千葉県の大多喜町を拠点に活動する3x3プロバスケットボールチーム「esDGz OTAKI.EXE」。前編では、選手全員が過疎地に移住し、農業と競技を両立しながら地域課題に挑む姿を追った。しかし、その挑戦は決して順風満帆ではなかった。「全員農業」という理想の先で直面した限界。後編では、そこから彼らが選んだ“次の一手”と、地域に生まれ始めた変化に迫る。

課題からの進化。「全員農業」から「適材適所」へ単なる両立で終わらせない。個々の強みを活かし、大多喜町の課題解決にチーム一丸で挑む
 写真提供:株式会社JPFagri/SDGs大多喜学園

「esDGz OTAKI.EXE」は発足から4年を迎えた。その歩みの中で、理想どおりに進まない局面も少なくなかった。

「離職率は決して低くありません。メンバーが入れ替わった時期もありました」と遠藤選手は包み隠さず語る。 その背景には、やはり「農業」と「バスケ」の過酷な両立があった。「バスケにもっと集中したい」「農業の将来が見えない」とチームを去る選手もいたという。

しかし、チームはこの事実をネガティブな失敗とは捉えていない。むしろ、組織を進化させるための重要なフィードバックとして受け止めている。 現在、チームは大きな転換期を迎えている。それは「全員が同じ量の農作業をする」という画一的なモデルから、「個々の強みを生かした多角的な社会貢献」へのシフトだ。

「全員で農業」という枠組みを超えて。離職率という現実を直視し、持続可能なチームの在り方を語る遠藤選手の眼差しは、未来を見据えている
 photo by Yoshio Yoshida

「これまでは『全員で農業』という形でしたが、来年度に向けては、例えば農業専属スタッフを増員して選手ごとの役割を最適化できないか、と議論を重ねています。ある選手は農業に深く携わり、別の選手はスクール運営やスポンサー営業に注力する。農業の枠を超え、スポーツを通じた『地域課題解決』そのものを仕事にしていく――。そんな新しいチームの在り方を、まさに今、模索しているところです」(遠藤選手)

お米を作る選手が、町のヒーローに。地域で果たす役割「お米をつくっているお兄さん」であり、コート上のヒーロー。保護者も見守る町の体育館で交わされる笑顔のハイタッチは、地域住民との深い信頼関係の証
 photo by Yoshio Yoshida

彼らが目指すのは、米をつくるだけではなく、スポーツの力で地域コミュニティを再構築することだ。 現在、チームは地域の子どもたちに向けたバスケットボールスクールや、幼児向けの運動教室、高齢者向けの健康教室などを運営している。小学校の体育の授業やキャリア教育の場に立つことも多い。

「お米をつくるお兄ちゃん」は、バスケも上手い! 畑とコート、二つの顔を持つ彼らだからこそ、子どもたちの瞳を輝かせ、地域に新しい絆を結ぶことができる
 photo by Yoshio Yoshida

「子どもたちが『お米をつくっているお兄ちゃんたちが、バスケも教えてくれる!』と目を輝かせてくれるんです。農家さんが試合の応援に来てくれたり、逆にバスケファンが僕たちのお米を買ってくれたり。スポーツと農業が混ざり合うことで、これまで接点のなかった人たちが繋がり始めています」(片岡選手)

自分たちが育てたお米を、試合会場で販売することもある。「美味しかったよ」「また買いに来たよ」。ファンからのそんな声が、日々の農作業の疲れを吹き飛ばしてくれる。 バスケットボールという「非日常の興奮」と、お米という「日常の食卓」。この二つを繋ぐことができるのが、彼らデュアルキャリアの最大の強みなのかもしれない。

「耕作放棄地になっていたかもしれない」胸に芽生えたミッション選手たちが管理する田んぼは73枚に及ぶ。この美しい風景を守ることも、彼らにとっての「勝利」のひとつだ
 写真提供:株式会社JPFagri/SDGs大多喜学園

彼らが現在管理している田んぼの数は、73枚にのぼる。 「もし僕たちがいなければ、この73枚は耕作放棄地になっていたかもしれない」。その事実は、彼らが地域に存在する意義そのものだ。

地元の農家から「これ以上管理しきれない、君たちにお願いしたい」と託される田んぼ。それは、地域からの信頼の証でもある。 移住当初、「何もない町だと思った」と語る遠藤選手や片岡選手だが、今ではその「何もない」風景を守ることが、自分たちのミッションだと感じている。

「バスケを引退した後どうするかは、まだ明確には決めていません。でも、ここで学んだ『スポーツ×社会課題解決』という視点は、どんなキャリアにも通じるはずです。農業じゃなくてもいい。スポーツの熱量を何かの課題解決にぶつけることで、地域はもっと豊かになる」(遠藤選手)

片岡選手もまた、「第一次産業や社会課題を解決できるような存在になりたい」と語る。東京のコンクリートジャングルでは見えなかった「働くことの意義」を、彼らは大多喜の土の上で見つけつつある。

未来の働き方のロールモデルとして「仕事とは、誰かに貢献すること」。大多喜の地で、彼らは新しいアスリートの生き方を証明し続ける。遠藤勇一選手(左)と片岡霞選手(右)
 photo by Yoshio Yoshida

彼らの挑戦は、単に「バスケと農業を両立させた」という成功譚ではない。 人口減少、地方の過疎化が進む社会において、都市部の若者が地方へ移り住み、地域の資源(農業)を守りながら、自身の夢(スポーツ)も追いかける。そのための生活基盤を企業が「仕組み」として提供する――。 これは、現代における「新しい生き方・働き方のプロトタイプ」と言えるのではないだろうか。

取材の最後、遠藤選手が語った言葉が印象的だった。 「今の時代、タイムパフォーマンスや効率が重視されがちで、時間外労働や泥臭いことは敬遠されがちです。でも、僕たちは泥だらけになって、一見効率の悪いこともやりながら、地域の人に『ありがとう』と言われることに喜びを感じている。『仕事って、誰かに貢献することだよね』という本質を、この活動を通じて伝えていきたいんです」

73枚の田んぼの管理は、今日も続く地道な作業だ。しかし、その一歩一歩が、スポーツの価値を再定義し、地方の明日を少しずつ変えていく確かな力になっている。

text & photo by Yoshio Yoshida(Parasapo Lab)
写真提供:株式会社JPFagri/SDGs大多喜学園