NTT西日本は3月26日、福井県坂井市三国町にて、観光を軸とした地域活性化を目指す「三国湊共創プロジェクト研究」の最終発表会を開催した。

発表会では、全国から選ばれた12名の研究員が、それぞれの強みを活かした事業構想を発表。研究員には地元事業者のほか、地域外から参画したメンバーも含まれており、多様な視点から三国湊の資源を活かした提案となった。会場には坂井市長をはじめとした市の関係者や、地域の企業関係者など50人以上が参加した。

  • 「三国湊共創プロジェクト研究」の最終発表会の様子

    「三国湊共創プロジェクト研究」の最終発表会の様子

三国湊共創プロジェクトの概要と実施内容

本プロジェクトは、坂井市とNTT西日本、事業構想大学院大学の三者が2025年に締結した「地方創生の推進に関する包括連携協定」に基づき始動した。歴史ある港町・三国湊の魅力を活かしながら、少子高齢化や人口減少といった地域課題に対応するため、新たな担い手の育成と事業創出を目的としている。NTT西日本は、企業版ふるさと納税の活用などを通じて、坂井市の地域振興を支援している。

本取り組みは、事業構想大学院大学が各地で実施しているプログラムをベースに、2025年8月から約半年間にわたり実施された。期間中は、20回程度のプログラムや中間発表などを通じて、研究員がそれぞれの事業構想を検討してきた。

プログラムでは、事業構想の考え方や収支計画の立て方などが扱われたほか、現地でのフィールドワークも実施。研究員たちはヒアリングを通じて、三国湊の特徴や課題について理解を深めている。

NTT西日本は、これまでも三国湊で観光まちづくりを推進する「Actibaseふくい」の設立などを通じて地域との関係性を築いており、本プロジェクトにも産官学連携によるまちづくりの一環として参画している。

現地での提供が開始した「三國湊マーラータン」

具体的な展開に至っている取り組みの例として、今回の研究員であり、頂マーラータン・おうちでマーラータン 取締役の二瓶寛史氏による、三国の資源を活かしたマーラータン事業を紹介する。

二瓶氏は、本業である「頂マーラータン」をベースに坂井市・三国エリアの食材を掛け合わせた構想をもとに、三国駅に店舗を構える「Cafe はぁとの葉っぱ」にて、3月11日から「三國湊マーラータン」の提供を開始した。坂井市への相談をきっかけに同店のオーナー・日置みどりさんを紹介され、連携が実現。メニュー開発から価格設定までを共同で進めたという。

  • (左から)「Cafe はぁとの葉っぱ」前にて。二瓶氏と日置さん

    (左から)「Cafe はぁとの葉っぱ」前にて。二瓶氏と日置さん

現地で提供されているマーラータンは、地元食材を取り入れながら、見た目にもこだわった一品だ。野菜ソムリエでもある日置さんは「色味のバランスも意識して食材を選んでいる」と話し、トマトやパプリカ、エビなどを使った彩り豊かな仕上がりが印象的だった。スープや春雨は二瓶氏が提供し、専門店としての味を活かしつつ、地域の食材と組み合わせることで新たな価値を生み出している。

  • 「Cafe はぁとの葉っぱ」にて販売を開始した、三國湊マーラータン

    「Cafe はぁとの葉っぱ」にて販売を開始した、三國湊マーラータン

参加の背景について二瓶氏は、「自社の事業としても、地域と連携した取り組みを進めていく必要があると感じていた」と語る。同社では、全国の自治体と連携しながら地域を盛り上げていく取り組みを重視しており、その考えを実際の事業として形にできる場を模索していた。そうした中で、NTT西日本や事業構想大学院大学、坂井市が連携する本プロジェクトを知り、「安心して挑戦できる環境」だと感じ、参加を決めたという。

  • 同プロジェクトを安心して挑戦できる場と語る、二瓶氏

    同プロジェクトを安心して挑戦できる場と語る、二瓶氏

食・体験・文化…多様な切り口での提案

発表ではこのほかにも、食や宿泊、体験コンテンツなど、多様な視点からの提案が行われた。

例えば、フードディレクターであり料理家の倉橋藍氏は、古民家(空き家)を拠点に、食を通じて地域の魅力を体験できる場づくりを提案した。坂井市が「美食都市アワード2025」に選定されたことを背景に、ガストロノミーツーリズムの観点からも追い風があるとしつつ、「三国湊は風景や歴史、食、人といった地域資源が豊富である一方で、観光客に十分に認知されていない」と指摘する。

  • 古民家を拠点に食を通じて街の魅力を発信していきたいと語る倉橋氏

    古民家を拠点に食を通じて街の魅力を発信していきたいと語る倉橋氏

その上で、「それぞれの資源に光を当て、物語として伝えることや、人との出会いを通じて感情に訴えかける体験が必要ではないか」と語り、単なる飲食提供にとどまらない“体験型の食”の重要性を強調した。

倉橋氏は、自身の強みとして、人や場に合わせて提供する食体験を柔軟に設計できる点や、生産者と連携した商品開発の経験を挙げる。これまで各地で出張ランチや料理教室を行ってきたネットワークを活かし、三国湊へ人を呼び込む導線づくりにもつなげていく考えだ。

具体的には、古民家を拠点とした食体験の提供や、料理教室などを組み合わせた複数のサービスを構想している。フィールドリサーチとして実施した2日間のテストキッチンには39名が参加し、アンケートでは満足度100%という結果が得られた。「定期的に通いたい」「開業支援をしたい」といった声も寄せられており、事業化に向けた手応えも示された。

発表後には実際に懇親会の料理を担当し、参加者にその一端を提供した。構想として語るだけでなく、実際の料理として体験させることで、アイデアの具体性を示す場面となった。

  • イベント後の懇親会にて倉橋氏が提供したカナッペ。福井の食卓で愛される乾燥タラのスライスなど、地域の食材を活かしている。

    イベント後の懇親会にて倉橋氏が提供したカナッペ。福井の食卓で愛される乾燥タラのスライスなど、地域の食材を活かしている。

また、絵本作家である澤田久奈氏は、子ども向けの絵本を起点とした観光事業を提案した。「いつでも母の日」をテーマに、母親が日常の役割から離れ、自分の時間を持てる体験を三国湊で提供する構想だ。

  • 絵本作家の澤田久奈氏

    絵本作家の澤田久奈氏

三国湊の「共働き世帯が多く、日常に余白が少ない」といった課題から、坂井市、あわら市、福井市から近く「日常から少し離れるのにちょうどいい距離」といった特徴に着目。母親が罪悪感なく自分の時間を過ごせる仕組みとして、本企画を考案したという。

構想では、絵本を単なる作品としてではなく、体験全体の“入り口”として位置づける。子どもは地域での体験プログラムに参加し、親と離れて過ごす時間を「成長の機会」として設計。一方で母親は、自分のための時間を過ごすことができる。

価格帯や導線設計についても具体的に検討されており、数時間で参加可能なライトプランから、「どっぷり母の日」と題した宿泊を伴う本格的なプランまで段階的に展開する構想が示された。フィールドリサーチでは、子育て世代の母親35人に対する調査で約8割が興味を示すなど、一定のニーズも確認されている。

登壇の最後には、このプロジェクトのリサーチで福利厚生や県や市の補助がある場合に参加意欲が大きく高まることがわかったと説明。会社の福利厚生や地域事業としてご検討いただければとまとめた。

さらに、こうした構想の検討にあたっては、研究員同士の対話を通じたブラッシュアップも行われているという。どのように事業を立ち上げるかといった具体的な進め方について意見を交わすなど、横のつながりが広がっている点もこのプロジェクトの特徴だ。

市長とNTT西日本が寄せる、三国湊への期待

発表後の講評では、坂井市の池田禎孝市長が「今日がゴールではなくスタート。ぜひ実行に移してほしい」と述べ、今後の展開への期待を寄せた。発表内容はいずれも地域課題の解決を意識した具体的な提案となっており、実装へのハードルも現実的なものとして捉えられている。

  • それぞれの発表に対し、「ぜひ実行に移してほしい」と語る、坂井市の池田禎孝市長

    それぞれの発表に対し、「ぜひ実行に移してほしい」と語る、坂井市の池田禎孝市長

最後に登壇したNTT西日本 代表取締役副社長の木上秀則氏は、本プロジェクトについて「中間発表から大きく進化しており、非常に感動した」と振り返り、半年間の取り組みを高く評価。「テクノロジーの活用に加え、地域や人との関係性、いわゆるエンゲージメントの重要性を改めて感じた」と語り、社員と地域、企業と地域といった相互の関係性が重なり合うことの重要性を語った。

  • 本取り組みを高く評価した、NTT西日本 代表取締役副社長の木上秀則氏

    本取り組みを高く評価した、NTT西日本 代表取締役副社長の木上秀則氏

木上氏は今後について、短期間で形にしやすい事業と時間や手間がかかる事業があることに触れつつ、「まずは実現可能な取り組みから始まり、そこで生まれた収益が次の事業へとつながり、個々の活動が一体となって循環していくような形ができれば、より大きな展開につながっていくのではないか」と今後の展開への期待を語った。

NTT西日本にとっても、本プロジェクトは単発の取り組みではなく、地域と共に価値を創出していくモデルの一つといえる。今回の発表を起点に、各事業がどのように地域に根付き、広がっていくのかが注目される。