2月8日、兵庫県神戸市にて、海運事業者と船員志望者の雇用のマッチングを支援する「めざせ! 海技者セミナー IN KOBE」が開催された。

昨年に引き続き、会場は「神戸国際展示場第3号館」(神戸市中央区)。主催した国土交通省 神戸運輸監理部によると、出展を希望した企業125社をすべて受け入れたという(当日1社不参加)。昨年の出展企業数(91社)を超え、過去最大記録を更新した。

  • 会場となった神戸国際展示場第3号館

    会場となった神戸国際展示場第3号館

大雪の影響で一部参加予定者の来場は叶わなかったものの、計310名が来場。国立波方海上技術短期大学校や国立小樽海上技術短期大学校、商船高等専門学校、兵庫県立香住高校などの学生・生徒をはじめ、一般の求職者らが足を運び、それぞれのブースで企業説明に熱心に耳を傾けていた。今回は、その模様をレポートする。

現役女性船員座談会&受賞記念対談を実施

神戸で珍しく雪が降る中、朝から会場内は熱気に包まれていた。「対面で話すことに意義がある」。神戸運輸監理部 海事振興部長の岡村 知則氏が開会の挨拶でこう強調し、同セミナーは幕を開けた。

全国各地で順次開催されている「海技者セミナー」だが、今回は初めての試みが見られた。それは、会場内に設置された特別エリアでのイベント。「現役女性船員の声を聞く座談会」と「船員安全・労働環境取組特別賞 受賞記念対談」が催された。

「現役女性船員の声を聞く座談会」では、白石海運株式会社 代表取締役専務 白石 紗苗氏、加藤汽船株式会社 船長 吉田 ルリ子氏、独立行政法人海技教育機構 大成丸 二等航海士 小原 光生氏が登壇。

  • 現役女性船員の声を聞く座談会の様子

    現役女性船員の声を聞く座談会の様子

まず船員の仕事の魅力について、白石氏は「日本を支える裏の立役者」と表現。「四方を海に囲まれる輸入大国の日本にとって、船はなくてはならないもの。AIにも取って代わられない将来性ある仕事」と安定性に太鼓判を押した。

  • 白石海運株式会社 代表取締役専務 白石 紗苗氏

    白石海運株式会社 代表取締役専務 白石 紗苗氏

吉田氏は陸上勤務では味わえない景色を堪能できること、小原氏は給与面の安心感と仕事とプライベートとのメリハリを挙げた。また、2人の子どもを育てる小原氏は「やりたい仕事を一生懸命にがんばるからこそ、家族も会社も応援してくれる」と、家庭と両立しながら働くための秘訣を参加者に伝えていた。

  • 独立行政法人海技教育機構 大成丸 二等航海士 小原 光生氏

    独立行政法人海技教育機構 大成丸 二等航海士 小原 光生氏

ジェンダー視点を取り入れた環境整備や取り組みについても意見が交わされた。白石氏は自らの乗船経験から「誰でも助けを求められる雰囲気づくり」を心がけているといい、各社のブースを回る際には「相談できる人が社内にいるかどうか、質問してみてほしい」と呼びかけた。

小原氏は「女性だから困ったということはない」と断言。「3年間の育児休暇や海上職での休暇の分散を提案してもらったり、海上職と陸上職を数年単位で行き来できたり、会社の配慮のおかげで長く働けている」と述べると、吉田氏は「性別に関係なく、法律やルールに応じた働き方をすることが大切」と指摘した。

  • 加藤汽船株式会社 船長 吉田 ルリ子氏

    加藤汽船株式会社 船長 吉田 ルリ子氏

続いて、「船員安全・労働環境取組特別賞 受賞記念対談」では、加藤汽船株式会社 代表取締役会長 加藤 琢二氏、神戸運輸監理部 海事振興部長の岡村 知則氏が登壇。白石海運株式会社 代表取締役専務 白石 紗苗氏がモデレーターを務めた。

  • 船員安全・労働環境取組特別賞 受賞記念対談の様子

    船員安全・労働環境取組特別賞 受賞記念対談の様子

船員安全・労働環境取組大賞は「SSS(トリプルエス)大賞」と呼ばれ、船員の安全確保や労働環境の向上に帰する優れた取り組みを選定・表彰し、その普及啓発および活用促進を図るもの。加藤汽船株式会社の「教える文化による安全意識向上と地域貢献」が令和7年度の「船員安全・労働環境取組特別賞」を受賞したことで、その取り組みが紹介された。

  • 加藤汽船株式会社 代表取締役会長 加藤 琢二氏

    加藤汽船株式会社 代表取締役会長 加藤 琢二氏

同社が運航する高速船「神戸-関空ベイ・シャトル」には年間約30万人が乗船する。不測の事態に備え、救命インストラクターの資格取得を積極的に推進していたところ、7名の乗組員が保有に至ったのだとか。神戸市には「民間救急講習団体(FAST)制度」があり、3名以上の救急インストラクターが在籍する事業所は、消防職員の立ち合い無しで市民救命士講習会を開催できる。この制度の存在を知った乗組員の発案を機に登録したことで、同社は地域の中学校で出前講座を開くようになった。

「教える体験を通じ、乗組員たちは救命に関する知識や技術を改めて学ぶようになって、プレゼン能力も身に付いた。何より自信を深め、万が一のときに一歩前に出る勇気が備わったと思う」と、加藤氏は胸を張った。岡村氏は「現場が自主的に考え、学びが循環して地域の安全意識が底上げされている点が素晴らしい。乗組員はもちろん、顧客や地域の人々の安全を願う加藤会長のマインドが浸透している証ではないか」と評した。

  • 神戸運輸監理部 海事振興部長の岡村 知則氏

    神戸運輸監理部 海事振興部長の岡村 知則氏

そして、参加者から寄せられた質問に回答する「Q&Aコーナー」も。「長く働くために必要なことは?」という質問に加藤氏が「ひとりで抱えないこと」と答えると、岡村氏は「常に冷静に判断するための『胆力』」と付け加えた。さらに、「働くのに一番必要な能力は?」との質問に対して「責任感と使命感」と回答した加藤氏は、「それらを育むためにも仕事や会社を推せるように好きになってほしい」とメッセージを送り、「人手不足が叫ばれている少子化の時代、船長の胆力を持った人にとっては大きなチャンス」と力を込めた。

各社のアピールポイントは?若者の採用に工夫を凝らす

特別エリアでのイベントの合間に各ブースを取材した。

鉄鋼製品を運ぶ内航海運業と海洋土木事業の二本の柱で海上輸送サービスを提供するアキ・マリン株式会社は、一般的な貨物船をはじめ、タグボートを改造した押船・曳船、大型船、セメント船など豊富な船種が特徴。社員自身が乗りたい船を自由に選べるのが魅力だ。「乗ってみて、合わなかったら別の船に移れる」。この安心感が若者には好評なのだそうだ。

  • アキ・マリン株式会社のブースの様子

    アキ・マリン株式会社のブースの様子

ガソリンや飛行機の燃料などを運ぶタンカー船を運航する幸洋汽船株式会社は、福利厚生の充実に力を注いでいる。例えば、Netflixは海上でも陸上でも会社負担で見放題。副業も可能だ。また、働き方は「75日の乗船+35日の休暇」を基本としながらも、社員の希望に合わせて調整するという。ひとりひとりと向き合い、親身に寄り添う社風をアピールしていた。

  • 幸洋汽船株式会社のブースの様子

    幸洋汽船株式会社のブースの様子

上野グループホールディングスのグループ会社である大光船舶株式会社は、ケミカル製品の海上輸送に携わっている。働き方は「3か月乗船+1か月休暇」が基本的なサイクルだが、希望により「2か月乗船」も選択できるそうだ。比較的高い給与に魅力を感じる学生・生徒が多く、継続的な新卒採用で若返りを図った社内は活気に満ちていると話した。

  • 大光船舶株式会社のブースの様子

    大光船舶株式会社のブースの様子

国内流通を目的とした海陸一貫の貨物輸送サービスを展開する井本商運株式会社では、船尾側にある操舵室(ブリッジ)を船首側に配置した球状船首ブリッジのコンテナ船が人気だ。「この船に乗ってみたい」との理由で入社する学生・生徒が少なくないという。女性専用区画を設けたり、インターネット環境を整えたりしていて、平均年齢は30代前半と若さが際立っていた。

  • 井本商運株式会社のブースの様子

    井本商運株式会社のブースの様子

どの業界も人手不足に苦しんでいるが、そんな中、工夫を凝らして若者の採用に取り組んでいる様子がひしひしと伝わってきたセミナーだった。

過去最大の出展企業数を誇り、初めてイベントまで実施した「めざせ! 海技者セミナー IN KOBE」は、今年も大盛況のうちに幕を閉じた。