毎回、ママの佐藤明美(斉藤由貴)が客へのサービス……いや恒例行事として、カラオケを歌いながらスカートをめくりあげる。タマさん演じる常連客たちで、ママの下着の色を確かめるのが、男たちの楽しみなのである。
ドラマを見ながら姿を発見して、なんとも彼らしい役だなあと思いながら「お、タマさんだ」と独り言をつぶやく。
というのも数年前にご縁があって、何度かお仕事をご一緒させてもらった。ひとつは男性ファッション雑誌で、町中華に関するゲストとしての取材。店舗での撮影、入店してくるなり、パブリックイメージのままの威勢の良さだったことを記憶している。『町中華で飲ろうぜ!』(BS-TBS)で見たままのタマさんだった。
真っ昼間でもビールを飲みながらの取材中、ポーズをお願いすると「OK、OK、分かってるよ!」と、即座芸人スイッチを入れてくれる。取材中の1時間、圧倒されっぱなしですごく早かった。その後、彼のレギュラーラジオ番組に私がゲスト出演するという形で、再会。取材時とまったく変わらないタマさんだった。
思い返すと彼は強烈な芸名とともに、昔ながらのコメディアンでたけし軍団の一員という印象だった。それがいつの間にか(冒頭文の繰り返しなるけれど)、町中華と酒とスナックと、競輪などをこよなく愛するおじさんにすり替わっている。
好きなものにはすべて昭和の香りがする
うらやましいことに自信の愛するものを並べていったら、いつの間にか仕事になっていた、ということ。これは男女問わず、憧れる先輩だ。所ジョージや木梨憲武とはまた違う。「町中華なら……」という、一般人も手が出せそうな範囲である趣味だからことさら共感性は強い。
加えて私が感じたのは、タマさん本人がまったく裏表のない人だった。たった一度や二度で何がわかるとドヤされそうだが、何千人も仕事の現場で会ってきた身分だ。取り繕っているかどうかは、第一印象でわかる。
人格の裏表については何かと意見が生じるけれど、私の見解は2パターンだ。まずは人によって対応を変える人。これが当たり前だという女性を何人も見てきた。あとは誰に対しても対応が変わらない人。一見すると後者のほうが、デメリットは大きそうだけど、実はどちらにも生じている。賛否はつけられない。ちなみにタマさんも後者だと思っている。
そんな人だから、町中華と酒とスナックがネタになった。どれもこれも、令和ではなんとなく背徳感のあるものばかり。例えば町中華もおいしいけれど、コレステロールは否めない。だから皆、食べて運動をする。でも最高にうまい。酒も厚生労働省から「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」が公表されている。でも飲みたい。スナックでママの話を聞きながら、常連客と連みたい。
これらを「好きだ!」と豪語する彼はすべてが昭和で、今年でいう不適切代表のような人物。それが許されるのは、露出される人格に嘘がないという証拠。私も彼のようになりたいと思った。
皆、バズりと炎上だけで名前を馳せていくような時代だ。きっと玉袋筋太郎のような存在はもう出てこないだろう。みなさん、彼をよーく目に焼き付けて、元気をもらいにいきましょう。