悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、会話力を上げたい人に送るビジネス書です。

■今回のお悩み
「人とスムーズに話すのがあまり得意ではなく、コミュ力の高い人を見るとうらやましく思います。どうやったら会話力が上がりますか?」(33歳女性/クリエイティブ関連)


「気持ちはとてもよくわかります!」と、ビックリマークつきで断言できてしまうのは、誰あろう僕自身がコミュニケーション能力について自信がないからです。

人前で話す機会もそれなりにあるので、コミュ力がありそうに思われることも少なくありません。でも、たとえばラジオで話していても、話をうまくまとめることは大の苦手。それどころか、コンビニの店員さんを相手にアワアワしてしまうことだってあります。

だから同じなのですが、ただ、この段階で考えてみていただきたいこともあるのです。「そもそもコミュ力が高い(ように見える)人だって、実はそれほど自信を持っているわけではないかもしれない」ということ。

「隣の芝生は青く見える」ではありませんが、コミュ力に自信が持てなければ、人のコミュ力が高く見えて当然。でも、その人だってコミュ力のなさに悩んでいる可能性も否定できないわけです。

その証拠に、書店へ行けば「会話力」や「コミュニケーション能力」を高めたい人のための本をたくさん見つけることができます。それは、「会話力」や「コミュニケーション能力」のことで悩んでいる人が多いからです。

とはいえ、あまりにも多いので、どれを読んだらいいのか迷ってしまうかもしれません。そこで今回は、僕がオススメする3冊をご紹介したいと思います。

スピーチライターが「響く伝え方」を伝授

『なぜ、あなたの話は響かないのか』(蔭山 洋介著、ディスカヴァー・トゥエンティワン )の著者は、企業経営者や政治家を含むリーダーたちをクライアントに持つという「スピーチライター」。

  • 『なぜ、あなたの話は響かないのか』(蔭山 洋介著、ディスカヴァー・トゥエンティワン )

言うまでもなく、スピーチをする本人に代わって原稿を書く人です。バラク・オバマのような政治家や、カルロス・ゴーンのような世界的経営者のバックに、一流の話し方を指導するトレーナーやスピーチライターがいるというのは有名な話。

つまり本書において著者は、「伝わるスピーチに欠かせない裏方」としての立場から、「響く伝え方」を伝授しているわけです。ちなみにテーマは、「私たちがいかに自身を獲得し、自分らしい価値のあるコミュニケーションを可能にするか」ということだとか。

まず第1章では、コミュ力の有無が、人生にどれほどの影響を与えるのかを探り、第2章では、社会構造の変化とともに、コミュニケーションのあり方にも変化が訪れていることを指摘しています。これらは、社会と自分との距離感を再認識するうえでも参考になることでしょう。

しかし、さらに注目すべきは、第3章「絶対に失敗しない『コミュトレ2.0』と第4章「相手の心を動かす『話し方2.0』。前者ではコミュニケーションにおける自信と信頼に焦点を当て、続く後者では、リアルタイムなコミュニケーションの具体的な訓練法が紹介されているのです。

その解説は具体的かつ実践的なので、的確に伝えるためのコツを無理なくつかめるはずです。

ハリウッド流の即興会話術「インプロ」

会話力のなさについて悩む人が多いのは、日本では「会話」について学ぶ機会も、教育体制も整っていないから。そう指摘するのは、『1秒で気のきいた一言が出るハリウッド流すごい会話術――世界の一流が学ぶ77のルール』(渡辺 龍太著、ダイヤモンド社)の著者です。

  • 『1秒で気のきいた一言が出るハリウッド流すごい会話術――世界の一流が学ぶ77のルール』(渡辺 龍太著、ダイヤモンド社)

本書はそのような悩みを科学的に、かつ簡単に解決できる欧米生まれのノウハウ「インプロ」を、日本人向けにアレンジしたもの。

インプロとは、英語の「即興=improvisation」を略したもの。アメリカの企業経営者や政治家、芸能人やスポーツ選手などが、プレゼンやインタビューでスマートに振る舞っているのは、彼らの多くがインプロのトレーニングを受けているからなのだそうです。

台本のない会話を、どう盛り上げるかを芝居やゲームを通じて学ぶというもの。などと聞くと難しそうに感じられるかもしれませんが、センスや才能は不要。海外でインプロは科学的に研究されており、その技術を誰でも習得できるのだといいます。

たとえばOne Wordという、代表的なゲームがあるのだとか。数人で1人が1単語ずつ(日本語なら文節でOK)順番に言っていき、話をつくっていくゲーム。

「今日は」→「みんなで」→「掃除を」→「する日です。」と言った具会に、話が盛り上がるように工夫して話をつくっていくというのです。

引っ込み思案な人でも、少なくとも1単語は必ず発言することになるため、無理なく「他人に自分のアイデアを提示する」と言う行為に慣れることができ、精神力も鍛えられるというわけです。

もちろんこれは一例ですが、本書で紹介されている日本人向けのインプロ実践ノウハウを学べば、人生のありとあらゆる悩みを大きく減らすことができると著者は断言しています。

「コミュ障」を受け入れる

さて、最後に手前味噌ながら、僕の著作をご紹介させてください。『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(印南敦史著、日本実業出版社)がそれ。

  • 『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(印南敦史著、日本実業出版社)

コミュ障と自覚している方に向け、どんな人ともうまくつきあえるようになるためのコミュニケーション技術をご紹介した一冊です。

本書の最大のテーマは、「受け入れる」こと。「コミュ障な自分」「伝えるのが下手な自分」を受け入れることができず、真に受けてしまうからよけいドツボにハマるのであって、まずは「コミュ障であること」を受け入れるところからスタートすべきだという考え方です。

なぜだかおわかりでしょうか?

「ああ、自分はコミュ障だからダメなんだ……」とネガティブに考えていても、解決策はまず見つかりません。「ダメだ」という結論を最初に持ってきて、自分の可能性を塞いでしまっているからです。

でも、こう考えて見た場合はどうでしょう?

「うん、自分はコミュ障なんだよね。それは事実なんだから、仕方がないじゃん。だから、まずはそんな自分を受け入れよう。そして、『コミュ障な自分は、ここからどう進めば楽になるのか』ということを、一歩一歩考えていこう」

どのみちコミュ障なのですから、その事実を受け入れてしまえば、「さて、ここからどう進みましょうか?」と楽な気持ちで考えられるようになるわけです。

そして、そこまで到達できれば、あとは本書に書かれている「シチュエーション別アドバイス」などを試してみればいいだけ。もちろん瞬時にコミュ障から脱却できるわけではなく、相応の時間は必要です(当然のことです)。

が、気持ちを楽に持ち、本書内のさまざまなメソッドを試してみながら一歩一歩進んでいけば、やがて「あれ? いつの間にか気持ちが楽になってた」と実感できるのではないかと思います。


冒頭でも触れたとおり、コミュ力がありそうな人であっても、実は「コミュ力が足りない」などと悩んでいたりするものです。つまり、自分だけが劣っているのではなく、実はみんな大差ないのです。

それは偽らざる事実ですし、そう考えれば気持ちも多少は楽になるはず。これらの本を参考にしながら、自分のペースでコミュ力を身につけていただきたいと思います。

繰り返しになりますが、多少の時間がかかったってかまわないじゃないですか。そのプロセスを、楽しんでしまえばいいのですから。コミュ力を高めるためにまず大切なのは、そうやって意識を変えることではないでしょうか。

著者プロフィール: 印南敦史(いんなみ・あつし)

作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。