暗黒の宇宙と、無数の惑星を探る
その広大な視野で、ローマン宇宙望遠鏡は何を見るのだろうか。
大きなテーマのひとつが、宇宙の大部分を占めながら、その正体がわかっていない「ダーク・エネルギー」と「ダーク・マター」だ。
宇宙は膨張しているだけでなく、その膨張は加速していることがわかっている。この加速を引き起こしていると考えられている未知の存在が、ダーク・エネルギーである。一方、ダーク・マターは光では直接見ることができないものの、その重力によって銀河や銀河団の形成を大きく左右してきたと考えられている。
ローマンは、約100億年前までさかのぼって、数億個の銀河を観測する。さらに、太陽のような恒星が一生を終えたあとに残る高密度の天体「白色矮星」が関わって起こる超新星爆発の一種、「Ia型超新星」も数千個観測する。Ia型超新星は、本来の明るさを推定しやすいため、観測された明るさと比べることで、その距離を測る「標準光源」として利用できる。実際に、宇宙の膨張が加速していることを発見する際にも使われた方法だ。
こうした膨大な観測から、ローマンは宇宙が膨張する速さと、銀河などが集まってできる大規模な構造が成長する速さを詳しく調べる。これまで数%程度だった測定精度を0.5~1%程度まで高めることで、宇宙の膨張と構造形成の歴史をたどり、ダーク・エネルギーとダーク・マターの謎に迫ろうとしている。
そのために、ひとつの方法だけではなく、性質の異なる複数の方法を組み合わせる。たとえば、遠方の銀河から届く光が、途中にある物質の重力によってわずかに曲げられ、銀河の姿がゆがんで見える「弱い重力レンズ効果」を利用する。多数の銀河のわずかなゆがみを調べることで、光では見えないダーク・マターが宇宙にどのように分布しているのかを探る。
また、宇宙初期の音波が銀河の分布に残した規則的な痕跡である「バリオン音響振動」は、宇宙の大きさを測る物差しとして利用できる。この痕跡をさまざまな時代について測ることで、宇宙がどのように膨張してきたのかをたどる。さらに、銀河が重力によって動くことで、その見かけの分布に生じる「赤方偏移ゆがみ」からは、銀河などの大規模な構造がどのような速さで成長してきたのかを調べる。
Ia型超新星による距離の測定も含め、このように異なる方法で宇宙の膨張や構造の成長を測り、それぞれの結果を照らし合わせる。ひとつの手法だけに頼らず、同じ宇宙をいくつもの角度から調べられることが、ローマンの大きな強みといえる。
もうひとつの大きなテーマが、太陽系外惑星の観測だ。ローマンは主に「重力マイクロレンズ法」を使って、銀河系にどのような惑星が、どれほど存在するのかを調べる。
地球から見て、手前の星と遠くの星がほぼ一直線に並ぶと、手前の星の重力によって遠方の星の光が曲げられ、一時的に明るく見える。さらに手前の星の周囲に惑星があれば、その重力も明るさの変化に小さな痕跡を残す。ローマンは銀河系中心方向を約72日間ずつ6回にわたって集中的に観測し、その間、約12分間隔で数億個の恒星の明るさを測り続ける。
この方法は、これまでの系外惑星探査を補う点でも重要だ。惑星が恒星の前を横切る際の減光を捉える「トランジット法」は、恒星の近くを短い周期で回る惑星を発見しやすい。これに対してマイクロレンズ法は、恒星からより遠く離れた惑星にも感度を持ち、火星程度の質量の小さな惑星まで捉えられる。さらに、どの恒星にも属さず銀河系を漂う「浮遊惑星」も見つけられる可能性がある。ローマンはマイクロレンズ法で1,000個を超える惑星が発見できると期待されており、同じ観測データからトランジット法でも約10万個の惑星が見つかると予想されている。
これにより、火星ほどの小さな惑星から巨大惑星まで、どのような惑星が、恒星からどれほど離れたところに、どのくらいの頻度で存在するのかを調べられる。それによって、惑星がどのように形成されるのか、そして私たちの太陽系はありふれた存在なのか、それとも珍しい存在なのかを考える手がかりが得られるだろう。
系外惑星については、コロナグラフ装置を使った直接観測も行われる。主星から約0.3秒角離れた位置で、主星の1,000万分の1以下の明るさしかない巨大な系外惑星などを直接捉え、分光や偏光観測を試みる。さらに長時間の観測では、5億分の1程度のコントラストに挑む。
ローマン自身が地球に似た惑星を直接撮影することは主目的ではないが、ここで磨かれる技術は、NASAが構想する次世代宇宙望遠鏡「ハビタブル・ワールズ・オブザバトリー」(Habitable Worlds Observatory)へと受け継がれていく。HWOは、主星の100億分の1ほどの明るさしかない地球型惑星を観測することをめざしている。
宇宙と地上から、日本も支える
ローマンはNASAの宇宙望遠鏡だが、その計画には日本も国際パートナーとして参加している。
宇宙航空研究開発機構(JAXA) 宇宙科学研究所を中心に、国立天文台、大阪大学、北海道大学、名古屋大学などの研究者が加わっている。日本の貢献は、コロナグラフ装置への光学技術の提供、美笹深宇宙探査用地上局でのデータ受信、すばる望遠鏡とPRIME望遠鏡による協調観測、そして観測計画やデータ解析を含む科学協力に及ぶ。
コロナグラフ装置への協力では、日本の技術が実際にローマンに搭載されている。日本の研究グループは、惑星から届く光の性質を詳しく調べるための部品を設計・製作したほか、恒星の強い光を抑えるコロナグラフマスクの基板も提供した。こうした技術は、将来、地球に似た惑星を直接観測する次世代の宇宙望遠鏡にもつながっていく。
データ受信では、長野県佐久市にあるJAXAの美笹深宇宙探査用地上局が、直径54mのアンテナを使ってローマンから科学データを受信する。NASAや欧州宇宙機関(ESA)の地上局と分担し、ミッション全体では観測データの最大約25%を受け持つ計画だ。
地上望遠鏡との協調観測では、ハワイの「すばる」望遠鏡が、2027年以降に100夜の観測時間を確保してローマンと連携する。広い宇宙を近赤外線で見るローマンと、可視光で高い観測能力を持つすばる望遠鏡を組み合わせることで、超新星や銀河、系外惑星などをより詳しく調べられるようになる。
また、南アフリカにある大阪大学のPRIME望遠鏡も、ローマンの系外惑星探査に協力する。ローマンと地上のPRIME望遠鏡から同じ重力マイクロレンズ現象を同時に観測すると、見る場所が大きく離れているため、その現象の見え方にわずかな違いが生じる。その違いを利用することで、発見した惑星の質量をより正確に求められる。
そして、日本の研究者はローマンの観測計画の立案にも参加し、得られたデータを使って宇宙論や銀河、系外惑星などの研究を進める。
「ハッブルの母」と呼ばれたナンシー・グレイス・ローマン博士が切り拓いた宇宙観測の道は、ハッブル宇宙望遠鏡へと結実した。そしていま、その名を受け継ぐローマン宇宙望遠鏡が、新たな瞳で宇宙を見渡そうとしている。そこで得られる知見や磨かれる技術は、やがてハビタブル・ワールズ・オブザバトリーのような次世代の宇宙望遠鏡へ、そしてそれを使って宇宙を探る未来の科学者たちへと受け継がれていくだろう。
科学は、ひとつの世代だけで完成するものではない。ある世代が宇宙へ向けた眼差しを、次の世代が受け継ぎ、さらに遠く、さらに深くへと向けていく。その長い営みのなかで、ローマン宇宙望遠鏡の瞳が映し出す宇宙は、私たちが思い描くその姿を大きく変え、やがて未来の世代がさらに深く宇宙を見つめるための道を開いていくことになるだろう。
参考文献


