新卒で農林中央金庫に入庫し、現在は農林中金全共連アセットマネジメント(NZAM)に勤務する山元海誠選手。日本代表として世界と戦うビーチアルティメット選手でもあり、「仕事か競技か」という二択に縛られず、どちらにも全力を注ぐ“二刀流”の生活を送っている。

しかし当然、仕事と競技の両立は簡単なことではない。山元選手は限られた時間のなかで、いかにして社会人とアスリートのバランスを取っているのか、本人に話をうかがった。

日本代表選手が語る、ビーチアルティメットの魅力

——まず、ビーチアルティメットとはどのような競技なのか、簡単に教えていただけますか?

一言で言えば、芝生で行う「アルティメット」の派生版で、バレーボールとビーチバレーの関係に似ています。フリスビーを使ってパスをつなぎ、エンドゾーン内でキャッチすれば得点になるというスポーツです。ドリブル禁止のサッカーやバスケットボールのような動きに、アメリカンフットボールのような得点方式を組み合わせたイメージですね。

大きな特徴としてはまず、身体接触が禁止ということ。ラグビーのようなタックルはなく、いかに相手をかわす駆け引きをするかが重要な競技です。もうひとつが、審判がいないということ。選手自身がルールの理解とフェアプレー精神に基づいて、自分たちで判断を下す「セルフジャッジ」という仕組みをとっています。

これは「スピリット・オブ・ザ・ゲーム」、いわゆるスポーツマン精神を重視する考え方で、競技成績とは別に、この精神性が最も優れたチームが表彰されるほど大切にされている文化なんです。

——ビーチならではの魅力や、通常のアルティメットとの違いはどこにありますか?

通常のアルティメットは7人制ですが、ビーチは5人制でコートも少し小さくなります。砂の上でのプレーはスピード感が落ちますが、その分、砂だからこそできるアクロバティックなダイブや、正確なパス精度、緻密な戦術が求められます。見ている側にとっても、砂の上で繰り広げられるダイナミックなプレーは非常に見応えがあると思います。

——そもそも山元選手がアルティメットに出会ったきっかけは何だったのでしょうか?

最初に出会ったのは小学生のとき、当時の日本代表選手が学校に来てくれて、体育の授業でプレーを見せてもらったのがきっかけでした。ただ、当時は「面白いな」と思う程度で、高校まではずっと野球をやっていたんです。でも、大学入学時に「新しいスポーツに挑戦したい」と考え、アルティメット部に入りました。

実は高校時代に投球障害で思うようにボールが投げられなくなり、野球を心から楽しめない時期があったんです。それでもスポーツは好きなので、もう一度何かに熱中したいという思いが強く、部活の体験に行った際、先輩たちに「上手いじゃん!」とおだてられ(笑)、その勢いで入部を決めました。

——これまでの成績などについてもお聞かせいただけますか?

学生のときに全日本大学アルティメット選手権で全国7位になり、DISCRAFT ULTIMATE OPENでは全国2位という成績を残せました。個人としては、2023年度のビーチアルティメット・チャンピオンシップで日本代表に選出していただき、2025年にも男女混合部門の日本代表に選ばれています。

「食で人を支えたい」原点から始まった社会人生活

——大学卒業後、農林中央金庫に入庫されたとのことですが、この道を選んだきっかけは何だったのでしょう?

大学で心理学を学んでいたのですが、ゼミの活動で宮城県の被災地を訪問したことが大きな転機となりました。震災のトラウマについて学ぶなかで、現地の方からお米、お酒、海産物といった地域の食が支えになり、「宮城は食の力で復興できた」というお話を聞いたんです。その言葉がずっと記憶に残っていました。

そこで「食を通じて人々の生活や幸せを支えたい」と思い、第一次産業を広く支える農林中央金庫を志望することにしたんです。

——現在の業務内容について教えてください。

現在は、運用部でアメリカのバンクローン(銀行ローン)への投資運用業務に携わっています。直接、農家の方々と接する機会は少ないですが、お客様から預かった大切な資金を運用して増やすことで、間接的に日本の食と農を支える産業や地域社会に貢献できていると思っています。

配属当初は投資信託の知識も乏しく、英語も得意ではなかったので、正直不安だらけでした。まだ1年目なので慣れたとは言えませんが、毎日、最新の米国市場やトランプ政権の動向などを日々追いかけています。

——競技と仕事はどのように両立しているのでしょうか?

満員電車を避けて、朝は早めに出勤することが多く、8時頃にはデスクに座っています。時差出勤を利用しているので、16時過ぎに退社できる日は仕事後にジムや公園に向かい、夜な夜な1時間ほど走ったり、一人でフリスビーを投げたりといったトレーニングを週に3日ほど行っています。

——休日の過ごし方や、リラックス方法についても教えてください。

土日は社会人のアルティメットチームの練習に参加しています。朝5時半に起きて、昼過ぎまで河川敷で練習し、帰宅後は家事や平日分の食事の作り置きをして過ごしています。

リラックス方法は料理ですね。健康には気をつけていて、週末に鶏むね肉を2kg買い込み、皮を剥ぎ、塩麹に漬け込んで冷凍保存するという作業を1時間くらいかけて行っています。これに没頭するのが意外と息抜きになるんです(笑)。あとは、トレーニング後に大好きなアイスを食べたり、サウナに行ったりして整えていますね。

時間が限られる社会人だからこそ、より効率的に

——競技を通じて得た経験が、仕事に活きていると感じる瞬間はありますか?

集中力や効率性といった部分は仕事でも活きていると感じます。アルティメットでは、限られた練習時間のなかで自分の長所を伸ばし、短所を改善するために常に頭を使います。仕事でも、ただマニュアル通りにやるのではなく、「もっと効率化できないか」と考え、Excelのマクロを組んでみたり、生成AIを活用して業務を簡略化したりといった工夫をしています。

また、試合中の極限の集中力は、仕事の締め切り間際など「ここぞ」という場面で役立っていますね。オンとオフをはっきり切り替えることで、どちらも手を抜かずに取り組めていると思います。

——逆に、仕事が競技に活きていると感じることはありますか?

仕事で時間が制限されたからこそ集中力が上がった部分はあるかもしれません。大学のときはほぼ毎日練習があったのですが、「とにかく練習を乗り越えればいいや」というメンタルだったので、家に帰ってからトレーニングしたり、走ったりすることはありませんでした。

でも、社会人になってからは自由に使える時間が少なくなり、限られた時間内でしっかりトレーニングしないとどんどん下手になってしまう。社会人として時間に制約があるからこそ、今の自分に本気で向き合えるようになりましたね。無駄なトレーニングをせず、ちゃんと意味のあるトレーニングができるよう工夫するようにもなりました。

——最後に、今後の展望を教えてください。

まずは今所属している社会人チームで全国大会に行くことが目標ですね。ビーチアルティメットの次の世界大会は4年後になりますが、そこでもう一度日本代表として戦いたいという思いもあります。

会社員としての目標は、もうすぐ後輩も入社してきますが、「後輩ができたから練習時間が減った」という言い訳はしたくないので、これまで以上に自分の時間をマネジメントしていきたいですね。そして今以上にしっかりと能力を身につけ、数年後の転勤や異動の際には、「NZAMでこれだけのスキルを得て、食と農にこれだけ貢献できた」と自信を持って言えるよう頑張りたいと思っています。