前回までのあらすじ
超マイペース且つ大雑把なB型男子である僕の彼女は、あろうことか超几帳面なA型女子だった――。このエッセイは独身B型作家・山田隆道が気ままに綴る、A型彼女・チーとの愛と喧嘩のウェディングロードです。
愛する彼女にもっと綺麗になってもらいたいと願うのは男子の常である。別に現状に不満があるわけじゃないのだが、それでも「もっとこんなファッションをしてほしいなあ」と彼女を愛するがゆえのエゴを心に抱いてしまうわけだ。
しかしだからといって、実際に彼女のファッションを自分好みに改造するのは至難の業だ。男子が下手に「こんな洋服を着て」と彼女に進言した日にゃあ、大抵の女子は頬を膨らませながら「なんで、あんたに指図されなきゃなんないの」と不機嫌になり、挙句の果てには「だったら、そういう女と付き合えばいいじゃん」と突き放してきたりする。まったく、女心は本当に難しい。男子は単純に無垢な希望を口にしているだけなのだが、それが複雑な乙女心を傷つけることだってあるのだろう。
チーもそうだった。かつては金髪ショートのカリアゲヘアという、僕個人の見解としては一般受けしないであろうパンクな個性派ファッションであり、当時は誰になんと言われようが、自分の信念を曲げない頑なな女性だったとか。
しかし、僕と出会った頃にはすでに性格が丸くなっていたというか、清楚な黒髪女性になっており、僕としては助かったのだが、それ以上にありがたかったのは、付き合いだして以降のチーが僕好みのファッションにますます変わったからだ。
もちろん、これは偶然ではない。僕の中では密かだが確固たる作戦があり、確信犯的にチーのファッションを改造したという自負がある。もっとも、僕のほうからチーに「こういうファッションしてほしい」とダイレクトに言った覚えはなく、あくまでチーが能動的にファッションを変えていくよう、間接的に仕向けたわけだ。
その作戦とは名付けて「カメラマン作戦」である。
方法はいたって簡単。あくまで僕とチーの中のプライベートの遊びとして、チーの写真をたくさん撮影し、言わば「世界で一つだけのアルバム」を作ったのだ。
最初はデートのたびにチーの写真を携帯カメラでちょこちょこ撮影していくだけだった。そして撮影回数をある程度重ねたら、今度は膨大な写真データの中から特に美しく撮れた写真だけをいくつかピックアップし、携帯の中にそれ専用のフォルダを作成。後日それらの写真をチーと一緒に観賞したのだが、ここで僕は「これ、かわいいね」と一枚一枚丁寧に絶賛していった。
当然、チーは喜んだ。綺麗に撮れている自分の写真を客観的に見ることで、写真を撮られる快感が徐々にチーの心を支配していき、それはやがて「もっと綺麗に撮られたい」という女性ならではの美への欲求につながっていく。チーの写真を褒めることで、チーの頭の中にある潜在的なモデル願望を刺激するのが狙いだった。
これを何度か重ねていくと、次第に写真撮影が趣味になっていき、そこで僕が「今度はこんな洋服で写真撮ろうよ」と自分好みのスタイルをしれっと提案。すると、チーはそれを撮影のための衣装だと認識したのか、軽く受け入れてくれたのだ。
今思えば、チーは「あくまで遊びの一環として、非日常的なスタイルに変身している」という認識だったのかもしれない。少なくとも「彼氏のいいなり」みたいな意識はなかったと、僕は勝手に信じている。女性のプライドは守ったつもりだ。
その後は同じパターンの繰り返しだった。変身したチーをファッション誌のカメラマンのごとく撮影し、その後厳選した数枚の写真をチーの前で絶賛。彼女にしてみれば「普段は絶対にしないファッションに変身した自分」を写真で客観的に見るだけでなく、それをことごとく褒められるということだ。
そう考えると、チーの気持ちに少しずつ変化が表れだしたとしても不思議じゃないと思う。新しい自分への好奇心が沸き、ファッションやメイクへの意識が高まっていく。結果、チーは能動的にファッションをどんどん変えていったというわけだ。
これは芸能人と同じ理屈である。多くの女優やアイドルが、なぜデビュー当時よりも格段に綺麗になっていくのか。それは金をかけているとか整形しているとか、そういった無粋なことだけでなく、仕事の衣装として様々なファッションやメイクに取り組み、それによって変身した自分の姿を膨大な写真に収められていくことで、本当に自分に似合うファッションを客観的に知ることができるからだと思う。
写真はファッションの視野を広げてくれる。これは自分にも言えることだ。だから僕もなるべく自分の写真を撮るようにしたいのだが、僕の場合、元が悪いうえに近年は老化と体のたるみが著しいので、自分の写真を見るたびに少しブルーになってしまう。他人のファッションをどうこう言う前に、自分の体を鍛えるべきだろう。
前回と今回に関しては、かなり男目線に偏った話題ですいません。どうしても一度書いてみたかったテーマなんです。
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