悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「時間がない」と悩む人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「時間がありません! 時間をもっとうまく活用する方法を教えてください」(46歳男性/販売・サービス関連)


変化の激しい時代を生き抜くためのポイントは、時間を有効活用すること。とはいえそれは、決して簡単なことではありませんよね。今回のご相談がそうであるように、時間管理がなかなかうまくいかずストレスを感じている方も少なくないと思います。

そこで今回は、時間管理に役立ちそうな3冊をチョイスしてみました。

PC操作の時短テクで「思考時間」をつくる

まずは、時短するためのテクニックを具体的に紹介した書籍から。『年間240時間を生み出す 超速PC仕事術』(木部智之 著、東洋経済新報社)がそれで、タイトルからもわかるように"パソコン操作の時短テクニック"に特化した一冊です。

  • 『年間240時間を生み出す 超速PC仕事術』(木部智之 著、東洋経済新報社)

パソコン操作と聞くと、たとえばショートカットキーの使い方がそうであるように"パソコンに詳しい人が使うマニアックな技"を想像されるかもしれません。

しかし著者によれば、それは誤った認識。

そうではなく、パソコン操作の時短テクニックは、仕事で成果を上げるため、大きくキャリアアップを図るため絶対に必要なビジネススキルだというのです。もちろんショートカットキーの使い方などにも効果はあるのでしょうが、それ以上に「『作業時間』を『思考時間』に変える」という発想が大きな意味を持つということです。

パソコン操作が速くなると、考える、つまり「思考」に多くの時間を使うことができます。そして言うまでもなく、ビジネスで成果・結果をどれだけ出せるか、あるいはどれだけキャリアを高められるのかは、どれだけ考えたかという「思考」の時間に比例します。決してどれだけパソコンの前に座ってキーボードを叩いていたかという「作業」の時間に比例するわけではありません。(「はじめに」より)

そこで本書では、「思考」に費やす時間を増やすため、無駄が多いパソコンの操作時間を短縮するテクニックを紹介しているのです。

「なんだ、そんなことか」と思われるかもしれませんが、著者が知る"仕事がデキる人""早くに出世した人"たちの大半は、パソコンの操作が本当に速いのだとか。

メールの新規作成は1日に何度も行う作業です。[Ctrl]+[N]でメールの新規作成をしましょう。[N]はNewの意味で覚えておくといいでしょう。Gmailでは、[C]を押せば新規作成となります。[C]はCreateで覚えましょう。そして「Shift」+[C]とすれば、新規ウィンドウで新規メール作成になります。お好みで使い分けてください。 そして、メールタイトル、本文を書いて宛先を入力すれば次はメール送信です。送信は、[Ctrl]+[Enter]のショートカットで実行できます。これはGmailでも同じショートカットです。(65〜66ページより)

たとえばこれは、「最速メール術」という章のなかの一節。

ここでは「メールを作成してから送信する」「受信したメールに対して返信する」「といったメールの基本操作を、マウスを使わずにキーボードで実行する基本テクニックが紹介されているわけです。

しかも見ていただければわかるように、詳細でありながらとても簡潔。PCでの仕事に関するすべてがこのように解説されているので、それらのスキルを身につければ確実に時間が短縮できそうです。

「10分」集中する時間をつくる

『すきま時間を味方につける 10分仕事術』(滝岡幸子 著、同文舘出版)の特徴は、時間の概念に着目している点。忙しく過ごすなかで時間をつくるのは難しいことですが、「10分」というすきま時間ならつくれるはず。しかも10分間でも集中すれば、かなりのことができるという考え方なのです。

  • 『すきま時間を味方につける 10分仕事術』(滝岡幸子 著、同文舘出版)

10分仕事術のポイントは、「一番時間を使いたい、大切なこと」にフォーカスすることです。生活環境や年齢によって、「今、何に力を入れたいか、時間を使いたいのか」は変化するものです。目の前のひとつのことだけではなく、いくつかの仕事や場所を掛け持ちするようになった時に、振り回されるのが「時間」です。
10分時間術で「時間の使い方」を工夫すれば、もっとスムーズに生きられるようになると思うのです。(18〜19ページより)

とはいえ、すべての仕事で「10分間仕事」ができるわけではないはず。職種によって変わるわけですが、著者によれば、10分仕事が適しているのは「デスクワーク」や「ひとりで行う作業」。

・プレゼン資料のフォーマットを使い、テーマ、部署や名前、目次を書く
・5行以上の文章を書く(少なめに設定)
・商品・企画アイデアをひたすら書き出す
・メールをチェック
・報告・連絡・相談(ホウレンソウ)を受ける
・電話を1本かける
(21ページより)

あくまで例ではありますが、たとえばこういった作業に適しているわけです。「サクサク進んで前向きな気分になれる」「複数のことを同時進行させられる」「濃い10分」を積み重ねられるので、仕事がどんどん進む」「仕事のスピードが上がる」などメリットも多数。

あまりに仕事が速いと、たとえば短時間でメールを返信した相手から「暇なのではないか」と誤解されるなど、若干のデメリットも考えられるかもしれません。とはいっても、そのあたりはバランスの問題ではないでしょうか?

いずれにしても難しいことではないので、取り入れてみる価値はあるのではないかと思います。

周りに助けを求めるための「備え」を

さて、最後に上記2冊とは異なった角度から考えてみましょう。参考書籍は、『仕事は自分ひとりでやらない』(小田木朝子 著、フォレスト出版)。

  • 『仕事は自分ひとりでやらない』(小田木朝子 著、フォレスト出版)

時間がないのは、すべてを自分ひとりで抱え込んでしまうから。そんな状況から抜け出すために、「ヘルプシーキング」という考え方を取り入れようと著者は提案しているのです。

ヘルプシーキングとは、一言でいえば周りの人に助けを求め、ひとりで抱え込まないスキルです。Help(助け)、Seeking(探す)という意味で、立教大学経営学部教授の中原淳先生が発信されていた言葉です。(「はじめに」より)

ヘルプシーキングを取り入れるうえで重要なのは、「緊急時」よりも「平常時」であるという考え方。いざ面倒なことが起こってからではできることも限られてしまうので、「普段の備え」が大切だということ。

なお、平常時の備えは「仕事のやり方」と「仲間との関係の築き方」の2つに分けられるそうです。

チェックポイント
仕事のやり方
・必要な情報はオープンにできているか
・業務ルールや進め方は適切か
・無駄や非効率はないか チェックポイント
仲間との関係の築き方
・普段からチームに貢献しているか
・オープンな自己開示ができているか
・仲間に関心を持ち、相互信頼関係ができているか
(69ページより)

こうした備えができていれば、「問題が起きたけれど、ひとりで解決するだけの余裕がない」というような場合でも、無理なく周囲の助けを借りることができるわけです。

また、こうした基本的な体制が整っていたら、自分以外の誰かが困っていたとき自然に手を差し伸べることもできるはず。

「つい抱え込んでしまう」という悪癖から逃れることができるわけで、それもまた、時間を有効に活用するために忘れるべきでない点だと感じます。