悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「コロナ禍でこの先どうなるのか不安で仕方がない」と悩む人へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「コロナのせいで会社の業績がダウンし、それに伴い収入減にもなった。来年の展望もよくないしこの先どうなるのか不安で仕方がない」(48歳男性/営業関連)
新型コロナの影響で、生き方そのものにダメージを受けている方が少なくありません。目に見えないウイルスが原因であるだけに、なおさら心配ですよね。お悩みになる気持ちも、痛いほどわかります。
ちなみに僕の場合は、ご相談内容を拝見した結果、過去の自分のことを思い出したりもしました。リーマン・ショックのときの話です。
同じような経験をされた方も少なくないと思うのですが、僕もあのときには絶望の淵に立たされました。とにかく、笑いたくなるほど極端なペースで仕事がどんどん減っていったからです。
当然ながら収入も激減し、住宅ローンなどを抱えていた(いる)だけに、どちらを向いても逃げ道がない状態。そのため、悪夢にうなされながら目を覚ます日々が1年くらい続きました。あのころは、うつの一歩手前まで追い詰められていたように思います。
ただ、それでも前に進むしかないじゃないですか。不安だからと自分を追い込んだら、さらに状況は悪化するに決まっているのですから。そこで、あのときは、極力ネガティブなことを考えないように意識したのでした(難しそうですが、意外と慣れるものです)。
そしてもうひとつ。いま、目の前にある仕事に感謝しようと考える習慣もつけました。たとえ小さな仕事であったとしても、声をかけてくださる人がいるとしたら、そのことには感謝して、しっかり期待に応えるべきだと思ったからです。
だからといって、すぐに救いとなるような答えが出たわけではありません。いずれ好転するという保証があったわけでもありません。けれど、感謝することの大切さを信じ、日々できることを愚直に続けていくことが大切だと信じていただけのこと。しかしその結果、少しずつですが状況が好転していったのです。
「いまはもう安心」というわけではなく、いつかまた逆戻りしてしまうかもしれないという恐怖心は相変わらず残っています。しかし、だからこそ感謝の気持ちを忘れず、「いまできること」を大切にしながら生きようと思っているのです。そして、おそらくこれは僕だけではなく、多くの人に当てはまることでもあるはず。僕はそう考えます。
さて、ビジネス書は、この問題にどう答えてくれるでしょうか?
決断(=「決める」「断つ」)する
タイトルからもわかるとおり、『仕事消滅時代の新しい生き方』(本田 健 著、プレジデント社)はポスト・コロナの時代の生き方についての指南書。
でも、「ある日突然、会社がなくなる、産業そのものが消えてしまう」というような時代を生き抜くためには、いったいどうしたらいいのでしょうか?
大切になってくるのが、時代を読み取る眼力です。
たとえこれまで成功していたとしても、もはや需要のない仕事にしがみついていては、収入には結びつきません。
これからの時代、人々は何を求め、社会は何を必要とするのか?
それを冷静に分析し、あなたの能力を提供できることは何かをシミュレーションするのが、この「仕事消滅時代」を生き延びるための唯一のカギなのです。(「はじめに」より)
たとえば著者は本書のなかで、「決める」ことの重要性を説いています。コロナショックを筆頭とする世界の事象に対し、自分にできることはあまりないと思うかもしれないけれど、「とにかく変わろう!」と決めることはできるはずだと。
なにも決めずになんとなく過ごしていたのでは、チャンスに恵まれなくても当然。しかし、たとえ一流企業に勤めていたとしても、会社がいつまで続くかわからない時代です。だからこそ「決めること」、すなわち決断力が重要だということ。
なお決断力というと「決める」ことに気を取られがちですが、大事なのは決断の「断」のほう、すなわち「断つ」ことだといいます。なにかを決められない人を見ていると、彼らが決断できないのは「あとでもっといい選択肢が出てくるのではないか?」という気持ちがあるから。
ほかの可能性を立ちきれないということで、しかしそれでは前に進めないわけです。
その意味では、もう後がない今の時代では、断つことは比較的簡単ではないでしょうか。
これからもたくさんの人が仕事を変え、住まいを変え、独立を決意することになるでしょう。
慣れ親しんだ仕事や仲間と別れるのは、つらいかもしれません。でも、新天地でゼロから自分の力を試し、新しい仲間と出会う人生は、きっと今以上におもしろくなると思います。(31〜32ページより)
たしかにそう考えれば、「断つ」ことは決して怖いものではないということがわかります。すべては自分の考え方なのでしょう。
## タフに働き続けられる人の共通点とは?
ところで"不安な時代"を生き抜くためには、メンタルの強さも必要になるのではないでしょうか。そこで参考にしたいのが、『外資系エリート1万人をみてきた産業医が教える メンタルが強い人の習慣』(武神健之 著、PHP研究所)。著者は外資系企業の産業医として、年間1,000件以上の面談を行っているという人物です。
外資系企業は、常に厳しく成果を問われ、業績不調が続けば解雇されることも珍しくない環境です。したがって、そこで長く活躍していくためにはストレス耐性やメンタルフルネス(レジリエンシー)が重要。しかしそれは、この社会に生きるすべての人に言えることでもあるはず。
そこで、「ストレス耐性(=メンタルの強い弱い)は天性のものではなく、強化できる技術(スキル)であるという考え方を軸とした本書が役に立つわけです。具体的にいうと、今回のご相談には「外資系企業で潰れることなくタフに働き続けられる人に共通するという3つの特徴が応用できそうです。
特徴(1)「辞めれば、治る」と知っている
特徴(2)自分なりの「働く意味・意義」がある
特徴(3)忙しいときの「マイルール」を決めている
(36〜40ページより抜粋)
まず(1)は、いざとなればやめる度胸のある人は潰れないという考え方。外資系企業で働く多くの人は、「給料は高いが、雇用の継続は保証されていない」ことを受け入れて入社(転職)してくるもの。したがって、いつでも辞められる自分でいることが重要だということです。
ところで長く働いていると、多くの人は目的や決意を忘れてしまいがちでもあります。そこで重要な意味を持つのが(2)。そこで働く意味、意義を見いだせている人は、ハードな環境での強いストレスにも主体的に立ち向かうことができ、潰れにくいわけです。
外資系で元気に働ける人の多くは、自分の体力の限界や、パフォーマンスが上がらなくなる限界を知っているもの。そして「睡眠不足の日が続いたら、次の日は必ず6時間は寝る」「ジムには必ず行く」などのマイルールをつくっている人ほど、ハードな環境でも長続きするのだそうです。すなわち、それが(3)。
どれも外資系企業だけではなく、あらゆる仕事に応用できるはず。それが、強靭なメンタルにつながっていくのでしょう。
自分にどんな選択肢があるか考える
『カイシャインの心得〜幸せに働くために更新したい大切なこと』(山田 理 著、大和書房)の著者は、サイボウズ株式会社取締役副社長 兼 サイボウズUS社長。日本興業銀行からサイボウズへ転職したという、異例の経歴の持ち主です。
1「できる」×「やるべき」から始める(「やりたい」は後からついてくる)
2 自分の幸せをゴールに選択できる
3 質問責任を持つ
(「はじめに」より)
これらを"カイシャインの心得"として掲げていることからもわかるように、基本的には若い人へ向けられた書籍だといえます。が、その内容はどの世代にも通じるものでもあります。たとえばいい例が、「会社に残るか、転職するか」についての考え方。
「このまま会社にい続けるのか、ほかの道を選ぶのか」という問題には、誰もが悩まされるもの。ましてやポスト・コロナの時代には、その選択が大きな意味を持つことになる可能性があります。
でも、「なにか違うな」と思いながらも我慢し続けているのは、決断するのに必要な情報が揃っていないことでもあると著者は指摘しています。
「転職した方が幸せになれるような気がするけれど、転職先での仕事が向いているかどうか自信がなく、確かめる方法もない」というような状態なのだとしたら、我慢し続けるか、あるいは不安に目をつぶって飛び込むしかないわけです。
しかし、そんなときには、(副業OKの会社であるなら)まずは副業でやってみるという手段もあります。そうすれば、できそうかどうかを判断することが可能。会社を辞めずに、もうひとつの仕事も始めるという選択もできるわけです。いろいろ試してみる機会があれば、我慢の状態から抜け出して決断できるのですから。
日本でも副業を取り入れる会社はどんどん出てきています。これからももっと増えていくことでしょう。その考え方がもっと加速していくと、所属している会社すら本業ではなくなるかもしれない。そうすると社員であることにこだわらなくてもいい社会になるのではと考えています。(100ページより)
つまり、選択肢はいくらでもあるということ。そう考えることができれば、副業をするか否かという問題も含め、あらゆる手段が見えてくるはず。こういう時代だからこそ、可能性もまた大きいわけです。