
新千歳空港から、白銀の羊蹄山を望むニセコへ。今回の目的地は、フェラーリが主催する特別なスノードライビング体験プログラムEsperienza Ferrari(エスペリエンツァ・フェラーリ)である。拠点となるのは「パークハイアット ニセコ HANAZONO」。シンガポールを拠点とするアジアパシフィックオフィスが主催とあり、10日間にわたる開催期間中はアジア各国からフェラーリオーナーが極上の雪を求めて集結するという。我々のグループにもシンガポールや中国からの参加者が名を連ね、ニセコがいまや世界のセレブリティにとって魅力的なデスティネーションであることを再認識させられた。
【画像】北海道の雪原でフェラーリ最新モデルを乗り比べる!(写真10点)
初日到着時は簡単なブリーフィングと誓約書へのサインを済ませ、各々の部屋へ。このホテルはどの部屋にもバスルームが二つあり、シングルユースでは持て余すファシリティだ。嬉しかったのはこのイベントのためにチャペルをディナー会場に使用するというアイデア。天井にはカヴァリーノ・ランパンテ(跳ね馬)が大きく照らし出され、随所に施された赤い照明がゲストを温かく迎えてくれた。フェラーリ・ジャパンのマネージャーによる挨拶で乾杯。オーナー同士、翌日への期待を込めて会話が弾む、優雅な前夜祭となった。
20台のフェラーリが雪上に並ぶ圧巻の光景
前夜、空港からのハイヤーの運転手が語ってくれた「羊蹄山の山頂に雲がかかると翌日は雪」という言葉通り、当日は大雪警報が出るほどの降雪量となった。会場となる蘭越町の特設コースまでの道路は、昨日とは打って変わって白い雪に覆われている。8,800ユーロという参加費に相応しく、用意された車両ラインアップには目を見張るものがある。FRの12Cilindri(ドーディチ・チリンドリ)とAmalfi(アマルフィ)。そして4WDモデルであるPurosangue(プロサングエ)に849 Testarrosa(テスタロッサ)。さらに要望の高いオーナーには特別プログラムとして296 Challengeまで用意され、計20台もの跳ね馬が雪の舞う広大な敷地に並ぶ光景は、まさに圧巻の一言だ。
インストラクター陣も超豪華。マラネッロから来日したアンドレア・ノーリ氏やマルチェロ・ザーニ氏をはじめ、日本でもお馴染みのロニー・クインタレッリ選手、吉本大樹選手、佐藤万璃音選手、金丸ユウ選手といったトップドライバーが顔を揃える。
まずは足慣らしとして、短いコースで基礎的なドライビングワークを習熟する。私はまずアマルフィのハンドルを握った。フェラーリのハンドルに配置された「マネッティーノ(Manettino)」は、F1の技術をロードカーに応用した操作スイッチだ。今回はトラクションコントロールをOFFにし、フェラーリの「素」の性能を味わうことが目的だ。アマルフィはその優雅なスタイリングとは裏腹に、雪上ではFRらしい豪快な特性を見せる。インストラクターのアンドレア氏は「テールスライドを見越してカウンターステアのタイミングを計れば、スタビリティは簡単に確保できる。アマルフィはローマ以上にリアの安定性が高められているので、安心して『GAS(アクセル)』を楽しめるはずだ」と語る。確かに、後輪が滑り始めてからの収束が極めてリニアで、大パワーながら驚くほど扱いやすい。
公道走行で見せる、雪上での優れた安定性
続いてはコース外へ。約80kmの公道走行は冬の日本海を望む情緒あふれるルートだ。V12をフロントミドに積むドーディチ・チリンドリで走り出す。マネッティーノを「WET」にセットするとオートマモードではわずか50km/hで8段まで入る緻密な制御を見せてくれた。シャーベット状の路面や凹凸も、電子制御の恩恵で進路を乱すことなくスムーズに駆け抜ける。上り坂での加速でも、スロットルが完璧にコントロールされ、一切の不安を感じさせない。
4WDの真髄をアクセルワークで学ぶ
プログラムは休む間もなく続く。次はプロサングエでの走行体験だ。ロニー・クインタレッリ選手の指導は丁寧かつ的確。「コーナーを少し外側から入って、待って、待って…… 丁寧に、そこでアクセルオン! そしてオフ!」。4WDの恩恵でTCS(トラクションコントロール)をオフにしても制御は驚くほど容易だ。巨躯でありながら、コーナー出口の方向に鼻先を正しく向けてさえいれば、あとは魔法のように安定したコーナーリングが決まる。
中盤にはアマルフィによるジムカーナ形式のタイムアタックも行われた。上位2名の表彰を狙い、本気で挑む。しかしいたずらにアクセルを踏めば空転して数秒単位のロスを招く。大切なのは「アクセルでテールを滑らせ、ハンドルで方向を決める」繊細な感覚。ドリフトを維持しながら最速ラインをトレースする難しさと楽しさを、五感で理解することができた。
プログラムの締めくくりは、1.2kmのロングコース。アクセル開度とカウンターステアのタイミングを同期させる――このリズムさえ掴めば、プロサングエの強大なパワーを手の内でコントロールしながら、美しい放物線を描いてコーナーを抜けていける。これこそがフェラーリの「素性」の良さがもたらす安全でエキサイティングな走りの真髄だろう。
2カ月の準備が結実した雪の聖域
会場となった蘭越町の特設コース、夏場は公園だそうだ。このイベントのためにおよそ2カ月前から水を撒き、氷層を養生して作られたという。我々のタイミングは充分な降雪に恵まれたが前週は温かく雪が解け続ける事態に。それを見越して大量に確保していた雪を、毎日スタッフが少しずつ削ってはコースの補修に充てていたという。施設も充実。待機場所のドームテントでは都内の名店から招いたイタリア人シェフによる温かいケータリングが振る舞われ、過酷な外気とは対照的な極上の時間が流れていた。
「タイヤを滑らせることを覚えることで、滑らせない走りを学ぶ」
最後にインストラクターが放った、まるで禅問答のようなこの言葉は、この一日で習得したすべてを象徴していた。フェラーリ各モデルの特徴と懐の深さ、そしてマネッティーノの優秀さを再確認した今回の体験。結果的に開催期間中は、ダメージがあったフェラーリは皆無だったという。良く練られてレッスンプログラムの秀逸さと参加者それぞれのドライビング・テクニック習得レベルの高さが伺い知れる。参加者全員が満面の笑みでニセコを後にしたことが、このイベントの圧倒的な満足度を何よりも雄弁に物語っていた。
文:堀江史朗(オクタン日本版編集部) 写真:フェラーリ・ジャパン
Words: Shiro HORIE (Octane Japan) Photography: Ferrari Japan