「百年の恋も醒める瞬間」とは一体なんなのか。愛し合っている男女が、ふとした瞬間にそれぞれの知られざる一面や想像を絶する醜態を目の当たりにしてしまい、恋の炎が一瞬にして鎮火されてしまう。それが浮気や暴力などといった明らかな悪事が原因なら仕方ない。しかし、一方にまるで悪意がないにも関わらず、先方が勝手に醒めてしまう場合もあるため、少々厄介なのだ。

例えば僕の友人のOくんなどは3年付き合った最愛の彼女と性行為に励んでいる最中、あまりに彼女が興奮し、「出る、出るー!!」と絶叫しながら脱糞するというエキセントリックなアクシデントに出くわしたことがあるらしい。

しかし、Oくんはそれでも恋心が醒めることはなかった。「脱糞なんて誰でもするんだから大丈夫!」と笑顔で彼女にピースサインを送り、掃除もせずにそのままフィニッシュまで事を完遂。僕はOくんの心意気に痛く感銘を受けた。本当に好きならそれぐらいどうってことないと思うのだ。

けど、彼女はそうじゃなかった。彼女の脱糞を見たOくんより、彼氏に脱糞を見られた彼女のほうが心の傷は大きく、その後、別れ話を切り出してきたという。

「あんな屈辱を見られた以上、あなたとはもう付き合っていけない。百年の恋も醒めちゃった……」

それが彼女の言い分である。正直、この場合どっちも悪くないと思う。Oくんにはどうもこうも手の施しようがないし、彼女の気持ちもわかるっちゃあわかる。完全に神の悪戯。二人が別れたのは運命としか言いようがないわなあ……。

また、男女の付き合いが長くなるにつれ緊張感が弛緩し、つい恋人の前で堂々とオナラしたり、ケツを掻き毟ったり、とにかく人間が人間であるがゆえに起こりうる様々な醜態を目の当たりにすることで「百年の恋も醒める」ということがある。

瀬川瑛子さんなんてそれが怖くて、結婚してからもしばらくは旦那にスッピンを見せなかったらしい。毎晩、旦那が寝たのを確認してからメイクを落としてベッドに入り、毎朝、旦那が起きる1時間前にはひっそり起きてメイクしていたとか。瀬川さんは旦那の恋心を醒まさないよう、涙ぐましい努力をしていたのだ。

かくいう僕は「恋愛とは緊張感が弛緩した状態でこそ真価が問われる」ものだと思っており、彼女がスッピンであろうがオナラをしようがゲロまみれで泥酔していようが、愛情が揺らぐことは一切ない。

しかし、昔付き合っていたKという女はそうじゃなかった。Kはなるべく彼氏には緊張感を持ってほしいと願うタイプ。だから、僕はいつも服装や髪型はもちろん、直腸や膀胱の衝動にも最大限に気を使わないといけなかったのだ。

そんなある日のことである。Kと喫茶店でお茶していた時、僕は自分ではどうしようもない理由で彼女の「百年の恋」を醒ましてしまった。

それは僕の頭に数匹のハエが止まったからである。

や、これはなかなかヘビーな理由ですよ、あなた。正直、僕にはどうしようもないもん。オナラやゲップを我慢したり、鼻毛の自己主張を抑えたりはできても、ハエの動きまではコントロール不能でしょ。

すると、Kは僕にこう言った。

「喫茶店にこれだけたくさんの人がいるのに、ハエがなんでわざわざあんたの頭を選んで止まったのかっていうことをもっと深く考えて欲しいの」

いや、そう言われても……。僕の頭がウンコなみに臭いって言いたいの? そんなことないって。ちゃんとシャンプーしてるもん。

「いや、そういうことじゃなくて、あんたがそういう星の下に生まれてるってことを言いたいの。この中でハエに選ばれてしまう確率って超低いじゃん。そういう不幸な星を持っている人だって思うと百年の恋も醒めちゃうわ」

わかったようなわかんないような理屈である。しかし、それが原因でKの恋心に暗い影が落ちたのは事実だ。うーん、女心ってほとほとわかんないものだ。

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