2025年2月に閣議決定された「第7次エネルギー基本計画」に基づき、政府は洋上風力発電の導入を推進。2030年までに10GW、2040年までに30GW〜45GWの案件形成を目指して、日本各地で洋上風力発電の建設計画が進んでいる。

  • 「北九州響灘洋上ウインドファーム」の風車の画像

    2026年3月に営業運転を開始した「北九州響灘洋上ウインドファーム」

2026年3月には、こうした背景を受け、福岡県北九州市沖に建設された「北九州響灘洋上ウインドファーム」の営業運転がスタート。今回は日本内航海運組合総連合会(内航総連)が4月15日に実施した、安全確保のための実地視察の様子をレポートする。

  • 内航総連が実施した視察の様子の画像

国内最大の洋上風力発電所「北九州響灘洋上ウインドファーム」

  • 船から見えるウィンドファームの風車の画像

視察の対象となった「北九州響灘洋上ウインドファーム」は、ひびきウインドエナジー株式会社が事業主体となり、北九州港響灘地区の約2,700haに展開する最大出力22万kWの発電所。完成時点では国内最大の洋上風力発電所であり、ブレードの最高到達点が海面から約200mに達する大型風車が25基設置されている。

同ウインドファームは2023年3月に着工され、2025年9月に風車25基の建設が完了。2026年3月から運転が始まり、今後は20年間にわたって発電事業を行う予定となっている。

  • 弓削丸の設備の画像

国内での貨物輸送を行う内航船にとって、こうした巨大構造物付近の航行は、電波干渉や視認性の変化、そして実際には物標が存在しないのにレーダー上に現れる「レーダー偽像」といった実務的影響が伴う。そのような状況をふまえ、内航総連は海技教育機構(JMETS)と共同で、洋上風力発電施設付近を航行する船舶においてレーダー偽像に関する受託研究も昨年度に実施した。

今回の視察は、実際の海域において偽像の現れ方や風車との距離感、圧迫感などを直接確かめ、今後の安全航行に資することを主眼としている。

船橋におけるレーダー偽像の検証

  • 視察に用いられた練習船・弓削丸の画像

    視察に用いられた練習船「弓削丸」

視察には主に各企業の安全担当者が参加し、愛媛県にある弓削商船高等専門学校(以下、弓削商船高専)の練習船「弓削丸」に乗船。電子海図表示装置(ECDIS)や、航法支援ディスプレイ(NeCST)を備えた弓削丸の船橋において、各人が実際の航行の様子を検証した。

当日は小雨から始まったが、徐々に天気が回復して視界は比較的良好に。しかし、風車との距離が縮まるにつれて、モニター内のレーダー画面上には実際の構造物を示す反応とは別に、それらを中心とした同心円状の偽像が多数現れていた。

  • レーダーに現れた像を示す様子の画像

参加者からは「画面上の反応の中に相当な数の偽像が出ており、他船の反応と見分ける難易度は高い」との感想も。表示と実際の周囲の様子を確認して偽像の発生状況を見比べ、風車群という巨大な反射物によって計器上の視認性が影響を受ける実態を改めて確認。ノートやスマートフォンで記録をとるなど、今後の航行に備える様子がみられた。

現場で確認された航行上の課題とルールの必要性

  • 雨が降る中での視界の画像

視察中、船橋では内航総連のメンバーや安全担当者らの間で、航行環境に関する実務的な確認が行われた。視界が良いときは目標物を確認できるものの、悪天候時や船が行き交う海域での運用にも焦点が当たっている。

「実際にこの海域を航行してみると、水深が浅い箇所もあり、5,000トン以上の大型船が通航するには安全を確保するための施策が必要と感じた」。弓削丸の舵を握る加藤博船長は、実地での感触をそう明かしている。

  • 弓削商船高等専門学校 商船学科 准教授・練習船弓削丸船長の加藤博氏の画像

    弓削商船高等専門学校 商船学科 准教授・練習船弓削丸船長の加藤博氏

普段、学生を乗せた洋上実習やオープンキャンパス等のイベントに活用されている弓削丸は、ウインドファームの建造完了後に今回の航路を走るのは初となる。大型の風車が並ぶ新たな海上の風景に対し、操船のプロの視点から冷静な分析がなされた。

今回の視察を受けて他の参加者からは「他船と交差する航路での安全を担保するためには、一方通行化のルール設定など、明確で分かりやすい航行環境の整備がよいのではないか」と、具体的な安全対策の方向性についても言及されている。

入口戦略としてのDX教育と次世代への継承

  • 弓削商船高等専門学校 商船学科 教授の湯田紀男氏の画像

    弓削商船高等専門学校 商船学科 教授の湯田紀男氏

視察の道中、船内では将来の人員確保に向けた取り組みについても確認が行われた。弓削商船高専の湯田紀男教授や中村真澄准教授は、将来の船員・学生確保のための「入口戦略」として、近年の志願者の傾向をふまえ、内航総連と委託契約を締結して行っているVR(仮想現実)コンテンツなどを活用した取り組みを紹介している。

湯田教授は現状の課題として「今は学生がWebで検索することはできるが、まず『検索しよう』と思ってもらわないと難しい」と言及。そのうえで、「VRなどのコンテンツを通して『こうした職業に就くにはどうしたらいいのか』と業界に興味を持って学んでもらい、そうした学生を社会に輩出していくことが我々の責務だと考えている」と話している。

  • 同行した同校の学生の画像

なお今回の視察には、同校の学生3名も同行。加藤船長は「卒業を控えた学生が今回のような機会に参加することは、彼らにとっても良い経験となると考えた」と、教育に関する側面についても述べている。学生たちは船橋で最新の計器類と窓外の景色を交互に見つめ、実地での学びに注力していた。

洋上発電と安全航行の共生に向けて

  • レーダーの様子を見る参加者らの画像

洋上風力発電の普及は日本のカーボンニュートラル実現の要であり、その持続可能性を支えるのは、物流の根幹を担う内航海運の絶対的な安全航行である。

今回の視察により、実際の海域におけるレーダー偽像の発生状況や、大型船舶が通航する際の物理的な制約が具体的に確認された。産官学が連携してこうした実地検証を積み重ねていくプロセスが、再生可能エネルギーと海上交通が共生する社会の実現を支えていくのだろう。