悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、同僚からの面倒な頼まれごとをうまく断れない人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「同僚から面倒ごとを頼まれたときのうまい断り方は」(42歳男性/専門サービス関連)

  • 面倒な仕事、どう断る?


どこの世界にも、「断れない人」がいるものです。嫌なことを頼まれたとしても、「断ったら面倒なことになるのではないか」「嫌われてしまうのではないか」というような思いが先に立ってしまい、結局は引き受けてしまうというような。

かつて、僕もそういう人タイプの人に出会ってきた経験があります。ただ個人的には、たとえ不安だったとしても、そういうときにはきっぱりと断るべきだと考えています。

なぜなら、曖昧に引き受けてしまうと、あとで取り返しのつかないことになることもあるから。

嫌なのに断れなかったとしたら、自分自身のなかには多かれ少なかれ不平や不満が残ることになります。でも、もしそれがうまくいかなかった場合、溜め込んでいた不満が爆発する危険性があるわけです。「だから私は、本当は嫌だったんだ」というように。

そうなると、まとまるはずだったものもまとまらなくなり、場合によっては信頼関係が崩壊するなど、最悪の結果を招くことも考えられるのです。

でも、受けてしまった以上は文句を言う資格はありません。反対意見を持っていて、それを明らかにしたいのであれば、最初の段階ではっきり断るしかないのですから。

もちろん、それは怖いことだと思います。でも、断りきれずに曖昧にしてしまったら、もっと怖いことになる可能性は決して小さくないのです。それに実際のところ、怖さを乗り越えて自分の意思をはっきり伝えれば、案外うまく纏まったりするものでもあります。

さて、今回選んだ3冊の本は、この問題に対してどう答えてくれるでしょうか?

断るときこそ"大人の言い方"で

相手になにかを伝える場合、「論理的に話したり、ちゃんと説明できたりすることが大切なのではないか」と考えてしまいがち。もちろんそれも重要なことではあるものの、同じように大切なのは、相手の感情に気を配ること。

そう主張しているのは、さまざまなコミュニケーションに関する研修を手がけているという『大人なら知っておきたいモノの言い方サクッとノート』(櫻井 弘 監修、永岡書店)の著者です。

  • 『大人なら知っておきたいモノの言い方サクッとノート』(櫻井 弘 監修、永岡書店)

完璧に説明しようとすると、論理ばかりに意識が向いてしまうものです。しかし、どんなに正当な理由があったとしても、感情で納得させることができなければ相手は納得してくれなくて当然だということです。

もちろんそれは、断るときも同じ。それどころか、断るときこそ"大人の言い方"が重要だというのです。断る理由を、しっかりと伝えるべきだということ。具体例が紹介されているので、いくつかを抜き出してみましょう。

■相手の要求を断る
×そんなのできないよ
○いたしかねます
[実例]○○の件、私どもの方ではいたしかねます。
[POINT]丁寧で、相手を立てた断りの言葉。「できない」よりも語感がやわらかくなるので、積極的に使っていきましょう。
(130ページより)

今回のご相談は同僚からの頼まれごとの断り方ですから、上記のままでは他人行儀で不自然かもしれません。ただしポイントは、「『できない』よりも語感がやわらかくなる」という部分。

つまり、同僚に対して使うことばについても、同じように「やわらかさ」を意識すればいいのです。たとえば「それは難しいなぁ」「ごめん、自信がないや」など。要は、角が立たず、相手も「そうだよね」と返したくなるようなことばを選べばいいのではないでしょうか?

たとえばこのように、本書にはさまざまな伝え方の具体例が掲載されています。シチュエーションや、あるいは目上の人に対する伝え方も網羅されていますので、手元に置いておけば、なにかと役に立つかもしれません。

相手を不快にさせない断り方を探る

『無礼な人にNOと言う44のレッスン』(チョン・ムンジョン 著、幡野 泉 訳、白水社)の著者は、韓国・大邱出身。雑誌記者や企業ブランドの広報担当者を経て、 20代女性向けのライフスタイルWebサイト「大学明日」のデジタルメディア編集長を務めているのだそうです。

  • 『無礼な人にNOと言う44のレッスン』(チョン・ムンジョン 著、幡野 泉 訳、白水社)

本書は、そんな著者が、前向きに生きていくためのメソッドを綴ったエッセイ。2018年初頭に韓国で発売され、わずか40日間で7万部の売上を記録したベストセラーです。

女性をターゲットにしたものですが、男性が読んでも納得できるはず。特に「断り方」については自身のご主人のことを引き合いに出しているため、男性目線で受け取ることも可能です。

著者のご主人は「やさしそうだ」といわれ、その見た目のせいでしょっちゅう頼まれごとをされてしまうのだといいます。しかも頼まれごとのために、本来自分がすべきことを後回しにしたり、徹夜してまで取り組んでいるのだとか。

よく頼まれごとをされる人は、頼られなくなることを恐れたり、相手をがっかりさせたりしたくないために自らを酷使してまでエネルギーを費やすもの。しかし人間関係において重要なのは、「重要度に見合った時間とエネルギーをどうやりくりするか」ということです。

そこで、できるだけ相手に不快な思いをさせることなく断る方法を探してみるべきだと著者は主張しています。

頼まれごとをうまく断るには、まず相手からの連絡を快く受け取ることが肝心だ。そして、「あなたからの依頼を引き受けてあげたいけれども、状況的にそれができない」というメッセージをそれとなく伝えるのだ。連絡がきたそばから気乗りしないそぶりを見せるのでなく、まずは快く受け入れつつ、依頼の内容とスケジュールをよく聞いた後、「いい機会を与えてくれてありがとう」、「大切なことのために私を思い出してくれてうれしい」と、感謝の気持ちを述べてみよう。そうすれば、断られた相手も不快な思いをしないはずだ。(103ページより)

嫌われたくないという思いを拭えず、「できないと答えたら相手が離れていってしまうかもしれない」と不安で無理な要求を聞いてしまう関係が固定化すると、ますます不協和音が生じてしまいます。

そして偏った関係性を手に入れた相手は、無理な要求だと知りながらも依頼をやめなくなるものでもあります。対して依頼を受ける人は、認められたいという歪んだ希望と被害者意識を混在させ、イライラしたり意気消沈したりすることになるわけです。

しかし、どう考えてもそれは健全な関係ではありません。著者も、大人とも言われたいし、その一方でうまく断りたいと願うのは単なるわがままだと記しています。2つのうち1つはあきらめることをおすすめすると。

たしかに、そのとおりではないでしょうか?

相手を否定しない"断り上手"に

さて、最後にご紹介したいのは、『できる大人は、男も女も断わり上手』(伊藤由美 著、ワニブックスPLUS新書)。銀座「クラブ由美」オーナーママである著者が、"カドの立たない"お断わりの作法を伝授しているユニークな一冊です。

  • 『できる大人は、男も女も断わり上手』(伊藤由美 著、ワニブックスPLUS新書)

現代社会においては、「白黒をはっきりさせるのが当たり前」の欧米型コミュニケーションが一般的になっています。しかしその一方、「波風を立てず、摩擦を起こさないように『YES』『NO』とはっきり白黒つけず曖昧にして、うまく折り合いをつけていく」という日本的な価値観にも認められるべきものがあると著者は言います。

「常に礼儀や礼節を重じて、自分よりも他人の心情を気遣い、尊重する」という日本人の価値観や道徳観念は素晴らしいと。ただし、大切にすべきは他人だけではなく、「自分」であることもまた事実。

何かを頼まれると、相手のことを慮って、つい「YES」と引き受けてしまう。その行動を頭から否定するのではありません。何でもかんでも「YES」では、他人に振り回されるだけの人生になってしまいますよ、ということです。
そこで求められるのが、相手のことを気遣いながらも、イヤなことや無理なことには「できない」と伝える、つまり「断り上手になること」です。
そして重要なのは「さりげなく相手を気遣いながら」という点。ここが日本人のよき価値観であり、粋といわれるゆえんになります。(「はじめに」より)

そこで本書では、「断り方」をさまざまな角度からレクチャーしているわけです。そんななか、今回のご相談に関連して注目したいのは、「自分が言われてイヤな断り方をしないーー相手を否定しない」という項目が設けられていることです。

断ることに後ろめたさを感じるのは、「不快にさせてしまうのではないか」というような思いがあるから。けれど、断ろうとしているのは、あくまでも相手が申し出てきた「案件」。決して、相手の人間性を否定したり、拒絶したりしているわけではないのです。

だからこそ、依頼や誘いを断るときには「相手を否定してしまう」という考え方をやめるべきだと著者。しっかりと線引きをして、「頼まれた案件」と「自分の事情」がマッチしないだけだということを伝えればいいということです。

余裕があれば引き受けたいのですが、今は手いっぱいなんです。(48ページより)

たとえばこう伝えれば、相手だって「仕方がない」と納得してくれるはず。同時に、自分自身が感じている「断ることへん抵抗感」も軽減できることでしょう。


つまり、重要なのは「伝え方」だということ。それは、今回ご紹介した3冊に共通したメッセージであるともいえそうです。