富山高等専門学校(富山高専)の新たな練習船「若潮丸」が竣工を迎え、3月20日に同校の射水キャンパスで竣工記念式典が執り行われた。本式典には文部科学大臣政務官・福田かおる氏、船名を揮毫した富山県知事・新田八朗氏らが来賓として出席。臨海実習場でテープカットと若潮丸の内覧会が実施された。
商船高専の練習船として4隻目のリプレイス
商船学科のある国立高等専門学校5校(富山、鳥羽、広島、大島、弓削)の練習船は、老朽化や船舶職員育成の教育の高度化に伴い2019年頃からリプレイスが本格化。2026年度までに順次新型船への置き換えが進められている。
他の商船系高専においても新船の建造が進められてきたなか、このほど竣工した「若潮丸」は4隻目のリプレイスとなり、富山高専としては31年ぶり、5代目の練習船となる。
同船は2025年3月に三菱重工 下関造船所 江浦工場(山口県下関市)で起工、同年10月に進水式が執り行われた後、艤装工事などを終え、今回の竣工式を迎えた。
120名余りが出席した竣工記念式典の開会に先立ち、富山高等専門学校 校長の國枝佳明氏は「本船の建造に携われた方々、また、ご支援くださいました皆様に心より感謝申し上げます」と挨拶。同船の特徴を次のように紹介した。
「実海域での航海訓練によって船舶運航の基本を学ぶため、若潮丸には最新の設備とシミュレーション環境が整えられており、海運DXなどの新技術に対応した訓練が可能です。また、近年頻発する台風・地震・水害といった災害支援や地域貢献の役割を担うことが期待されており、世界でも類稀な特徴を有する富山湾の深海調査機能も備えております。地域の子どもたちに海の不思議やおもしろさを伝え、日本経済を支える海運の重要性を知る機会を提供してまいります」
富山高専は明治39年に新湊町(現在の射水市)で創立された「新湊町立新湊甲種商船学校」を母体の一つとし、120年にわたって海事専門人材の育成に多大な役割を同校が果たしてきた。
来賓の文部科学省大臣政務官福田かおる氏は、そんな同校の歴史を振り返りながら、「海に囲まれた海洋国家として、我が国には海事分野に向き合ってきた長い歴史があります。明治においても現代においても、船員をはじめとする海事分野の人材育成の重要性は変わることなく、その教育において練習船が果たす役割の大きさも変わりません」と、新船の竣工に祝辞を送っていた。
最新設備を搭載、4月から本格運用へ
富山高専は富山工業高等専門学校と富山商船高等専門学校が統合され、工学・商船・国際ビジネスという独自の6学科構成のもと、平成21年に設置された。他の高専に比べて文系学生が多いことなども影響しているのか、商船学科にも女子生徒が多い傾向もあるそうだ。
5代目「若潮丸」はDXやGXに関するさまざまな最新技術を導入。この4月以降、前期と後期に商船学科の各学年で実施される1泊2日の航海実習など、各種実習で運用されていく。
「富山高等専門学校は練習船を活用した航海実習や小・中学生向けの航海講座、県内大学との連携など、これまでも海洋人材や地域人材の育成に積極的に取り組んでいただいております。2021年には本県と被災者救援の支援のための船舶運行に関する協定を締結し、能登半島地震の際には救援物資の運搬に4代目「若潮丸」が活用されるなど、幅広い分野で地域を支えていただいてきました」とは、5代目「若潮丸」の船名を揮毫した富山県知事の新田八朗氏。
富山湾での海洋調査研究に対応した海洋観測設備、災害時に通信環境の迅速な回復を可能にする船上基地局の設備などを備える5代目「若潮丸」を通じた同校の地域貢献にも期待を述べた。
独立行政法人国立高等専門学校機構 理事長の谷口功氏は謝辞の中で、新しい社会や産業界のニーズに対応し、実践的で創造力に富んだ、感性豊かな技術者を育成することを高専の使命と紹介した。
「全国の国立高等専門学校は平成16年4月の独立行政法人化により、各校の個性を生かした教育・研究の高度化を図っています。富山高等専門学校を含む商船系の高等専門学校は、我が国の発展を支える海洋関連人材、第一線の科学技術者の育成において、重要な役割を担ってきました」
5代目「若潮丸」は先代の4層構造から5層構造となり、総トン数も231トンから389トンに。ディーゼル主機と推進電動機によって4翼可変ピッチプロペラを回転させるハイブリッド推進が可能だ。
「新しい『若潮丸』はこれまでよりもひと回り大きく、冬の日本海にも十分耐えられるように外板を厚くし、船体の動揺を軽減する減揺装置を搭載しています。また、雨天でも甲板上で実習ができるよう、全天候型の木甲板スペースも確保いたしました」(谷口氏)
海洋人材を育成する「練習船 兼 災害支援船」の最新設備
式典後は北陸電力の富山新港火力発電所に隣接する臨海実習場の練習船「若潮丸」専用岸壁へ移動し、5代目「若潮丸」の内覧会が実施された。
ブリッジには、全国の主要な狭水道(幅の狭く操船の難易度が高い水域)での操船を体験できる最新の操船シミュレーターを搭載。練習船での実践とシミュレーターでの操船による “スパイラル訓練”(理解を深めるために同じ内容を何度も繰り返し学ぶ学習法)を、より行いやすくした。
機関制御室は船の前方の発電機室と後方の主機室に挟まれるかたちで配置されている。機械の音をよく聴き、聴覚的にそれぞれの機関の状態を把握するための工夫だそうで、先代より各種モニターも大きく見やすくなっているという。
商船学科の練習船として充実した設備を有する同船だが、船舶安全規則における船舶の用途は「練習船 兼 災害支援船」で、災害支援船として必要な設備と機能を有している点も大きな特徴だ。
3月17日、同校はNTTドコモと練習船を利用した災害支援の協定を締結。災害時にはスターリンクを用いた移動基地局などとして運用され、被災地のライフラインとなる通信を確保し、海上から地域の安全・安心を支える拠点の役割を担うことになる。
陸上への電力供給や給水支援のシステム、災害支援物資の輸送のための機材積込クレーンなどの設備もあり、災害時には被災者への船内の居住設備やトイレ・シャワーといった衛生設備の提供も行われる。
さらに5代目「若潮丸」は全国の商船系高専の練習船で唯一、海洋環境観測システムを整備した練習船でもある。
4代目「若潮丸」の頃から富山湾のモニタリングを行ってきたそうだが、富山湾での特徴的な観測に対応した充実の設備装置を追加。より高度な観測装置を備える。同校には海洋観測に興味を持つ学生が少なくないそうで、海洋調査関連の企業に就職した卒業生などもすでに複数名いるという。
主な設備には、深海の海洋生物や海水を採取するプランクトンネットや採水システム。ROV(水中ドローン)や採泥機のほか、XBT/XCTGシステム(走行しながら海洋の深層水温分布、水温・塩分・水深の鉛直分布を迅速に測定できるシステム)、海水中に含まれるプランクトンなどを自動撮影するシステムなども装備する。
同校は県内の水族館や大学、富山県などと共同で、富山湾の海洋生物を採取する親子教室などのイベントも開催しており、今後は5代目「若潮丸」で一般イベントやオープンキャンパスでの体験航海などを行う予定。海洋人材の教育の向上に加えて、災害対応や地域貢献など多方面での活躍が期待されそうだ。












