Truenoとは何者か? ラテン・ヒップホップの次章を担うアルゼンチンの大器を徹底解説【フジロック出演】

プエルトリコ出身のバッド・バニーがグローバルで(しかも桁外れの)成功を収めた今、ラテンとラップ、土着のカルチャーを掛け合わせた際のポテンシャルに期待するオーディエンスは少なくないだろう。今回、フジロックにて初来日を果たすブエノスアイレス出身のラッパー、トレノ(Trueno)もまた、ラテン地域ではすでにトップスターの座を誇るラッパーである。J・バルヴィンからDJプレミアといったアーティストらとのコラボレーション、そして数々のアウォードを手にしてきた経歴を持つ、南米発のグローバル・アーティストだ。

トレノは2002年、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスの南東部に位置するボカ地区で生まれる。ボカ地区はフットボールやタンゴで知られる観光地としても親しまれる一方で、イタリア系の移民が多く住む労働者階級の街でもあり、19世紀には共和国として独立を試みるも政府から地区丸ごと分裂させられるといった複雑な歴史を持つ地域でもある。また、彼の父親はペドロ・ペリグロ(MCペリグロ)の名で知られるボカ地区を代表するベテラン・ラッパーでもある。ペドロ・ペリグロはもともとフリースタイルのバトルで名を馳せたラッパー。そしてその”イズム”は息子のトレノにも色濃く受け継がれている。

もともと、登録者50万人を誇るYouTuberとしても活躍していたトレノは、程なくして父親の影響もありバトル・ラップへと傾倒していく。14歳の時に初出場したMCバトルの大会「A Cara de Perro Juniors」で優勝を収めて以降、アンダーグラウンド・シーンでは名の知れた若きラッパーとして名を馳せる。いくつものタイトルを奪取し、2019年、17歳にして「Red Bull Batalla de los Gallos」(スペイン語圏のラッパーたちが競い合うMCバトル)のアルゼンチン国内決勝で優勝を果たすまでに。そしてその翌年、フリースタイル・ラップとの別離を発表し、待望のデビューアルバム『Atrevido』をリリース。同郷の人気アーティスト/プロデューサーであるニッキー・ニコールと、ビザラップを迎えたシングル「MAMICHULA」がヒットし、アルバムはアルゼンチン国内だけで400万枚相当を売り上げ、ストリーミング・サービスでは総再生回数15億回以上を記録するなど、鮮烈なデビューを印象付けた。

トレノのスタイルは、ただトレンドを追いかけるそれとは大きく異なる。20歳の時に制作した2ndアルバム『BIEN O MAL』では、そのメッセージはよりディープなものへと拡張された。「FUCK EL POLICE」ではタイトルからも明らかな通り、体制への怒りを露わにする。「これは人民のための曲だ。首を押さえつけられても、俺たちは黙らない」と、かつてN.W.A.が1988年にアメリカの西海岸から放ったメッセージは、悲しいかな、34年後のアルゼンチンにおいてもその有効性を全く失っていないことが分かる。

「FUCK EL POLICE」リミックス版にはサイプレス・ヒルが参加

アルバムの冒頭を飾る「HOOP HOOP」は実父のペドロ・ペリグロとのコラボ曲だ。「バリオは、お前の声を代弁者として必要としていた。今こそ見せてやれ、この街で俺たちが学んできたものを」と父親からのイントロダクションを経て、「ラップが死んだと言うのなら、俺が蘇らせた」と力強く宣誓する。アメリカのスラングでいう”フッド”に近い意味合いを持つ”バリオ”。独特のコミュニティ意識を持つバリオであるボカ地区に育ち、同地区における表現者のパイオニアとも言える父親(ペドロ・ペリグロはラップの他に劇団にも所属し、アーティストとして多様な面を持つ)のもとに育ったトレノは、フリースタイル・バトルで培った確かなスキルと豊かな想像力、そしてバリオを見つめる洞察力を研ぎ澄ませ、その全てを作品にぶつける。

2ndアルバムのリリース時に応じたインタビューでは「”これは政治的なアルバムなんですか?”と聞かれることがあるが、自分は政治的なアーティストではなく、”社会的なアーティスト”だと思っている。この国の社会の一員として生きる中で、自分に起きていることを語っているだけ。自分が育ったコムーナ(コミュニティ)には、常に不正に対する抵抗や、バリオの現実を映し出す姿勢があった。ただ単に「警察なんてクソだ」と言いたいわけじゃない」と自身のスタンスを明らかにしている。

ゴリラズも魅了した「バリオの代弁者」

2024年、トレノは3作目となるアルバム『EL ÚLTIMO BAILE』を発表する。同年に開催されたラテン・グラミー賞ではシングル「TRANKY FUNKY」が最優秀アーバン・フュージョン/パフォーマンス部門を受賞し、アルバム本体も最優秀アーバン・ミュージック・アルバム部門のノミネートに輝くなど、ジャンルの枠を超え、彼の高いアーティスト性がさらに広く認知された作品でもあり、「REAL GANGSTA LOVE」はSpotifyグローバルTop50の10位にランクインし、さらにグローバルなリスナーの心を捉えた。

また、後続のデラックス版『EL ÚLTIMO BAILE (DELUXE)』ではヒップホップ誕生50周年へのオマージュ要素も強くフィーチャーされており、「GRANDMASTER」ではグランドマスター・フラッシュ&ザ・フュリアス・ファイヴの「The Message」をサンプリングし、DJプレミアが手がけた「344」では父親であるペドロ・ペリグロの「Comuna 4: Verdadero Delincuente」をサンプリングするという粋なスパイスも。2025年に開催されたラテン・グラミー賞では「FRESH」が最優秀ラップ/ヒップホップ・ソング部門を受賞し、ラッパーとして順風満帆な姿をオーディエンスの目に焼き付けた。

南米はもとより、アメリカ、そしてヨーロッパでの大規模なツアーも成功させたトレノ。最近のホットな話題の一つとしては、ゴリラズの最新アルバム『The Mountain』に参加したことも挙げられるだろう。実は、トレノとゴリラズとの関係は2022年に遡る。当時、ワールドツアー中だったゴリラズのアルゼンチン公演にトレノがサプライズ参加し、彼らの代表曲「Clint Eastwood」をキックしたというエピソードがあるのだ。トレノが参加した「The Manifesto」は、かつてエミネムとともにD12のメンバーとして活躍し、2006年に惜しくもこの世を去ったデトロイト出身のラッパー、プルーフもフィーチャーされており、多層的なコラボレーションが実現した。

トレノは次世代に対する強烈なインパクトと影響力を持ちながら、父親世代のメッセージを受け継ぎ、常に「自分がどこから来たか」という点に意識的である。さらに、バトル時代に培った圧倒的なスキルとカリスマ性も持ち合わせているという、いわばハイブリッドなラッパーだ。そして、自分が「バリオの代弁者」であることに非常に自覚的でもある。ラテン・ヒップホップの次章を担う存在として、その歩みは今後さらに注視されていくことになるだろう。

トレノ

『EL ÚLTIMO BAILE (DELUXE)』

再生・購入:https://TruenoJP.lnk.to/ELULTIMOBAILE_DXRS

FUJI ROCK FESTIVAL '26

2026年7月24日(金)〜26日(日)新潟・苗場スキー場

※トレノは7月25日(土)出演

公式サイト:https://fujirockfestival.com/

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