横浜のクラシックホテル「ホテルニューグランド」が来年100周年を迎えるなか、積極的なDX推進に取り組んでいる。NTT東日本との協働によって実現したレストラン業務の効率化プロジェクトは、人手不足という課題を抱えるホテルにどのような業務改善をもたらしたのだろうか。
横浜の歴史をいまに伝え、進化を続けるホテルニューグランド
1927年、関東大震災からの復興を象徴する存在として神奈川県横浜市の山下公園前に誕生したホテルニューグランドは、日本を代表するホテルだ。横浜市認定歴史的建造物である本館は、開業当時の意匠をいまに伝え、横浜の歴史とともに歩んできた。
戦後は連合国軍最高司令官のダグラス・マッカーサー元帥が滞在、またシーフードドリアやスパゲッティ ナポリタンなど、その後の日本の洋食文化を作った舞台のひとつとしても知られる。建築、料理、そして数々の歴史的エピソードを内包するこのホテルは、単なる宿泊施設を超えた「横浜の記憶」とも言える存在だろう。
現在、総支配人を務めるのは木曽博文氏。予約業務や営業業務など多岐にわたる業務を経験したのち、マーケティング部の部門長を皮切りに、営業部、宿泊部、宴会部を経て、2023年12月に総支配人に就任。現在は営業本部長も兼任しており、同ホテルのあらゆる業務に精通した人物だ。
木曽氏は、ホテルニューグランドの魅力を次のように伝える。
「私自身が30数年働いている中で感じるのは、やはり人がすごく温かいところです。お客さまにもそれをしっかり評価していただいています。ありがたいことに、昨年はご家族で4世代目の披露宴を2組ほどさせていただきまして、本当に長きにわたってお客さま方に繋がっていっていただける場所となっていると感じました。年々働いていけばいくほどに、先人から受け継いできた“ホテルニューグランド”という看板に助けられていると実感します」(木曽氏)
コロナ禍で大きな打撃を受けたホテル業界。幸い、コロナ禍が明けた後は客足も回復基調にあるが、インバウンドや人手不足など課題も山積みだ。また、横浜市の観光は首都圏との近さも相まって昼間に集中し、夜間に弱いという。横浜市並びに市内のホテルは、宿泊客の誘致のためにさまざまな取り組みを行っている。
そんななか、ホテルニューグランドのインバウンド率は15%ほどになっている。インバウンドの取り込みに注力した時期はあったが、現在は国内向けに注力しており、宿泊客のほぼ半数は首都圏からの来訪者であり、またリピーターが多いのも特徴だ。
「私どもの課題は、1927年(昭和2年)に建てられた本館がまもなく築100年、1991年(平成3年)にオープンしたタワー館が築35年になっていることです。今後、この建物の維持管理、またお客さまにさらに満足していただく施設作りが重要と認識しております。経営的には、しっかりとした収益を上げられる体制を整えることが一番の課題です」(木曽氏)
そんな木曽氏のホテル経営のモットーは「最前線で働くスタッフのみなさんが気持ちよく働ける環境づくり」にあるという。同ホテルの代表取締役会長 兼 社長を務める原信造氏が、「ホテルは、働いている人間が笑顔でなければいけない」と話していたことが、いまも木曽氏の心の中に残っているそうだ。
RPAとBIツールでレストラン業務を可視化・自動化
そんなホテルニューグランドが、人手不足という課題の解決のために取り組んだのが、レストラン運営業務の改善だ。これは木曽氏が総支配人に就任した祭に立ち上げた特別プロジェクト「DX推進委員会」において、社内公募で手を挙げたスタッフとともに指導した取り組みとなる。
「ホテル業務はアナログな仕事の積み重ねです。レストラン業務は365日、館内館外含めて全部で8店舗あり、たった5分や10分でも、これを365日×8店舗分と考えると大きなリソースです。そのリソースを、今後どうしていくかという創造力に変えられるのではないか、そして成功事例を持つことで他の仕事などに波及できるんじゃないかなと考えました」(木曽氏)
木曽氏はこの取り組みをベンダー企業各社に打診。その中でも、いち早く動いたのがNTT東日本だったという。
「NTT東日本さんは一番レスポンスが良かったんです。2年前にホワイトボードに書いた『僕はこういうのを作りたいんですよ』というグラフが、いまでもそのまま残っています。そして実際にそれがいま、できあがっているんですよ。NTT東日本さんが具現化してくれました」(木曽氏)
NTT東日本が行ったのは、同社のソリューション「おまかせRPA」の導入とRPAシナリオ構築、そしてPower BIの導入と作成、および保守管理だ。POSデータ等からのデータ収集・自動化・見える化を一気通貫で行い、レストランの売り上げがだれでも一目でわかるようにした。
NTT-ME 神奈川ブロック統括本部 設備企画部門 DX推進担当の高橋隼哉氏は、その具体的な内容について次のように話す。
「もともとレストランには、その日の売上や予算に対する進捗が分かるExcelファイルが使われていました。それを経営層やレストラン管理者で共有していたのですが、人の手を介することで時間が掛かり、ミスも発生するという点が大きなボトルネックになっていたのです。そこで、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を使って、売上システムからデータを抽出して転記する流れを自動化し、BIツールを用いて可視化して、日々のメール送付まで行うという仕組みを実現いたしました」(NTT-ME 高橋氏)
とくに注力したのは“データの見せ方”だったという。現場が効率的に確認すべき情報や、数値で把握すべきデータを整理し、数字で見せるのか、グラフで見せるのか、どのような色で見せるのかなどをデータ一つひとつ検討。データを受け取る側のどんな担当者が見ても分かりやすく、操作性の良いものを目指した。
木曽氏は「私も部門長時代に望まれるものに応えられるような表を作ってきましたが、グラフ作成に追われて疲れてしまうときがありました。それを複数の部門のリクエストに応えられる形でうまくまとめていただきました。途中、担当が変わることもありましたが、導入前から導入後までしっかりと情報が引き継がれていて安心感がありました」と、その成果と対応を高く評価する。
レストランを皮切りに全部門へのDX拡大を目指す
ホテルニューグランドのレストラン業務改善のために導入されたRPAとBIツール。導入間もなく、具体的な効果測定はまだこれからだが、すでに現場では「業務が楽になった」という声が挙がっており、「残業が減ってきた」という報告もあるという。
「まさに狙っていた効果が表れているので、第一歩を踏み出せたと思います。今後はリソースを創造力に変換し、自分たちがこれから何をし、どういう対処していくのかというところに活かしていきたいですね」(木曽氏)
今回の取り組みは、レストランという一部門の改善に注力したものだ。木曽氏は、この事例をホテル業務全体に広げ、今度は顧客と実際に触れているスタッフの仕事にも活用できると考えているという。
「一例を挙げると、フロント業務などです。とはいえ、完全なIT化でロボットに対応させるようなことをやるつもりはまったくありません。DXで作業時間を縮め、お客さまと直接触れあう仕事に注力できるような形で、すべての業務に展開していきたいと思っています」(木曽氏)
木曽氏の今後の展望を受け、現営業担当のNTT東日本 神奈川支店 第二ビジネスイノベーション部 第一産業基盤ビジネスグループ 産業基盤ビジネス担当 シニアコンサルタント 長浜瑞穂氏、前営業担当のNTT東日本 東京東支店 第二ビジネスイノベーション部 第二産業基盤ビジネスグループ 大平皓貴氏は、次のように抱負を語る。
「まずはホテルニューグランドさまのDX推進に伴走していきたいと思います。すでに、別の部門でのDXについても内容を確認させていただいておりますので、それをしっかり対応させていきたいと思います。また、こういった業務改善が他のホテル様でも活用できる機会があれば、ノウハウを活かしていきたいと思っております」(NTT東日本 長浜氏)
「前任として、最終的にはツール活用による効率化のみならず、データ活用による売上拡大まで伴走支援をさせていただきたいという思いを強く持っております」(NTT東日本 大平氏)
またNTT-ME 神奈川ブロック統括本部 神奈川エリア統括部 エリアプロデュース担当の角田裕元氏は、横浜観光とNTT東日本グループの関わりについて述べる。
「ホテルニューグランドさまは横浜観光のシンボルのひとつだと思っていますので、携われて大変嬉しく思っています。NTT-MEはDX化支援を行っていますが、それ以外にもさまざまな業種・業態において貢献しています。この横浜をより魅力にあふれる街にするお手伝いができればと思っています」(NTT-ME 角田氏)
ホテルニューグランドはいま、その歴史に新たな風を加えようとしている。2025年夏には、本館の中庭をリニューアルし、19時から30分ごとに3回「アクアプルーム」という光の演出を通年で行っている。また年間を通して四季の彩りを感じることができるようなレストランメニューなど随時展開中だ。
3月19日から横浜市で開催されている「ガーデンネックレス横浜2026」とも連携しており、中庭ではイベント限定の光の演出「花と緑の庭園」を展開。その他にも春限定の宿泊プランやアフタヌーンティー、テイクアウトなどが用意され、ホテルの滞在とともに楽める。港の灯りを風が運ぶ横浜の夜をゆったりと楽しめるのは、宿泊者ならではの贅沢だ。










