悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、在宅勤務で誰にも会えず「寂しい」という人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「在宅ワークが増え、誰とも会えない日々が続き、寂しい」(40歳男性/営業関連)


営業って、人と会うことが基本じゃないですか。

僕はそれをあくまで"仕事"として考えていたので、「新型コロナウイルスの影響で在宅ワークが増え、クライアントに会う機会が減ったなら、それは合理的な話だな」と漠然と感じていました。

しかし、実際にはそんな単純な話でもなさそう。今回のご相談を拝見し、強くそう感じた次第です。

いいかえれば、"仕事だから、営業マンとして人と会っている"という人ばかりではなく、"人が好きだから、営業マンとして仕事をしている"人もいるのだなということを改めて実感したわけです。

営業向きではない僕のような人間からすると、「仕事として人と会う=ちょっと苦痛」だったりするわけですが、人と会うことが好きな営業マンにとっては「人と会えない=苦痛」である場合もあるということ。

だとすれば、寂しさを感じたとしても無理はないでしょうね。

ただ残念ながら、会えないものは会えないわけです。だとすれば、気持ちを前向きに持っていくしかない……いや、気持ちを前向きに持っていくのがベストだと考えるべきではないでしょうか?

寂しいかもしれないけれど、どうしようもないのであれば、"誰とも会えない"という現実をまず受け入れ、少しでも寂しさを感じずに済むような方向へ自分を持っていくべきではないかと考えるのです。

障害を乗りこえて進む手段を考える

『心の持ち方 完全版 プレミアムカバー』(ジェリー・ミンチントン 著、弓場 隆 訳、ディスカヴァー携書)の著者は、「障害を乗りこえて進む」ことの重要性を説いています。

  • 『心の持ち方 完全版 プレミアムカバー』(ジェリー・ミンチントン 著、弓場 隆 訳、ディスカヴァー携書)

もし「誰とも会えない日々が続き、寂しい」ことが精神面で障害になっているのだとすれば、ここに書かれていることは多少なりとも役に立つかもしれません。

こんな状況を想像してみよう。車で買い物に行く途中、道の真ん中に木が倒れていた。その時点で、あなたには三つの選択肢がある。あきらめて引き返すか、木を動かして取り除くか、迂回路を見つけるか。
人生もそれとたいへんよく似ている。計画を立てて目標を設定したものの、障害が立ちふさがることがよくあるからだ。やはりそのときも、三つの選択肢がある。目標のことは忘れるか、工夫して障害を取り除くか、障害を避けて通る方法を見つけるか。(140ページより)

今回のご相談についても同じ。在宅ワークになったおかげで人と会えなくなり、やろうと思っていたことができなくなったという事態は、道の真ん中に木が倒れていた状態のようなものであるわけです。

ポイントは、「正しい選択肢は、困った状況の扉を開く」ということ。今回の問題に関していえば、「誰とも会えず寂しい」という状況を"人生の行く手に立ち塞がる障害"と位置づけ、それを克服するための手段を考えればいいわけです。

「それは難しい」と思われるかもしれませんが、たとえばZoomで相手の顔を見ながら話をしてみるなど、「誰とも会えず寂しい」状況を緩和する方法はなにかしらあるはずです。

人間の精神は強い。私たちは自分で思っている以上のことを成し遂げることができるし、実際、自分でも驚くことがある。障害を乗りこえるたびに強くなり、今後さらに大きな障害を乗りこえられるようになる。(141ページより)

そういう意味では、いまの状況はまさに大きな石に遭遇したときのようなもの、それを踏み台にして飛躍するか、躓いて挫折するか、どちらを選ぶこともできるということです。

ひとりの時間を楽しんでみる

誰にでも、なりたくないのに一人になってしまう経験はあると思います。
話の輪に入れなかったり、話題が自分の頭を飛び越えて進んでいたり、一人で昼食を食べなければいけなくなったり、お酒の席の誘いがまったくなかったり、食事に行く流れからはじき飛ばされていたり、どのグループにも入れなかったり、そんな経験は、誰にでもあるはずです。
そうなりたくないから、私たちは一生懸命、会話します。過剰に気をつかって、一人にならないようにします。グループや仲間や友達や派閥を必死で作ろうとします。
でも、結果的に一人になった時に、孤独になったと感じます。(14ページより)

『孤独と不安のレッスン』(鴻上尚史 著、だいわ文庫)にはこう書かれています。いろいろな例が示されていますが、「誰にも会えなくて寂しい」という気持ちもまた、ここにあてはまるのではないかと思います。

  • 『孤独と不安のレッスン』(鴻上尚史 著、だいわ文庫)

ただ、「自分はどうしたらいいんだろう?」「どうしたら、ひとりじゃなくなるんだろう?」などと考えれば考えるほど、どんどん苦しくなっていくはず。しかしそんななかにあっても、たったひとつ、疑問に思わないことがあるのだと著者は指摘しています。

それは、「どうして一人じゃいけないんだろう?」ということです。
「自分の何が悪かったんだろう?」とは考えますが、「どうして、一人じゃいけないんだろう?」とは考えません。(16ページより)

「誰とも会えなくて寂しい」という気持ちも同じですよね。そうは考えるのに、「どうして、誰にも会えないのはいけないことなんだろう?」という発想には至っていないわけです。

誰にも会えなくて寂しいのは、自分ひとりだから。けれど本来であれば、「ひとりはみじめだ」というような考え方こそが違っているのではないでしょうか?

「一人であること」は、じつは、苦しみでもなんでもありません。「本当の孤独」を体験した人なら分かりますが、ちゃんと一人でいられれば、その時間は、とても豊かな時間です。
「一人はみじめじゃない」と思うことができれば、一人の時間は、びっくりするぐらい豊かな時間になります。
さまざまな発見を経験する時間になるのです。(21ページより)

だからこそ、誰とも会えない日々が続いているのであれば、ひとりの時間を楽しむことを考えてみるべきなのかもしれません。そうすれば、いままで見えていなかったものが見えてくるはずだから。

「なぜ寂しさを感じているのか?」と自分に問いかける

『「孤独ちゃん」と仲良くする方法 「さみしいのは私だけ?」と思っているあなたへ』(古山有則 著、大和出版)の著者はメンタルトレーナーですが、かつてはすべてがうまくいかず、未来も描けず、孤独感にさいなまれていたのだそうです。

  • 『「孤独ちゃん」と仲良くする方法 「さみしいのは私だけ?」と思っているあなたへ』(古山有則 著、大和出版)

そんなとき「孤独ちゃん」の存在を知ったのです。
この「孤独ちゃん」というのは、心の中に住む本当の自分の姿。
「本当は寂しいんだ」「本当は不安なんだ」という自分の声だとわかりました。
(「誰の心の中にも『孤独ちゃん』がいる はじめに」より)(64ページより)

また、それを発見したことで、なぜか心が軽くなることにも気づいたのだとか。そして「孤独ちゃん」を受け入れ、仲よくすることで、いままで知らなかった自分を見つけることができ、ネガティブな気持ちが消えて毎日が楽しくなっていったのだといいます。

今回のご相談にもいえますが、ひとりでずっと過ごしていると、不安になるのは当然のこと。著者もよく、「寂しい気持ちを感じないようにするにはどうしたらいいですか?」と相談を受けるそうです。

多くの人は寂しさ、つまり本書のいう「孤独ちゃん」を悪いものやネガティブなものだと思っているわけです。しかし、そもそも著者は寂しさを悪いものだとは思っていない断言しています。

寂しさは誰もが感じるもので、決して悪いことではないから。

寂しさを抱えたとき、まず大事なのは、「外」に目を向けるのをやめることです。
私たちはつい、友人や世間と自分を比べてしまいがちです。
つまり、「外」に目を向けて、誰がどこに旅行に行っているか、誰がどんな会社に勤めているかなどをつい気にしてしまうのですよね。
でも、それでは「寂しさ」とうまくやっていくことはできません。
ベクトルを「外(=他人)」ではなく「内(=自分)」に向ければ、寂しさの原因ときちんと向き合うことができます。(15ページより)

これは、寂しさをネガティブにではなく、ポジティブにとらえるという考え方だと著者はいいます。

「内」に目を向ける、つまり「なぜ私は寂しさを感じているんだろう?」と自問自答をしてみるべきだということ。

今回のご相談についての重要なポイントも、まさかにここではないかと感じます。寂しい場合、無意識のうちにその状態を否定的に捉えてしまいがち。でも、「なぜ寂しさを感じているのか?」と自分に問いかけ、「別にひとりは悪いことじゃない」と考えを進めていけば、やがて"ひとりの心地よさ"に当立ちできるはずだということです。