ザ・マリアス日本初取材──『Submarine』に宿る、色とビジュアルのアイデンティティ

今年2月に開催されたグラミー賞授賞式。そのハイライトとなったパフォーマンスのひとつは、最優秀新人賞にノミネートされたアーティスト全員によるメドレー形式でのライブだった。オリヴィア・ディーンやソンバー、レオン・トーマスなど多彩なアーティストたちによる素晴らしいステージが続いたが、そのオープニングを飾ったのがLAに拠点を置く4人組、ザ・マリアス(The Marias)だ。

マリアスのフロントパーソンを務めるマリア・ザルドヤは、プエルトリコ生まれのアメリカ育ち。つまりマリアスはラテンをルーツのひとつに持つインディバンドであり、マリアは英語とスペイン語を自在に行き来しながら歌う。同郷のビッグスター、バッド・バニーの『Un Verano Sin Ti』に参加していたことで、その名前を知った人もいるだろう。

マリアスにとっての初ヒットは、グラミー賞授賞式でも披露したメロウなドリームポップの名曲「No One Noticed」。TikTokから火がつき、ビリー・アイリッシュがInstagramで紹介したことで人気が爆発したこの曲は、全米最高22位を記録し、全世界で100万ユニット以上の大ヒットとなった。この勢いによって、彼らはグラミー賞の最優秀新人賞にノミネートされるまでになる。

そしてグラミー賞ノミネートを機に、「No One Noticed」も収録されている2ndアルバム『Submarine』の日本盤がリリース。同作は、ドリームポップやジャズやレゲトン、そしてポップでエレクトロニックなプロダクションが美しく溶け合ったアルバム。制作直前にマリアとドラムのジョシュ・コンウェイの恋愛関係が終わったという背景もあり、静かな海の底でブルーな感傷に浸っているようなムードをまとった作品でもある。

この『Submarine』について、そしてマリアスのこれまでとこれからについての質問に、マリア、ジョシュ、ジェシー・パールマン(ギター)、エドワード・ジェームス(キーボード)の4人が、メールにて答えてくれた。

ーまずはグラミー賞の最優秀新人賞ノミネート、おめでとうございました。惜しくも受賞は逃しましたが、このノミネートはあなたたちにとってどのような意味がありましたか?

エドワード・ジェームス(Key):この活動で僕が何よりも大事だと思っているのは、僕達4人が一緒に体験できるということなので、ノミネートは素晴らしい機会と、ここまでの僕達の努力の両方を祝うものになったと感じているよ。

ー日本でマリアスのインタビューは初めてだと思いますので、まずはバンドがどのように始まったのかを教えてもらえますか?

ジョシュ・コンウェイ(Dr, Producer):マリアと僕は、ロサンゼルスのキビッツ・ルーム(the Kibitz Room)という小さなライブハウスで出会った。彼女がソロでパフォーマンスをした夜、僕はサウンドガイとして働いていた。彼女の歌声を聴いて、僕のスタジオで一緒にレコーディングしてみないかって尋ねて、そこから一緒に曲作りとレコーディングをするようになった。それから僕達が作った曲の一つ、”I Dont Know You”がロサンゼルスの小さなラジオ局で流されて、ライブもやりたくなってね。それで、僕の子供の時からの友人のジェシーとエドワードをバンドに誘って、それからずっと一緒に活動を続けているんだ。

ーマリアはプエルトリコ生まれで、米ジョージア州で育ち、その後、LAに拠点を移しました。こうした生まれ育った環境は、あなたの考え方や価値観、音楽的な志向、そしてマリアスのサウンドにどのような影響を与えたと思いますか? 

マリア:私は本当に様々なタイプの音楽を聴いて育って、そのことに深く感謝しているの。プエルトリコに住んでいた時はラテン・ロックとポップとレゲトンを聴いていて、ジョージアで、フォーク、カントリー、R&B、ヒップホップを聴くようになった。ただ、サイケデリック・ロックはあまりよく知らなかったから、ジョシュと出会ったおかげで、その空白が埋まった。ザ・マリアスの音楽の核にあるのは、あらゆるジャンルの音楽に対する愛と、それらの融合だと思う。

ーこの質問は出来れば全員に答えていただきたいです。あなたの音楽観を形成する上で、もっとも重要な影響を与えたアーティストは誰ですか? 

エドワード:僕が最初に学んだミュージシャンは、マッコイ・タイナー。彼は音楽の”ミス(間違い)”をアイコニックなフレーズに変える能力を見せてくれた人だった。ジョン・コルトレーンと共演した「My Favorite Things」の彼のソロで、Fマイナーの上にFコードを弾いて不協和音を作った話は有名なんだ。何より、まるで瞑想しているかのように音楽に深く入り込んでいける能力のおかげで、彼は窮地から抜け出したんだと思う。あの曲を聴く度に、最も偉大なミュージシャン達もミスをするもので、大抵、その天才的な能力は新しいことを受け入れる力と勇気にあるんだってことを思い出す。

ジェシー・パールマン(Gt):僕はビートルズだ! 彼らほど深く知っているバンドは他にいないから。僕の両親が、僕が幼い頃から彼らの曲を聴かせてくれていたおかげだよ。彼らは間違いなく、僕をクリエイティブな人間にしてくれた。それに歳を重ねて音楽的にも成熟するにつれて、もっと彼らに感謝するようになったよ。僕にとって、彼らは水や空気や食べ物のように必要不可欠な存在だね。

マリア:断然、レディオヘッド。彼らは限界を押し広げて、リスナーに全く予測できない音楽を与えることを恐れなかった。彼らが時の試練に耐えて残り続けた理由は、どんなトレンドにも従わない、彼らの芸術性にあると思う。我が道を行っていて。いつか私達も、自分達だけの道を創造できたらと思うわ。

ジョシュ:名前があがってない人にしたかったけど、ジョシュと同意見だよ。最も影響を受けたアーティストを一つしか選べないとしたら、間違いなくビートルズだ。今になっても、彼らは作曲とプロダクションという点で僕の頭をぶっ飛ばしてくれる。百万回ぐらい聴いた曲でも、聴く度に新しい要素が聴こえてくる。「スタジオで楽しい時間を過ごす」ってどんなことなのか、その完璧な例が彼らのアルバムの数々なんだ。

ーマリアがシンガーとして、ソングライターとして影響を受けたアーティストを挙げるとすれば誰になりますか? 

マリア:トム・ヨーク。彼は、完全にその瞬間と音楽の中に没入する。マイクを手にした時の彼のパフォーマンスから、それは伝わってくる。ステージ上の彼は自分の内側から湧き出てくるもの以外は、何も認識していない。ソングライターとして彼の歌詞は詩的で、視覚的で、変わっている。そして言うまでもなく、メロディの凄さ。彼の書くメロディに迫れるライターはいない。ナイフのような鋭さで胸に刺さるの。

ーマリアが英語とスペイン語の両方で歌うことには、どのような意味がありますか? 音の響きの面白さを狙ったものなのか、言語によって歌う内容やキャラクターを切り替えているのか、あるいは自然と出てくるものであり自分自身のアイデンティティの表明なのか、さまざまな理解が可能だと思いますが

マリア:私はスペイン語と英語のバイリンガルとして育ったから、私が目にして体験することは、両方の言語で反映されるの。スペイン語は明らかに英語よりロマンチックな質感があって、母音がより広がりのある音になっているから、より自然に歌える感覚があって歌いやすい。でも曲を作る時は、その瞬間に私の中から出てきた言語を使っていて、時々それを入れ替えることもある。

ーあなたたちの音楽にはオルタナティブな手触りがある一方で、エレクトロニックでモダンなポップサウンドとも共振するところがあると思います。ポッププロダクションという点で、あなたたちが刺激を受けたアーティストや作品があれば教えてください。 

ジェシー:このバンドのすごくユニークな点は、特に僕達が集まってジャムをする時は、僕達全員の影響が湧き出ていて、それらを融合しているってことだと思う。スペイン語の曲になるか英語の曲になるかは、ジャムの最中にマリアが自然に決める。だからジャジーなマイナー7コードになることもあるし、ダークで歪んだギターラインになることもある。全ては僕達がその瞬間に感じていること次第なんだ!

ジョシュ:テーム・インパラの『Lonerism』は、僕の音楽観を変えてくれたアルバムの一つで。もう一つは、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジの『Songs For The Deaf and Era Vulgaris』。キャッチーなメロディにサイケデリックなプロダクションを合わせていて、”ポップ”ってありがちなサウンドだったり、”ラジオフレンドリー”なサウンドである必要はなく、オルタナティブなサウンドのプロダクションで”ポップ”ソングを書くことは可能なんだと気づかされた。僕の考えとしては、彼らの楽曲は今ラジオで流れている曲よりもずっとキャッチーだ。ビートルズもそれと似たようなことを、彼らのプロダクションでやっていたよ。

ーデビューアルバムの『Cinema』は、そのタイトル通りとてもシネマティックでエクレクティックなサウンドが展開されています。いま振り返って、あなたたちはあのアルバムをどのように捉えていますか?

マリア:あのアルバムを作った時の私達は、赤ちゃんだった! すごくウブだった。それが聴き取れる曲がいくつもある。でも全体としては、私達が一緒に作り上げた音楽を誇りに思ってる。ジョシュと私でこれらの曲の多くをパンデミック中に書いたから、その時を刻印した作品のように感じてる。

ジョシュ:うん、僕達は何も知らなかった! そして10年後、今この時を振り返ったら、同じことを思うんだろうね……でも、僕達全員にとって初めてのフルレングスアルバムだったから、僕達がウブだったと言うのは正しいよ。『Cinema』は僕の心の中の特別な場所を占めている作品で大好きな曲が沢山あるけれど、プロダクションという観点から見ると、今だったら違う決断をしていただろうなと思う。常に成長していきたいから、それは自然な感覚かな。 

痛みと正直さが生んだ『Submarine』

ー『Submarine』は、静かな海の底でブルーな感傷に浸っているようなムードを持つ美しいアルバムです。サウンド面ではよりドリームポップ的な色彩が濃くなり、メランコリックな印象が強まりました。音楽的にはどういったものを目指していたのでしょうか?

マリア:私達は、可能な限り正直になろうと試みた。達成しようとしていたのは、それだけ。制作の初期に少しライターズブロックを感じたんだけど、それを抜け出した瞬間、徹底的に自分達とお互いに対して正直になった。私達のアルバムの中で最も内省的で、心の内を反映した作品になっていると思う。ジョシュも私も、人生でも人間関係でも最高に変化した時期を経験していたから、『Submarine』は私達の人生の辛い時期を刻印した作品なの。

ジョシュ:確かに制作は楽じゃなかったけど、制作に2年かけた『Cinema』 と比べると、かなり短期間(4ヶ月)で完成させたんだ。自分達の人生の一部を切り取って、永遠に残るものにしたような作品だから、こういうアルバムを作るのはすごく正しいという実感があった。僕にとって『Submarine』は、2023年の夏の僕達の人生を正確に正直に描写した作品だよ。

ー音楽的に参考にしたアーティストはいたのでしょうか?

ジェシー:『Submarine』の制作に当たって、僕達全員が、90年代後半から2000年代前半のドリームポップ、トリップホップ、それからオルタナティヴ・アーティスト/バンドにすごくインスパイアされていたんだ。ステレオラヴ、ゼロ7、AIR、ポーティスヘッド、コクトー・ツインズ、マジー・スター、マッシヴ・アタック、トリッキー、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、ブロードキャスト、そして勿論、レディオヘッドにね。

マリア:私は『OK Computer』を一杯聴いてた。リピート再生で。

ー『Submarine』は、マリアとジョシュとの関係性の変化という私的な体験を背景に、マリアがそのときの心情を率直に歌ったアルバムです。こうしたプライベートな体験をパブリックな作品として昇華したことによって、あなたたちにはどんな発見や気持ちの変化がありましたか? 

マリア:私たちの恋愛関係の終わりを私なりに処理するのと同時に、私達はこのアルバムを書いていた。全く同じ時に起こっていたの。私の人生の中で、最も苦しい時期の一つだった。スタジオを出て、家に帰る車の中でただ泣いて泣いて、泣いてた。作曲プロセスの全てが、カタルシスを得られるものだった。『Submarine』のようなアルバムは2度と書く必要がないことを願うわ(笑)。

ー『Submarine』はクシシュトフ・キェシロフスキ監督の『トリコロール/青の愛』にインスパイアされているそうですが、具体的にこの映画のどのようなところに刺激を受けたのでしょうか?

マリア:私達のビジュアルで、私はいつも色彩理論を実践してきた。『Cinema』は私達のレッドアルバムで、情熱と恋愛の感覚を象徴していたの。破局後、色とビジュアルのアイデンティを完全に変えたいと思ってた。私はキェシロフスキ監督と彼の色の使い方、象徴化に感化されていたの。『トリコロール/青の愛』が私の心に響いた理由は、この映画の中で青色が失恋と喪失と憂鬱を表していたから。でも映画が進むにつれて、青色は希望と、今を生き、創造するという改めて目覚めた願望を表すようになる。それこそ私が『Submarine』の作曲中に感じた感情だった。傷心のプロセスとして始まったことが、最終的に私にとっての真の目覚めになったの。

ーデビューアルバムのタイトルも『Cinema』ですし、映画はあなたたちにとって重要なアートのひとつだと思います。『トリコロール/青の愛』以外にも、これまであなたたちが影響を受けてきた監督や映画作品について教えてください。

マリア:ザ・マリアスの初期のビジュアルアイデンティティに大きな影響を与えたのは、ペドロ・アルモドバル(Pedro Almodóvar)で、私達のアルバムで色彩理論を使うことをインスパイアしてくれた。『Cinema』の中で私は、彼の映画で一番好きな『トーク・トゥ・ハー(原題Hable con Ella)』にちなんで2曲の曲名をつけて、彼への愛を見せた。それからソフィア・コッポラと彼女が映画の中でロマンチックで、女性的で、夢の中にいるような世界を創造することにもインスパイアされていて。それに『ロスト・イン・トランスレーション』が、スパイク・ジョーンズとの別れにインスパイアされた映画だったことも大好きなの。スパイク・ジョーンズの映画『her/世界で一つの彼女』もまた、コッポラとの別れにインスパイアされていたのよ。アートは、人生や恋愛で起こることに直接反応するの。

ーあなたたちはこれまでにバッド・バニーやタイニー、ヤング・ミコと共演し、「Hamptons」にはレゲトンのリズムが取り入れられています。自分たちとラテン音楽との関係性はどのように考えていますか?

マリア:ラテン音楽は私という人間の一部だから、私達の作る全ての音楽に深く浸透しているわ。私はラテン系だから、その視点は常に持ち続ける。でも、「Hamptons」はジョシュの視点で、ラテン音楽とそのリズムを紹介されたことに反応したような曲だから、特別な曲よ。

ジョシュ:マリアはよくレゲトンを家で聴いているからね。僕はレゲトンのない子供時代を過ごしたけれど、大好きになるのに時間はかからなかった。今は、ドラムのパターンで色々と実験するのが好きだよ。四つ打ちは、しばらくすると飽きるからね!

ヒット狙いは一切なし。直感だけを信じて

ー「No One Noticed」は静かでおとなしい曲なので、当初はヒットを想定していなかったそうですが、結果的に大きな成功につながりました。この経験で自信に繋がった点や、新しく気付いたことがあれば教えてください。

マリア:自分の直感に従うこと。決してヒット曲を作ろうとしないこと。

ービリー・アイリッシュによるフックアップも、「No One Noticed」のヒットを後押しした要因のひとつです。ビリー・アイリッシュやラナ・デル・レイは「サッドガール」という文脈で語られることがありますが、あなたたちがその文脈で語られることについてはどう感じますか?

マリア:私はサッドガールの誇りを持ってるから、すごく気に入ってる。私は最高に幸せで満たされている時ですら、悲しくてメランコリックな音楽の方により共鳴するから。

ービリーやラナについてどのような印象を持っていますか?

マリア:彼女達は本当に特別で、二人とも悪びれることなくありのままの自分でいるから、先駆者だと思う。レディオヘッドを愛しているのと同じ理由で、彼女達を愛してる。己の道を切り開いて、他の誰かに従わないから。

ー昨年リリースされたシングル「Back To Me / Nobody New」は、歌詞の世界観は『Submarine』との連続性を感じさせるものの、よりパワフルで開放的なサウンドで新たな一歩を踏み出しているように感じられます。この曲のアイデアと位置づけ――新作への布石なのか、『Submarine』のエピローグなのか、を教えてください。

ジョシュ:良い質問だね! サウンド的には、『Submarine』のエピローグというより新しいアルバムのプレリュードに寄っていると思うけど、この2曲はどちらのアルバムとも完全に繋がってはいない。「Back To Me」は、ある日僕達4人がやったジャムから生まれて、数時間のうちに曲が完成したんだ。それが起こるときは、いつも最高に嬉しい。「Nobody New」は、ある夜、マリアと僕とベニー・ブランコの作曲セッションから生まれて、発表直前まで何度か作り直した。発表当日に、3bpmか4bpm速くしたんだ(笑)。かなりクレイジーな一日だったけど、本当にやって良かった。

ーもう次のアルバムも完成しているそうですが、どのような作品になりそうか、可能な範囲で教えてもらえますか?

ジョシュ:僕達は、2025年の春、ニューヨークにあるエレクトリック・レディー・スタジオに4週間入って全曲を作曲した。スタジオを出てから今まで、誰一人としてレコーディングした曲を聴いていないんだ。僕達が完成させる時が来るまで聴かないっていうルールを僕が決めたから。最終セッションはここ1、2週間で始まる予定だから、全員が曲を聴くのを楽しみにしているよ。それでも僕は大半の曲を覚えているし、本当に特別な曲の数々を作ったっていう感覚も覚えているから、何も心配はしていないんだ。

ー昨年のコーチェラの配信であなたたちの素晴らしいライブを観て以来、来日公演を心待ちにしています。ぜひ近いうちに日本でのライブを実現させてください。

ジョシュ:日本は本当に、僕が死ぬまでに行きたい国のリストの一番なんだ。だから、近々僕達が行けることを願っているよ!

『Submarine / サブマリン』

The Marías / ザ・マリアス

国内盤発売中

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