悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、貯金ができないことに悩む人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「生活に困っているわけではないけど貯金ができません。お金の増やし方を教えてください」(35歳男性/営業関連)
なにしろこういう時代ですから、お金に関する不安はあって当然。「いままさに経済状況が逼迫して困っている」という方はもちろんですが、今回のご相談者さんのように漠然とした不安を抱えている方も多いのではないでしょうか?
いま追い詰められているというわけではないにしても、この先どうなるかわからないという実体の不明瞭な不安はなかなか払拭しづらくもあります。だからこそ少しでも知識を蓄え、不測の事態に備えたいものですね。
そこで今回は、お金について知っておきたいことを、それぞれタイプの異なる角度からまとめた3冊をご紹介したいと思います。
「生活のベースになるお金」を貯める
税理士である『人生100年時代の着実なお金の作り方 最も堅い資産形成術と税対策 』(石田昇吾 著、総合法令出版)の著者は、日本の学校において投資や資産運用の教育がまったくなされていないことは大問題だと思っているのだそう。
その結果、多くの方が「他のことに関しては充分な知識や教養を持っているのに、お金の話となるとほとんどなにも知らないも同然」という状態になってしまっているわけです。
たしかにいままでは、それでもなんとかなっていたのかもしれません。しかし現在、私たちはこれまで体験したことのない時代のなかにいます。したがって、もはや「お金のことはわからない」「資産運用について考えたこともない」などといってはいられないのです。老後のお金は自分でつくり、自分で守るしかなくなったということ。
そのため著者は本書において、税理士という立場に基づいて資産運用について知っておきたいことを解説しているのです。
たとえば著者はここで、「生活のベースになるお金」を貯めることの重要性を説いています。いうまでもなく、病気やケガ、失業などで定期収入がなくなったときのための蓄えのお金。この部分がしっかりできていれば、余計な保険に入る必要はなくなるということです。
備えとしてのお金は、いつでも必要なときに引き出せるということが一番重要です。不測の事態が起こったとき、すぐに引き出せないのでは「備えのお金」とは言えません。換金性に富んでいる、というのが最も優先すべき条件なのです。(96ページより)
気になるその金額は、一般的には給与額の3〜12ヵ月分といわれているようです。独身で、まだ親の家に住んでいる人なら、3ヵ月分もあればまかなえる可能性が高く、結婚していて子どものいる人なら6ヵ月分は確保しておいたほうが安全だという考えに基づいているというのです。
なお月によって収入額が変動する自営業者・自由業者であれば、事務所等にかかる経費も含めて12ヵ月分くらいは確保しておいたほうがよさそうです。
手法としては、給与の振込口座から天引きする形で貯めていくことをおすすめします。お金は「今月の生活費の残りを貯めよう」と思っても、ほとんどの場合、貯まりません。(中略)給与が振り込まれたら間髪を入れず引き落としという形で積み立てていくのが一番です。積立は給与が振り込まれる金融機関の商品を使って行うのがいいでしょう。別の金融機関で積み立てようとすると、給与が振り込まれる金融機関から別の金融機関へお金を振り替える際に手数料を取られます。(97ページより)
金額は、無理なく貯められる額にしておくのがコツ。たくさん貯めようと無理をして引き落とし金額を大きくしてしまうと、生活費が足りなくなって、せっかく貯めたお金を下ろすはめになってしまう可能性もあるからです。
毎月、2万円や3万円を積み立てたところでたかが知れている、と感じるかも知れませんが、1年や2年などあっという間に経ってしまいます。
ボーナス時加算も利用すると、気がついたときには100万円、200万円など、まとまった額の貯金ができているものです。「へぇ〜。その気になれば、こんなに貯まるのか!」と実感できればしめたもの。(98ページより)
そうなるためには、できる範囲で地道に貯めることこそが重要なのでしょう。
「ポイ活」など"お金のなる木"を活用する
いっぽう、『お金のなる木を育てなさい』(小林昌裕 著、朝日新聞出版)では「お金のなる木」=副業をクローズアップしています。ポイントは、お金のなる木の苗には多くの種類があるということ。
具体的には、ふるさと納税、ポイ活、メルカリ、NISA(ニーサ)やiDeCo(イデコ)を活用した株式投資、実働系ではウーバーイーツや副業フォトグラファーなど収入を得る多くの方法があり、新しいものも生まれているというのです。
ここではそのなかから、「ポイ活(ポイント活動)」に焦点を当ててみることにしましょう。
ポイントは消費をすることによって得られる「おまけ」のようなもので投資や副業とは異なるのではないかと思われるかもしれません。しかし、「ポイント=現金」と考えたとき、その感覚が変わるはずだと著者は述べています。
ここ数年のキャッシュレス化のさらなる普及によって、節約というレベルを超え、大きなお金のなる木に変貌を遂げているのだから、乗り遅れるのはもったいないとも。
キャッシュレス払いをうまく活用したポイ活を行うと、年間50万円のお得(収入)になることもザラなのだとか。それどころか、スキルアップすれば年間300万ものポイント=お金を貯められるようになるというのです。
そんなポイ活の魅力は、副業に抵抗がある人も簡単にはじめることができ、しかも楽しい行動だということ。しかし、意外と活用しきれていない人が多いのだそうです。
その理由は「面倒くさそう」だから。この点に尽きるといいますが、1ヵ月だけやってみることができれば、その楽しさとお得さに気づくと著者は断言しています。また、ポイ活を行うことで「効率的に買う」「計画的に買う」といった習慣が身につき、浪費がなくなることも特徴のひとつであるようです。
ポイ活をはじめるための第一歩は「現金払いをやめること」。
クレジットカードを最大限に活用してキャッシュレス払いにすることで収入(ポイント)が得られるようになります。
また、これまでATMで現金を引き出す度に支払っていた手数料を払わなくて済むので、それだけでもかなりの節約になります。ポイ活は「お金を貯める=節約」と考えてしまう人にも満足感の高いお金のなる木だといえるのです。(73ページより)
ちなみに、数ある「ポイントを貯める方法」のなかで著者がすすめているのは楽天ポイントを貯めること。楽天グループのサービスを利用すればするほどポイントが貯まるので、管理しやすく貯まりやすいわけです。
そんな手段も含め、「ポイント=現金」と考えて実行してみれば、無理せずにお金を貯めることができるかもしれません。
「インデックス投資」をする
『マンガ お金は寝かせて増やしなさい』(水瀬ケンイチ 著、フォレスト出版)の著者は、個人投資家として「インデックス投資」という投資法を実践している人物。聞きなれない方もいらっしゃるかもしれませんが、本書ではインデックス投資を「世界中に分散したインデックスファンドを積み立て投資して長期保有すること」と定義づけています。
インデックス投資をおすすめすることには、3つの理由があるのだそう。
手間がかからないから
実は世界標準のスタンダードな投資法だから
お金の基礎知識として日常生活に役に立つから
(「はじめに」より)
世の投資法の多くは、投資対象銘柄を選択し、タイミングをみて売買することで利益を得ようとするもの。それに対してインデックス投資は、世界中の株や債券に分散したインデックスファンドを、毎月定期的に同じ金額を積み立てて、あとは寝かせておくだけ。
インデックスファンドは「投資信託」という金融商品の一種で、手間がかからないことが魅力なのです。
投資信託とは、投資家から集めたお金をひとつの大きな資金としてまとめ、運用の専門家が株式や債券などに投資・運用する金融商品。そのメリットは次の3点になります。
少額から購入できる
たくさんの銘柄の株式や債券に分散投資できる
運用に携わる金融機関が破たんしても資金が守られている
(34ページより)
なおインデックスファンドの具体的な購入方法について、本書では「積み立て投資」をすすめています。たとえば毎月、一定金額で同一の投資信託を購入することを継続するということ。
毎月購入するので購入価格が平準化され、市場が最高値のときにまとめて投資してしまうことや、最安値のときに買い損ねてしまうことを避けられるのです。しかも、いざ始めてしまえば放っておけるのも魅力的。
積み立て投資では、証券会社の「投信積み立てサービス」を利用することができます。このサービスを使えば、あなたが買い注文を出さなくても、毎月同じ投信を同じ金額、自動的に購入してくれます。一度積み立てする銘柄と金額を設定すれば、それ以降は、毎月の購入についてはなんの手間もかかりません。(47ページより)
株価チャートに張りつく必要もなければ、企業の財務諸表を分析する必要もなし。毎月の購入作業は証券会社が自動でやってくれるので、リスクも少なく非常に楽なのです(僕も「つみたてNISA」を利用しているので、著者のこの説明には共感できます)。
なおタイトルからもわかるように、本書は基本的にマンガとその解説で構成されています。そのため、お金に関する基礎を学ぶには最適であるといえるでしょう。