悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「リモートワークの情報共有がうまくいかない」と悩む方へのビジネス書です。
■今回のお悩み
「在宅勤務や職場内で席や部屋を離す対策を取っているので、情報共有がうまくいきません」(40歳男性/公共サービス関連)
新型コロナウイルスは、ビジネスパーソンの働き方を大きく変えることになりました。まさか、会社に行かなくてもいい(それでもなんとかなる)時代が訪れることになるなんて、ほんの一年前には考えられないことだったのではないでしょうか?
これまで常識と思われていたワークスタイルが、ことごとく覆されることになったのです。
いずれにせよ、そうなってくると今回のようなお悩みが出てきたとしてもまったく不思議ではありません。在宅勤務になったり、あるいはソーシャルディスタンスを意識してオフィス内での各人の距離が離れたりすれば、必然的に情報共有は難しくなるのですから。
ただし、そんななかで情報共有がうまくいかないと感じるのだとすれば、原因は「いままでどおりのやり方」に執着していることにありそうな気もします。そして、もしそうなのだとしたら、考え方を変える努力をすべきだと思います。
時代状況が激変したのに昔ながらのスタイルに執着していたのでは、うまくいくものもうまくいかなくなって当然。でも、時代が変わったことは事実です。したがって。まずはそれを認識すべきだと思います。
そこから次のステップとして、新たなライフスタイルに慣れていけばいいのです。「そんなこと難しすぎる」と思われるかもしれませんが、人間には意外と順応性があるものです。最初は「苦手だ」と感じることであっても、短期間で慣れることができるということ。
そこで、いま目の前に現れた新しい時代に向け、新しいワークスタイルを身につけてみるべきかもしれません。やってみれば、驚くほど簡単に慣れることができるはず。
共通のコアタイムを決め、画面を共有する
『リモートワークの達人』(ジェイソン・フリード、デイヴィッド・ハイネマイヤー ハンソン 著、高橋璃子 訳、ハヤカワノンフィクション文庫)は、世界的に著名なソフトウェア開発会社である「37シグナルズ」の創業者兼CEOと、その共同経営者のふたりによる共著。
注目すべき点は、同社が10年前からリモートワークを活用しているという事実。しかも、それが結果につながっているのです。
当初のメンバーは、コペンハーゲンとシカゴに1人ずつ。そこから順調にリモートで成果を上げてきた。現在では世界各地の36人のメンバーが僕らの会社で働いている。ユーザー数は数百万人、世界中のあらゆる国が僕らのフィールドだ。
そうした経験をもとに、リモートワークがいかに豊かで自由な世界かということを紹介したい。
オフィスに集まって働くという固定観念をくつがえし、新たな世界の扉を開くのだ。(「イントロダクション」より)
今回のテーマである「情報共有」についても、しっかりページが割かれています。情報共有をするためにはスタッフ間のコラボレーションが必要になりますが、リモートワークでそれを成功させるコツは、共通のコアタイムを決めることなのだそうです。
完全に勤務時間を自由にすると、メールの返事を翌日まで待たなくてはならないこともある。それでも仕事はまわるかもしれないが、不便なことは否めない。
僕らの経験上、毎日4時間はみんな同じ時間に働いたほうがいい。そうすればコミュニケーションもうまくいくし、チームの一体感がでてくるからだ。(95ページより)
相手の作業内容が見えないと不安だという意見もあるでしょうが、いまの世の中には離れた場所でのコラボレーションを助けてくれるたくさんのツールがあります。遠隔地と画面を共有し、同じものを見ながら話し合うこともできるわけです。
慣れてしまえば、同じ部屋にいるのと同じ感覚で作業ができるのだとか。リアルタイムに同じものを見ているのですから、隣の席にいるのとほとんど変わらないわけです。
画面を共有するということは、同じスクリーンを見つめるということだ。まるで相手が隣にいて、1台のコンピュータやプロジェクタを見ているかのように作業ができる。
つまり人間の顔色よりも、仕事そのものにフォーカスするということだ。(100ページより)
しかも最新のテクノロジーは、総じて使いやすいもの。それらを活用すれば、リモートワークによる情報共有は決して難しいことではないわけです。
在宅勤務で電話連絡はNG
リモートワークにおいてコミュニケーションが重要なファクターであることは、『在宅HACKS!: 自分史上最高のアウトプットを可能にする新しい働き方』(小山 龍介 著、東洋経済新報社)の著者も認めています。
なにしろ「コミュニケーション」だけで一章分のページ数を割いているのですから。そしてそのなかには当然、情報共有に関するトピックスも含まれています。特に注目すべきは、「在宅勤務で電話連絡はNG」という項目です。
リモートワークで情報共有をするためには、電話が大きな役割を果たしてくれそうです。ところが、在宅勤務における電話のやりとりは、情報共有という意味で非常にコストの高いコミュニケーション手段だというのです。
なぜなら電話のやりとりは2人だけに限られ、その方法を他の人が知ることができないから。他の人とも共有するためには、さらに電話をかけ続けなくてはならないわけです。
他の人も知るべき情報である以上、リモートワークによってそれを共有するのは大変。しかも会話は、その時間、そのタイミングに参加していないと情報共有できないコミュニケーションツールでもあります。
したがって、オフィスならまだしも、それが共有されていない人同士のコミュニケーションにおいては、会話は非効率だということです。
その点、インターネットのグループチャットであれば、デジタルデータなので、すぐに多人数と共有できます。グループに入ってさえいれば、二人がやり取りしていても、その様子を他の人も見ることができ、状況を把握することができます。メッセージを送ったタイミングに見ていなくても、自分の好きなときに確認できます。(89ページより)
電話で連絡をし続ける限り、在宅勤務でのコミュニケーションは時間に縛られ続けることになると著者は断言しています。それでは場所が自由になっただけであり、時間で縛られるのですから相当なストレスを感じることにもなるでしょう。
けれどグループチャットなら、そうしたデメリットを克服することができるのです。
「オンライン化に抵抗する人」の恐怖や不安を取り除く
在格勤務で情報共有をする際には、オンライン会議も非常に重要。とはいえ慣れないことであるだけに、なかなか思うようにいかないという方もいらっしゃるはず。そこで最後に、『オンライン会議の教科書』(堀 公俊 著、朝日新聞出版)をご紹介したいと思います。
著者は、組織の力を最大限に引き出すファシリテーションのスキルを20年以上にわたって研究・実践してきたという人物。つまり本書においては、長い活動実績のなかで培ってきたノウハウを明かしているわけです。
著者はここで、「オンライン化に抵抗する人」の問題にも焦点を当てています。「オンラインでは話にならない」と会議に参加しようとしない人のことです。オンライン会議に限らず、新しいことを始めようとすると反発する人が出てくるもの。今回のご相談者さんも、もしかしたらそこに組み込まれるタイプかもしれません。
しかしそれは仕方がないことでもあるので、最初は自己判断によるオブザーバー参加で充分だといいます。また同時に大切なのは、「抵抗する人」のなかにある変化への恐怖や不安を取り除くこと。
オンライン会議で多いのはITリテラシーの話です。使い方が分からないとか、操作に慣れないとか。
その場合は、個人指導をしたり練習会を設ける必要があります。オンライン飲み会をやって抵抗感を払しょくするのもひとつの方法です。相互理解にも役に立ちます。(237〜238ページより)
たしかに、「わからない」ことは大きな障壁になってしまうもの。慣れないことに慣れてもらうためには、そうした不安を持つ人への配慮が欠かせないということです。そこで、ご相談者さんのような方にとっては、サポートしてくれる人の存在が大きな意味を持ってくるわけです。
なお重要なポイントは、ひとたびその壁を乗り越えたあとの「気づき」。乗り越えてしまうと、それまで悩んでいたことをおかしく感じてしまうほど、そこから先は簡単だからです。
実は僕も、先日それを実感しました。上記にも出てくる「オンライン飲み会」については当初やや否定的だったのですが、やってみたらすぐに気持ちが変わったのです。なぜなら、思っていた以上に簡単で、そして楽しかったから。
気がつけば、3時間も画面に向かって有意義な話をし続けることができたのでした。
そんな経験をしたからこそ、今回ご紹介した3冊の著者の主張にも大きく賛同できるのです。