『マーティ・シュプリーム』と音の幻覚──OPNダニエル・ロパティンが語る映画音楽の革新

ティモシー・シャラメ主演映画『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』の日本公開(3月13日)を先駆け、ダニエル・ロパティンが手がけた同作のサウンドトラック日本盤CDが2月27日にリリースされる。ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(Oneohtrix Point Never)として4月に開催する来日ツアーにはララージの出演も決定。進境著しい鬼才の最新インタビュー。

プロデューサー兼ミュージシャンのダニエル・ロパティンは、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーを名乗り、キャリアの初期をアンダーグラウンドなエレクトロニックやノイズ・シーンの開拓に捧げてきた。

年月を重ねるにつれ、ナイン・インチ・ネイルズのツアーへの帯同、FKAツイッグスやザ・ウィークエンドとのコラボレーションなど、彼の活動はメインストリームの境界線上を揺れ動くようになる。だが、(アメリカで)彼を最も世に知らしめたのは、サフディ兄弟の作品における映画音楽の仕事に他ならない。

「芸術的な指向は似ているけど、人間としては正反対なんだ」

ブルックリンの自宅からZoom取材に応じたロパティンは、そう語る。彼が初めてサフディ兄弟とタッグを組んだのは2017年の『グッド・タイム』、次いで2019年の『アンカット・ダイヤモンド』だった。そして今、ジョシュ・サフディ監督による話題の卓球映画『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』での仕事により、ロパティンはアカデミー賞のショートリスト(候補者名簿)に名を連ねるまでになっている。

「ジョシュは、彼自身が描くキャラクターたちと似ていなくもない」とロパティンは続ける。「一切の妥協がなく、そのエネルギーは常に上限を突破している」

自身を「どちらかと言えば内向的でシャイ」だと分析するロパティンだが、ジョシュ・サフディと組むことで「ある種のエネルギー」が引き出されるのを感じているという。「彼は、僕の中にあるより野生的な部分……『火を付けて暴れようぜ』という側面を気に入っているみたいだ」

『マーティ・シュプリーム』におけるロパティンのスコアは、映画そのものや、ティモシー・シャラメ演じる野心家なアンチヒーロー、マーティ・マウザーと同様に、動的でリズムに溢れ、光り輝いている。映画の舞台は1950年代だが、音楽はロパティンによる劇伴と、ティアーズ・フォー・フィアーズやアルファヴィル、ピーター・ガブリエルといった既存のポップソングの両面において、80年代の要素を強く取り入れている。ロパティンの示唆によれば、かつて脚本には、それらの楽曲が全盛を極めた年代までマーティの生涯を追う展開があったという。その結末はボツになったものの、彼とジョシュが作り上げたサウンドの骨組みには、今なおその名残が色濃く反映されている。

「それは、マーティが自らの未来や夢、理想像に辿り着くために通り抜けなければならない迷宮のようなものだ」と彼は語る。「まだ存在していない(未来の)音楽が、それを象徴している。劇伴に寓意性を持たせ、言葉では語られない事象や、登場人物たちが抱く直感、あるいは宇宙に対する予感を示唆する手法は、いかにもジョシュと僕らしい考え方だと思う」

ロパティンは、スコアの特定の要素を映画の「精神世界へのワームホール」と捉えている。彼は階段が登場する2つの重要なシーンを挙げた。ひとつは、引退した女優ケイ・ストーン(グウィネス・パルトロウ)が群衆をかき分け、マーティに会うために階段を昇る場面。もうひとつは、ケイが富豪の夫ミルトン(ケビン・オリアリー)と暮らす豪華なアパートで、マーティが階段を下りていく場面だ。

「どちらのケースでも、僕らはこの『上昇』というモチーフを弄んでみた」とロパティンは語る。

OPNの現在地と「音による幻覚」

『マーティ・シュプリーム』のスコア制作は、他の膨大な仕事が押し寄せる渦中で行われた。盟友ザ・ウィークエンドとは『Hurry Up Tomorrow』で再合流し、自身のニューアルバム『Tranquilizer』も完成させ、昨秋にリリースしている。この『Tranquilizer』において、OPNはネット上で見つけた90年代のサンプルCDの膨大なアーカイブを掘り起こした。2021年にそれらを発見した当初は、ザ・ウィークエンドの『Dawn FM』や自身の2023年のアルバム『Again』に集中するため活用の機会を先送りにしていたが、最近になって再びそのアーカイブサイトを訪れると、サンプルはすべて削除されていた。

「興味深い教訓になったよ」と彼は言う。「ワクワクしたんだ。一度現れては消えてしまったものだからこそ、どうしても形にしたくなった。結局、それを取り戻すために奇妙な地下捜索に乗り出す羽目になったけれど、案外簡単に見つかったよ」

友人がウェブサイトをスクレイピングしてサンプルライブラリを掘り出してくれたことで、ロパティンは制作に取り掛かった。また、彼は自身の歯科医院での原体験も引き合いに出している。定期検診の最中、天井を見上げた彼は、そこに貼られたヤシの木のポスターを凝視している自分に気づいた。それが歯医者によくある装飾の定番であることを、彼はすぐに知ることになる。

「奇妙な話だよね、歯医者が好きな人なんていないのに」と彼は笑う。「居心地を良くしようとしているんだろうけど、実際にはより気まずくさせている。手の届かないものを無理やり想像させられているわけだから」

天井を見上げながら、ロパティンはヤシの木の背後にある吊り天井のタイルに目を留めた。そこに刻まれた「奇妙な小さな穴」や穿孔(せんこう)に意識が向いたという。「その瞬間、『これが次のレコードになる』と思った」と彼は語る。

長年活動を続ける中で、ロパティンは多くのファンから「あなたの音楽を聴くと、ほとんど映像を『幻視』してしまう」という言葉をかけられてきた。そこで彼は、自分自身が常に「映像をいかにして音楽へと翻訳するか」という手法を模索してきたのだと気づいた。

「僕の音楽は難解だとか、抽象的だとか言われることもあるけれど、自分では決してそうだとは思っていない」と彼は言う。「僕が理解しているのと同じように、人々も僕の音楽を理解してくれている──そう感じる機会がますます増えているよ。つまり、それは一種の『音による幻覚的なカートゥーン(漫画)』なんだ」

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From Rolling Stone US.

ダニエル・ロパティン

『Marty Supreme (Original Soundtrack)』

日本盤CD;2026年2月27日リリース

購入特典:『マーティ・シュプリーム』オリジナル・ピンポン玉

詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15596

Oneohtrix Point Never

live visuals by Freeka Tet

special guest: Laraaji

2026年4月1日(水)大阪Gorilla Hall

2026年4月2日(木)東京・Zepp DiverCity

open 18:00 / start 19:00

前売:8,800円(税込 / 別途ドリンク代)※未就学児童入場不可

公演詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15467

映画『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』公式|3.13(金)公開

『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』

3月13日(金)、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

出演:ティモシー・シャラメ、グウィネス・パルトロウ、オデッサ・アザイオン、ケビン・オレアリ―、タイラー・オコンマ(タイラー・ザ・クリエイター)

監督・脚本:ジョシュ・サフディ

配給:ハピネットファントム・スタジオ

2025年/アメリカ/英語/149分/原題:Marty Supreme/レイティング:G

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公式サイト:happinet-phantom.com/martysupreme

【動画】『マーティ・シュプリーム』斬新すぎる映画音楽

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