藤井聡太名人への挑戦権を争う第84期順位戦A級(主催:朝日新聞社・毎日新聞社・日本将棋連盟)は、9回戦全4局の一斉対局が静岡県静岡市の「浮月楼」で行われました。このうち、増田康宏八段―中村太地八段の一戦は110手で増田八段が勝利。残留の可能性に懸けて臨んだ中村八段でしたがあと一歩及びませんでした。

もうひとつの大一番

2勝6敗と苦しい星取りの中村八段は負けられない一戦。残留のためには自身が勝ったうえでライバル・佐藤天彦九段の結果を待つ必要があります。前夜祭では「肩の力を抜いて伸び伸びと臨みたい」とした中村八段、先手番で迎えた本局は得意の角換わり早繰り銀で攻勢を取りました。6筋の歩突きで後の両取りの筋を防いだのが細かな工夫で、一歩得の実利を得ました。

激しい戦いは回避されて盤上は持久戦へ。すでに前例はなく、先手が歩得をどう生かすかに注目が集まります。作戦勝ちの道を模索した中村八段ですが、駒組みが終わった局面は「あまり冴えていないか」(局後の感想)という結果に。戦いの中で5筋の歩を突かされている点が大きく、角の打ち込みを警戒するため右金の動きに大きな制限が与えられています。

急所の一撃で勝負あり

後手の増田八段がもたれ戦術に出てようやく戦いがスタート。手を渡された中村八段はこちらも端への垂れ歩で態度を打診しますが、ここでの増田八段の攻めが急所を突きました。玉のコビンめがけて歩を突き出したのが筋中の筋といえる好手筋。取り込んだ歩が拠点となって受けの利かない「おかわりの攻め」が実現するため、先手は攻め合うよりありません。

局面の複雑化を図る中村八段は飛車を奪って肉薄しますが、増田八段の指し手は正確でした。敵玉への王手を急がずジッと自陣に手を入れたのが冷静な受けで、先手の攻めはピタッと止まっています。終局時刻は22時2分、最後は自玉の受けなしを認めた中村八段が投了。秘孔を突く一撃で先手玉を制した増田八段の強い勝ち方が印象に残る一局となりました。

勝った増田八段は5勝4敗と中位でフィニッシュ。敗れた中村八段は2勝7敗での降級が決まっています。

水留啓(将棋情報局)

  • 増田八段は局後「(途中から)挑戦に手が届かない形となって悔しい」と今期の戦いを総括した(提供:日本将棋連盟)

    増田八段は局後「(途中から)挑戦に手が届かない形となって悔しい」と今期の戦いを総括した(提供:日本将棋連盟)