
3月12日、フェラーリはマラネッロで新型「フェラーリ・アマルフィ・スパイダー」を発表した。フロントミドにV8ツインターボを搭載する2+レイアウトの新型スパイダーであり、速さだけでなく、日常での使いやすさや快適性、そしてオープンモデルならではの開放感までを高い次元で両立させた1台として位置づけられる。快適性やスタイルを妥協することなく、よりダイナミックなドライビング体験を求める顧客に向けて設計されており、卓越したパフォーマンスと日常的な使い勝手、そしてオープンカーならではの歓びを融合させた1台である。
【画像】スポーティーさと多用途性を両立させた、フェラーリ・アマルフィ・スパイダーがデビュー(写真13点)
まず気になるのは、クーペとの差別化と実用性だろう。アマルフィ・スパイダーは、クーペ版アマルフィの美しいプロポーションをできる限り崩さず、ファブリック製ソフトトップを採用したことが最大の特徴である。しかもこのルーフは、時速60kmまでなら走行中でもわずか13.5秒で開閉可能。格納時の厚さは220mmに抑えられ、スペース効率にも優れる。荷室容量はルーフを閉じた状態で255リットル、開けた状態でも172リットルを確保しており、日常使いから1泊ないし週末の旅行まで視野に入る数字だ。フェラーリがこのモデルを単なる”気持ちのいいカブリオレ”ではなく、”現実的に使える高性能スパイダー”として仕立ててきたことがよく分かる。
ソフトトップと聞いて、遮音性や断熱性を気にする向きもあるだろうが、この点にも相当に配慮されている。5層構造のファブリックを用い、格納式ハードトップに匹敵する遮音性を目指したという。大型のリアウインドウも備え、外部ノイズの抑制にも寄与する。オープンモデルでありながら、閉じた状態ではGTとしての落ち着きを、開けた状態ではスパイダーとしての高揚感を、それぞれきちんと成立させようとした設計である。
デザインは、フラビオ・マンツォーニ率いるフェラーリ・デザイン・スタジオが手掛けた。全体の造形はミニマルで、面の張りと抑揚によって現代的なエレガンスを生み出す方向性だ。長いボンネット、大きなエアインテーク、彫りの深いフロントまわりが、フロントミドシップV8フェラーリらしい構えをつくり、リアにはアクティブスポイラーが一体化される。鍛造ホイールやカーボンファイバーのディテールも用意され、スポーティさと上質さの両方を引き立てる。
ルーフの素材と色の選択肢も、この車の個性を大きく左右する。テーラーメイドファブリック4色とテクニカルファブリック2色が用意され、新色の「テクニコ・オッタニオ」も設定された。テクニカルファブリック特有の織り目は光の当たり方によって表情を変え、ルーフそのものをスタイリングの主役のひとつとして見せる。さらにルーフを開けた際には、その素材感がトノーカバーや後方の面構成とも連続するよう考えられており、単なる”幌を畳んだ状態”にとどまらない、完成度の高い見せ方が追求されている。
ボディカラーでは、新色「ロッソ・トラモント」が導入された。アマルフィ海岸に着想を得た色彩テーマを発展させた専用色で、夕暮れ時の海と空の境界を思わせる陰影を表現したものだという。オレンジのアンダートーンを帯びた赤は、フェラーリの伝統的なロッソとはまた異なる艶やかさを持ち、アマルフィ・スパイダーの彫刻的な面をいっそう際立たせる。
インテリアは、見た目の新しさと同時に、使い勝手と質感にも目が行く。デュアル・コクピット構造を採用し、ドライバーとパッセンジャーを視覚的に分けながらも、一体感のある空間にまとめている。ダッシュボードからドア、センターコンソールまでの流れは明快で、2+レイアウトの後席も、もちろん緊急用ではなく実用性の拡張としてきちんと意味を持たせている。子どもを乗せる、荷物を置く、フェラーリでありながらも2シーターでは不可能な用途に対応していることはやはり嬉しい。
操作系では、近年のフェラーリで議論を呼んだタッチ主体の流れを見直し、物理ボタン付きステアリングホイールへ回帰した点が大きい。しかも象徴的なアルミ製スタートボタンが復活した。左スポークにはADASやアダプティブクルーズコントロール、電話、音声操作の機能を集約し、右側にはメーター表示や各種操作系を配置。さらにステアリング裏側には音量や放送局選択のロータリーダイヤルも備える。視線移動や操作の迷いを減らし、走りに集中できるよう再構成したことが伝わってくる。
ディスプレイ構成は、15.6インチのデジタルメーター、10.25インチのセンターディスプレイ、8.8インチの助手席ディスプレイという3画面構成。メーターには走行情報や車両挙動に関する情報が表示され、センター側ではマルチメディア、電話、ミラーリング、空調、シート調整、各種設定にアクセスできる。助手席ディスプレイにはGフォースや回転数なども表示され、パッセンジャーが”コ・ドライバー”のように車との対話に参加できる仕立てだ。Apple CarPlayとAndroid Autoにも対応し、ワイヤレス充電機能も備える。さらに「MyFerrari Connect」によって、専用アプリから車両状態をリモートで確認できる。
オープンモデルとしての快適性を左右する装備も抜かりない。リアシート背もたれに一体化されたウインドディフレクターは、ボタン操作ひとつで展開でき、停車する必要もない。作動すると後方から巻き込む風を効果的にそらし、頭部周辺の乱気流や騒音を低減する。時速170kmまで展開可能で、それ以上の速度では新たな展開こそ制限されるものの、すでに展開済みなら最高速域までそのまま使用できるという。オープンにしたときの快適性を、きわめて具体的に詰めてきたことが分かる部分だ。
パワートレインは、3,855ccのV8ツインターボ。F154エンジンの最新進化版で、最高出力は7500rpmで640cv、リッターあたり166cvという高い出力を誇る。レッドラインは7600rpmまで拡大され、高回転域まで途切れず伸びる感覚を重視した設定だ。ここで注目すべきは、単に最高出力を掲げるのではなく、レスポンスと扱いやすさの向上にもかなり重点を置いている点である。
2基のターボは独立して制御され、最大回転数は17万1000rpmまで高められた。各バンクに圧力センサーを持たせ、過給圧制御の精度を引き上げることで、スロットル操作に対する反応をより鋭くしている。ECUには296GTB、プロサングエ、12チリンドリにも採用された最新世代を用い、エンジンの能力をより緻密に引き出す。さらに軽量カムシャフトの採用やエンジンブロックの再設計によって軽量化も図られ、フェラーリのエンジンとして初めて低粘度オイルを導入。冷間時の抵抗低減と暖機効率の向上も実現したという。
組み合わされるのは8速デュアルクラッチ・トランスミッション。すでに実績のあるユニットを、より強力な制御系とソフトウェア統合によって一段と磨き上げ、変速の滑らかさと速さを高めた。ドライサンプ式ギアボックスや低摩擦ベベルギア、クラッチトルク管理戦略なども採り入れ、都市部でのスタート&ストップを含む場面でも扱いやすさを向上させている。
サウンドについても、フェラーリはかなり意識的だ。厳しい騒音規制に対応しながら、ブランドらしい音色を損なわないよう、新しいサイレンサー配置を開発。フラットプレーンクランクや等長エキゾーストマニホールドが生む独特の燃焼感に加え、新しい比例制御式バイパスバルブによって、走行状況に応じた音の最適化を図る。オープンモデルである以上、音は体験価値そのものでもあるため、妥協は許されない。きっとユーザーの期待に応えてくれているに違いない。
シャシーと車両制御では、フェラーリの最新技術が惜しみなく投入される。中心となるのはブレーキ・バイ・ワイヤの採用で、制動効率の向上だけでなく、ペダルフィールやコントロール性の精度も高められた。ABS EVOは6Dセンサーの情報を活用して各輪の最適スリップ率を算出し、さまざまな路面状況やマネッティーノの全モードで安定した制動を実現する。SSC 6.1はステアリング、トルク制御、ボディモーション制御までを統合し、車両全体を共通のロジックでまとめ上げる。
EPSベースのグリップ推定システムも進化し、従来より10%高速に路面μを把握できるという。限界域に達していない場面でも各制御系の応答精度を高め、結果としてより自然で安心感のある挙動につながる。マネッティーノはWet、Comfort、Sport、Race、ESC-Offの5段階。ローマ系よりSportとRaceがよりダイナミック寄りに調整されつつ、その間のつながりは滑らかになっているというから、日常からワインディングまで一段と扱いやすい性格に仕上がっているはずだ。
空力も見逃せない。フロントではヘッドライト上部のバイパスが圧力を逃がし、冷却にも寄与。アンダーボディのボルテックスジェネレーターやディフューザー、前後輪前方のフェアリングが効率を高める。リアには3段階可変のアクティブウイングを装備し、速度や横G、前後Gに応じてLD、MD、HDの各モードに自動で移行する。HDでは250km/h時に最大110kgのダウンフォースを発生させながら、空気抵抗の増加は4%未満に抑えたという。
ADASも充実している。アダプティブクルーズコントロール、自動緊急ブレーキ、ブラインドスポット検知、レーン・デパーチャー・ウォーニング、レーンキーピングアシスト、オートマチックハイビーム、交通標識認識、ドライバーの居眠り・脇見検知を標準装備し、サラウンドビューやリアクロストラフィックアラートも用意される。フェラーリにとって重要なのはあくまで運転体験だが、その前提として安心して距離を重ねられることもまた、いまや高性能GTの条件になっている。
タイヤは20インチで、サイズはフロント245/35 R20、リア285/35 R20。ピレリPゼロ、グッドイヤー イーグルF1スーパースポーツ、ブリヂストン ポテンザスポーツの3銘柄が、このモデル専用開発品として標準設定される。最後にアフターサービス面では、7年間の純正メンテナンス・プログラムも用意される。2万kmごと、もしくは年1回の定期メンテナンスを走行距離制限なしでカバーし、認定中古車オーナーも対象となる。
フェラーリ・アマルフィ・スパイダーは、単にクーペの屋根を開けた派生モデルではない。速さ、音、造形、そして使いやすさ。そのどれかを犠牲にするのではなく、オープンという体験価値を中心に据えながら、日常から長距離まで本当に使えるフェラーリとして練り上げられた新しい2+である。カリフォルニアを皮切りに始まったフェラーリのV8フロントミドシップGTが辿ってきた成熟の先に、ひとつの理想形が加わった。