船員教育機関(海事教育関係)として国内最多の船員を養成する全国5校の商船系高等専門学校(富山高等専門学校、鳥羽商船高等専門学校、広島商船高等専門学校、大島商船高等専門学校、弓削商船高等専門学校)は、「第7回 高専・海事教育フォーラム」を2026年2月6日(金)、東京都港区の機械振興会館にて開催した。
本フォーラムは5商船系高等専門学校が次世代の海洋人材の育成を目指して取り組んでいる「海事・海洋分野の人材育成」と「海事・海洋広報活動」といった2つの事業に関する内容やその成果を広く海運界に紹介することを目的としたもので、平成24年度から継続的に開催(原則2年に1回)。5商船系高専だけでなく、連携機関および海事産業界の企業が一堂に会して実施することによって、次世代の海洋人材育成に関する成果を確実に参加者へ届ける重要な機会となっている。なお、各取り組みは、基本的に各商船系高専の教員が担当しており、発表もすべて教員によって行われた。
「第7回 高専・海事教育フォーラム」の開会にあたって挨拶を行った、富山高等専門学校の國枝佳明校長は、「島国である日本の海域は海運をはじめとした物流が極めて重要であり、それを支える海事人材の育成は欠かすことのできない重要な使命」である一方で、一段と激しいスピートで変化する社会において、時代に対応した教育が求められる現状を指摘。海事・海洋分野の人材育成プロジェクトは、関連団体と連携しながら、「これからの社会に役立つ海事人材の育成」に努めると同時に、今後さらに加速する変化に対して、AI、データサイエンス分野、さらにはGX分野にも力を入れていくという考えを示した。
さらに来賓として、国立高等専門学校機構の谷口功理事長、文部科学省 高等教育局 専門教育課の松本英登氏、国土交通省 海事局 海技課長 西畑知明氏が登壇し、それぞれ挨拶を行った。
「海事・海洋分野の人材育成」各サブプロジェクト報告
1. 「海事・海洋分野の人材育成」プロジェクトの概要
「海事・海洋分野の人材育成」プロジェクトは、5つの海事関連団体、海技教育機構、5商船系高専の連携によって、海事・海洋教育高度化事業として実施されたもの。商船系高専は、STCW条約に基づく第1種船舶職員養成施設としての授業・実習などを行っているが、それにプラスアルファして、教育を高度化することで、より学生に良い学びを与えることを目的として尽力している。
本事業の前身は、平成18年度、現代GP事業として、安全安定した海上輸送の確保を行うために人材を確保することを目的にスタート。商船系高専においてどのような船員を育成していくかの議論が進められる中、平成24年度から本格化。海洋産業の変革に対応した海事・海洋分野の人材育成およびそのための体制整備と教員養成、海洋産業のグローバル環境とDX化に対応した専門人材の育成が進められていくことになる。
平成18年度から推進されてきた全国5つの商船系高専と海事関連団体の強い連携による教育改善事業をベースとしつつも、さらなる高度化を目指し、業界と学校の対話・信頼・連携はもちろんのこと、優先的に取り組むべき課題として、4つのサブブロジェクトが構築され、それに基づいた活動が行われている。
1-1 サブプロジェクト「海事人材としての資質向上に向けた教育システムの開発」
本サブプロジェクトでは、これまでの取り組み内容に関するPDCAに加えて、グローバル力向上のさらなる高度化を目指し、5校で活用できる教育内容の体系構築が行われている。本サブプロジェクトでは、「グローバル力向上に向けた教育システムの検討」、「国際インターンシップをハワイ(KCC)とシンガポール(SMA)において実施」、「データサイエンスの素養を備えた船員を育成する教育プログラムの検討」といった3つのテーマに取り組んでいる。
1-1-1 テーマ:グローバル力向上に向けた教育システムの開発
1-1-2 テーマ:国際インターンシップをハワイ(KCC)とシンガポール(SMA)において実施
グローバル力の向上に向けての取り組みは、「グローバル教育拠点の活用」と「国際インターンシップの実施」の2つ。正規の英語の授業に加えて、海技技術者として求められるグローバル力、英語力、コミュニケーション力を向上させ、グローバルに活躍できる力を育成、定着させることを目的としている。
次世代の海洋人材に求められる実務英語教育としては、IMOのSMCPに準拠した実践的な実務英語教育を中心に体系を構築。さらに、本サブプロジェクトにて整備されたグローバル教育拠点を有効活用し、持続可能な教育体制の構築や自学自習用教材の作成、さらにはポストコロナ時代に対応したオンライン化や5校共通講座の開講などを目指していく。
「英語教育内容の体系構築」については、1年生は「商船英語への船出」を教材として、英語学習への動機付けを行う一方で、上級生は、グローバル教育拠点を利用して、英語教育補助教員によるTOEIC対策や英会話力の育成が行われている。また、機関英語の教材不足に対しても、実務的かつ現場で使用できる機関英語のを取りまとめた教材の作成が進められている。
また、海事産業、海洋事業などのグローバルなフィールドで活躍するために不可欠な英語力・コミュニケーション力・国際性などの資質の涵養、専門英語の活用を目的として「国際インターンシップ」が、これまで、ハワイのKCC(Kauai Community College)やシンガポールのSMA(Singapore Maritime Academy)にて実施された。なお、令和7年度は、ニュージーランドのNMIT(Nelson Marlborough Institute of Technology)での研修も企画されていたが、諸事情により中止となっている。国際インターンシップの成果としては、参加学生アンケートの結果より、プレゼンテーション能力や挑戦力、意欲などの向上が確認されている。
「実務英語教育の体系化」と「国際インターンシップ」を通じて、グローバルに活躍できる海事人材育成の基盤が構築されてきたが、今後はより一層のグローバル教育拠点の活用に加えて、新しい国際交流プログラムの開発を目指して、5校連携の強みを活かしながら、プロジェクトを進めていくとした。
1-1-3 テーマ:データサイエンスの素養を備えた船員を育成する教育プログラムの検討
本取り組みでは、社会全体におけるDXの進行を踏まえ、データサイエンスの素養を備えた船員を育成する教育プログラムを検討。令和6年度よりスタートした、新しい取り組みとなっている。
現在、中学校や高校では、すべての児童・生徒に対して、情報に関する教育、基礎教育が行われる時代となっている。高専や大学においても、「数理・データサイエンス・AI」が「読み・書き・そろばん」に相当する素養と位置づけられており、文理を問わず、工業系であっても商船系であっても、すべての大学・高専生が卒業までにデータ分析による未来予測や意思決定、自動化などについてリテラシーレベルと呼ばれる程度の素養を身につける時代となっている。
このような時代に対応して、商船系高専でもカリキュラムを整備。令和6年度は、各校のカリキュラムについて情報収集や共有を行い、データサイエンスへの興味や理解のレベルが多様な学生たちが集まっている商船学科において、いかにして学生の好奇心・関心を高め、主体的に学ばせるか。そのために商船学科の学生たちが将来仕事においてどのようにデータサイエンスを活用していくことになるのかを明確なイメージとして学生に提示したいという問題意識を共有するに至った。
そこで、令和7年度では、実際の海運業界における事例やニーズの調査として、日本船主協会の労政幹事会社を対象にアンケート調査を実施。アンケートの結果、あるいはコメントを参考に、海運業界におけるデータサイエンスへのニーズに対して、高専の商船学科におけるデータサイエンスを、どれくらいのレベルを目標として、どのような方法で取り組んでいくかについて、引き続き5校で検討を進めていく。また、海運業界におけるデータ活用の事例について提供された情報を参考に、高専の商船学科におけるデータサイエンスに関する演習の例外の充実に取り組み、学生の関心の向上を図っていくとした。
1-2 サブプロジェクト「海事・海洋分野の技術革新に対応した専門教材の開発」
サブプロジェクト「海事・海洋分野の技術革新に対応した専門教材の開発」では、年々進歩し続けている海事・海洋分野の技術革新に対応した高度な専門人材を育成するため、技術を伝承するための教材を開発することを目的としており、学力の定着を促進する新しい教材の継続開発をすること、および本質的かつ効率的な学習を実現する海技資格取得支援システムの構築をすることを目指すものとなっている。
本サブプロジェクトでは、 「学力の定着を促進する新しい教材の継続開発」と「本質的かつ効率的な学習を実現する海技資格取得支援システムの構築」といった2つのテーマに取り組んでいる。
1-2-1 テーマ:学力の定着を促進する新しい教材の継続開発
本プロジェクトでは、海事・海洋分野の人材育成事業の立ち上げ当初から高専の商船学科の学生に適合した新しい教科書を作成。様々な専門科目については「マリタイムカレッジシリーズ」と称して、5校の商船系教員の尽力の下、学生にも分かりやすい教材を作成することに配慮し、作成が進められている。そんな「マリタイムカレッジシリーズ」から新たに刊行された「航海当直ハンドブック」は、船舶職員を目指す学生が学校の練習船で実習を行う際、または新人航海士として乗船する際などに実務の手助けとなるようにしたもの。一連の航海を想定し、様々な場面についての航海に関する必要な知識または心構えなどを含め、写真を多用しながら理解しやすいように記した教科書となっている。
また、新しい教材開発についても検討。教材として求められる内容については、アンケート調査をもとにしており、「実習・海技試験につながる内容」「映像デジタルコンテンツ付きの教材」「技術革新に対応した内容の教材の検討」などについての議論が進められている。さらに、これまで出版してきた教材に適応したデジタル補助教材となる「e-Teaching material」の作成を検討。 例えば、「船に学ぶ基礎力学」という教科書に対する解説書やデジタル問題集ど「航海当直ハンドブック」であれば、練習船での実習映像を収録したデジタル教材の作成などが検討されている。また、これまでに出版された教科書には、すでに刊行から10年以上を経過したものもあることから、改訂についての検討も進められている。
1-2-2 テーマ:本質的かつ効率的な学習を実現する海技資格取得支援システムの構築
商船系高専では、 5年半の修業年限のうち計4年半の席上課程で、三級海技士の筆記試験に相当する知識を習得。また、多くの学生が三級より上級にあたる二級・一級の筆記試験に挑戦している。このような学生は、航海・機関のコース配属される3年生以降に勉強を開始するが、その時点では未習の内容が大半を占める状況。そのため、過去問題集中心の学習に偏り、理解の不足や知識の定着・語彙力の不足といったことが大きな課題となっている。
そういった課題に対して、より高度で詳細な内容を学生が自学できる支援体制が不足していることに加え、カリキュラムや学年にとらわれず、基礎知識や応用力を定着させる仕組みも必要となっている。そこで、5校教員の協働により、二級筆記試験の問題の解説動画を教材製作し、学生に提供。低学年から正しい学習方法で対策に取り組める環境整備を目的とした取り組みとなっており、目先のことだけではなくて、学生の自己学習力や海上志向の強化を中長期的な狙いとして進められている。
本取り組みでは、教員がそれぞれのスタイルで解説動画教材を制作。制作者は、動画データをクラウド上にアップロードする。本プロジェクトではチームを採用しており、チームに登録した学生は各自のパソコンやスマートフォン、タブレットなどで視聴が可能。令和3年に本システムが立ち上げられて以降、システム延べ訪問数は7,433件となっている。
令和3年度に基幹科目の教材を提供開始して以降、対象範囲を徐々に拡大。現在、卒業生に占める二級の筆記試験合格者数の割合は、三年生が上回る状況になってきているが、合格率には多くの要因が絡むため、貢献度、寄与度に関する本システム単独でも効果測定は非常に困難となっている。しかしながら、着実に本システムは浸透しており、自学を支える基盤として一定の機能を発揮できていると認識される。今後は引き続き、動画教材を各樹するだけでなく、教材そのものの質も向上。海事技術者を志す学生の成長を、より一層後押しする取り組みへの発展を目指すとしている。
1-3 サブプロジェクト「学生ニーズに合わせたキャリア教育の実施」
サブプロジェクト「学生ニーズに合わせたキャリア教育の実施」では、時代に即したジェネリックスキルの獲得のための新しい教育方法や柔軟な進路指導を検討する取り組み。ここでいう“ジェネリックスキル”とは、読み書き、計算、パソコンなどを使用するといった基礎的なスキル、対人的なスキルなど、グローバル社会では不可欠なスキルと位置付けられており、学生に対するジェネリックスキルの獲得を目指した授業をベースとして、多様な学生を海運産業へ導く柔軟な進路指導のあり方についての検討が行われている。
本サブプロジェクトでは、「変わりゆく社会情勢の変化に対して効果的なキャリア教育の検討」、「連携協力機関講師による『海事キャリア教育セミナー』の開催」、「『卒業生とのキャリアミーティング』の開催」といった3つのテーマに取り組んでいる。
1-3-1 テーマ:変わりゆく社会情勢の変化に対して効果的なキャリア教育の検討
令和5年度には、本サブプロジェクトにおいて、「海事キャリア教育モデルプラン」が作成された。これまでキャリア教育を体系的に行う方法論が必ずしも十分に議論されてこなかったことや、長期の大型練習船実習の時期が変更されたため、進路指導のタイミングが変更されたことが、作成の背景となっている。学生が在学中に、学年ごとにキャリア教育の内容および習得すべき知識・技能の概要を一覧できるようになっているのが特徴で、このモデルプランに基づいて、令和6年から学校においてキャリア教育が行われるようになった。
そして、令和6年度には、従来から船員を志向する学生のみならず、広く海洋産業での活躍を目指す多様な学生に対して、柔軟な進路指導のあり方のひとつとして、5商船系高専の学生が一堂に会する合同企業説明会の開催を検討。それに向けて、各学校で実施されている企業説明会の状況の取りまとめが行われた。5商船系高専は地理的に離れていることによる開催場所の問題、就職活動に備える4年生が長期乗船実習も控えているという開催時期の問題、各校生徒が集まると収容できる会場確保が難しくなるという開催会場の問題など、合同企業説明会の開催にあたってはいくつかの懸念点があり、web形式での開催や長期実習前後での開催などの対策も考えられたが、参加企業・参加学生の双方が多くなると、十分な説明を受けたり、しっかりとアプローチをかけることが困難になるといった問題もあるため、現段階では、さらなる検討が必要との結論に至っている。
令和7年度においては、2年前に制作された「海事キャリア教育モデルプラン」の検証を実施。1年間行われたモデルプランの進捗状況を確認し、課題点などの整理が行われた。全体の実施状況としては、全体で実施率が9割を超えるなど、おおむね実施をされているという状況だったが、就職活動に関連した、特に5年生の知識・技能のテーマにおいては、就職活動の兼ね合いから、プラン通りの時期には実施できていないことが確認された。また、モデルプランで示された項目には複数の内容があるものも多いが、その実施状況を確認すると、約半数で一部のみの実施に留まっているなど、さらなる内容の精査が必要であることがわかった。
また、実施した時間については、全体の4分の3がホームルームなど正課の時間内に行われているが、25%が課外時間で実施。外部講師による出前授業や複数学年が参加する講演会など、課外時間に実施せざるを得ない事情もあるが、できるだけ正課時間(授業)に組み込む工夫が今後が求められる。そして、モデルプランの主担当者が、クラス担任であったり、学科長であったりするなど、多くの関係者が関与していることを確認。今後はさらに多くの教員を巻き込んで実施していく方策が重要となり、モデルプランのブラッシュアップやさらなる利活用に向けて、今後も協議を続けていくという意向を示した。
この3年間を通して取り組まれた内容のひとつに「アカデミックディベート」が挙げられる。論理的思考力を養うことを目的に行われるディベートだが、テーマに対する正解を導くのではなく、思考と表現を磨くことが第一義となっている。具体的には、クラスを3つに分けて、2つのチームが、あるテーマについての肯定意見と否定意見を述べ合う形でディベートを実施。残りの1チームが判定を行うが、判定はテーマに対する是非ではなく、それぞれの意見の説得力を判断するものとなっており、理論的な思考力や表現力を向上させる機会として、今後も継続していきたいとの考えが示された。
1-3-2 テーマ:連携協力機関講師による「海事キャリア教育セミナー」の開催
1-3-3 テーマ:「卒業生とのキャリアミーティング」の開催
「海事キャリア教育セミナー」および「卒業生とのキャリアミーティング」は、有識者のことばを活かし、学生のキャリアデザインを支援することを目的としたもので、「海事キャリア教育セミナー」は、学生が将来のキャリアについて考える機会を与えるため、現役の海事従事者が、その視点から、各連携機関の特色を踏まえ、学生に語りかけるセミナー、「卒業生とのキャリアミーティング」は、在校生が将来について考える機会を与えるため、5高専の商船学科卒業生が、その体験者の視点から後輩たちに指南するミーティングとなっている。
基本方針としては、「海事キャリア教育セミナー」は、連携機関の協力のもと、各高専にて開催。基本テーマは「海技士の魅力と学生時代に行っておいて欲しい事」で、対象は 1、2、3年生全員、もしくは航海・機関の決断を行う2年生を含む複数学年となっている。なお、令和7年度における「海事キャリア教育セミナー」では、日本船主協会(富山)、全日本船舶職員協会(鳥羽)、国際船員労務協会(広島)、海技教育機構(大島)、全日本海員組合(弓削)がそれぞれ協力を行っている(カッコ内は開催高専)。各講演後は、各校とも活発な質疑が行われるなど非常に好評となっており、アンケートの結果からも、学生たちが非常に多くのことを学び、刺激を受けたことがわかる。
一方、「卒業生とのキャリアミーティング」は、各高専にて適宜、企画・実施。「卒業生」については、商船高専のOBやOGとなっており、会社説明会やOBOG学校訪問の機会でも可能となっている。5商船高専合計で令和5年度は22回、令和6年度は31回、令和7年度は30回と非常に多くのミーティングが、様々な分野の講師により、様々な形態で実施。様々な分野で活躍する卒業生は、商船学科の学生にとっての成功例となり、講演での体験談は学生のキャリアデザインに身近な努力目標を与える。また同時に、学生の心配や不安に対しても、しっかりと寄り添える言葉をかけられるため、学生に元気を与えることができる点が大きな成果となっている。
1-4 サブプロジェクト「海事関連産業と海事教育界との連携強化の実施」
本サブプロジェクトでは、海事関連作業と海事教育界との連携強化に向けた取り組み報告、「『船舶運航実務乗船研修』を実施」、「国内外の海事教育海事教育機関との連携検討」、「船舶管理港湾物流業務現地調査を実施」といった3つのテーマでの取り組みが行われており、特に「『船舶運航実務乗船研修』を実施」と「船舶管理港湾物流業務現地調査を実施」は、産業界の支援のもと、教員も学び、経験するプロジェクトとなっている。
1-4-1 テーマ:「船舶運航実務乗船研修」を実施
「船舶運航実務乗船研修」では、実際に運航されている商船に商船系高専の教員が乗船し、最新の状況を経験するという研修。具体的には、日本船主協会の調整により、関係船社が運航する船舶に乗船する。本事業は平成25年度から実施されており、これまで延べ44名の教員が研修に参加。近年では、商船系ではない大学などから赴任している教員も多く、そのような教員にとっては特別な機会となっている。また、研修を実施した年は、成果を報告会にて共有しているのも特徴となっている。
令和5年度は、5商船系高専から1名ずつの教員が内航船社の船に乗船。期間はだいたい3日から一週間程度、長くて十日程度となっており、令和6年度も同様に、各校から1名ずつの教員が研修に参加している。乗船した教員からは、「今まで知らなかった船に乗れて、学生に伝える言葉に力が出た」などの所感が語られているが、バックグラウンドが商船系ではない教員はもちろん、商船に乗っていた教員にとっても、10年ぐらい経つと状況は大きく変わってくるため、新しく変化した部分のキャッチアップとしても大きな意味を持っている。また、本フォーラムでは、実際に乗船した教員による実例報告も行われた。
1-4-2 テーマ:国内外の海事教育機関との連携検討
本取り組みは過去、令和4年度と令和5年度の2年間において実施されたもの。日本の商船系高専が推進してきた様々な人材育成事業の成果を国内のみならず国内にも発信していくこと、さらには、日本の商船系高専と国外の海事教育機関との間で関係性を構築していくことを目的として実施されている。この2年間では、国際会議「ISATE 2023」において事業の成果が発表されたほか、5校の教員が個々に持っている国外とのネットワークの調査・整理が行われた。
国際工学教育研究集会「ISATE (International Symposium on Advances in Technology Education) 2023」は、日本の高等専門学校とシンガポールのポリテクニック5校および香港職業訓練協議会の共催による国際会議となっており、例年は世界各地で開催されているが、2023年度は日本の松江市にて開催され、「5校の連携事業全体」「国際交流プログラム」「海事キャリア教育セミナー」の3件についての報告が行われた。
「5校の連携事業全体」の紹介では、どのように5校が連携してきたのか、それが国内においてどのような評価を得てきたのかを報告。5校のみならず、様々な連携機関と密にたくさんの連携を行ってきていることが全体的に紹介されている。「国際交流プログラム」にフォーカスを当てた紹介では、特にコロナ禍において学生の渡航が困難となった地域において、いかに交流を継続したか、その工夫などを報告。「海事キャリア教育セミナー」についての紹介は、産学連携によるキャリア教育が商船の分野においていかに行われているかについて報告するもので、海外のみならず、日本国内の工業系高専の関係者からもたくさんの質問や興味・関心が寄せられたという。
1-4-3 テーマ:「船舶管理、港湾・物流業務現地調査」を実施
本取り組みは、「海運業界における技術革新の加速と多様化」「海事技術者のキャリアの流動化、働き方の価値観の変化」「商船系高専の教員のバックグラウンドの多様化」が、活動の背景と鳴っており、教員自らがあらためて最新動向について学ぶことが必須。また、業界関係者との意見交換会を実施することで、教員自身が研修の方針ならびに資質の向上を図ることが重要となる。そして、商船系高専の専門教育・キャリア教育をはじめとする、様々な分野において研修成果を活用し、5校全体としての人材育成力の向上に寄与するということが非常に重要となってくる。
直近3年間では、令和5年度と令和7年度の2回実施され、商船三井やウェザーニュース、川崎汽船、日本郵船による講演ならびに施設見学が行われたほか、日本船主協会、日本内航海運組合総連合会、複数の内航船社を加えた意見交換会などが行われた。最新の海事関連技術およびその動向に関する講演では、教員自身が海運DX・GXの技術動向を把握し、商船教育への実装・展開に向けた基板の強化が図られた。また意見交換会では、「若手船員のストレス体制、指導環境の変化」「海事技術者のキャリアパス多様化、現場負担軽減の実効性向上」「海事人材確保、海事産業の広報戦略の展開」などをテーマに、活発な意見交換が行われた。
海運DX・GXを中心とした講義を実務者より聴講し、各教員が最新動向を学ぶことで、研修で得た知見がそれぞれの持ち場で、学生に伝えられたほか、意見交換会で把握した業界の動向を、学生のキャリア教育に活用し、シーマンシップ・人間力を身に付けた海事技術者の輩出に、引き続き注力していくと同時に、先進技術を自ら学び、理解し、活用できる人材へと育っていくためには、従来の基礎技術の徹底が不可欠であり、基礎の徹底が先進技術への適応力の礎となり、長期にわたり第一線で活躍できる海事人材の育成に直結するとした。
「海事・海洋広報活動」各サブプロジェクト報告
2 「海事・海洋広報活動」プロジェクトの概要
5商船系高専においては、その創設時からの使命である船員養成と、最近の技術革新など新しい海洋産業への対応に応えるため、海事・海洋の魅力を伝える広報事業に人材育成事業に取り組んでいる。海洋基本計画にも、子どもや若者に対する海洋に関する教育の推進とあるように、児童・生徒を中心としながらも、保護者や教員、一般の人々など幅広い世代に海洋に触れる機会を設け、将来、日本の海事・海洋産業を支える人材の発掘と確保を目指した広報活動が展開されている。
すでに商船系高専は全国的な少子化の影響を強く受けており、近年では商船学科の入学生の半数以上は県外出身の生徒が多く占める学校も見られるため、地元地域のみならず、より広い範囲から学生を確保していく必要が高まっている。さらに、海事産業を取り巻く環境が大きく変わり、船員が不足している現状を考えると、商船系高専の卒業生200名の人材供給の役割は、これまで以上に重くなっていると考えられる。
そのため、商船系高専の広報活動は少子化が加速するこれからの時代においても、学校はもちろん、海事産業全体の発展の観点からも、ますます重要性を増していくと言える。そこで、広報活動についても、4つのサブプロジェクトが展開されている。
2-1 サブプロジェクト「特設サイトによる広報活動を展開し、海事・海洋体験活動を全国へ発信」
5つの商船系高専が連携して特設サイトによる広報活動を展開し、海事・海洋体験活動、練習線の体験乗船会、実験教室などの取り組みを全国へ発信し、広く周知させることを大きな目的とし、対面による体験イベントに参加できない全国の小中学生、保護者および教員などの関係者に、5商船系高専の魅力を発信する活動を展開している。
各商船系高専はそれぞれ自校のホームページを解説しており、内容も充実。多くの小中学生およびその保護者に活用されている。しかし、各校の特徴は案内できるが、他校との「比較」という点では情報が不足しており、各校の違いをわかりやすく説明してほしいという要望にはなかなか答えにくいのが現状となっている。また、多くの小中学生および保護者がスマートフォンでアクセスしている印象で、密度のが高く、階層の深いサイトは非常に扱いにくく、軽快で構造が簡潔なサイトが望まれている。こういったことを踏まえつつ、各校の特徴を横串的に貫けるような特設サイトを開設するといった着想に至ったという。
今後は、情報の更新を強化し、イベント告知にも対応。イベントに参加できない人向けの疑似体験コンテンツや卒業生の進路といった掲載情報の充実も必須で、練習船の比較サイトなど、各校の横断的情報の提供も検討する。また、各校の学生の課外活動や広報活動などの取り組み動画の掲載など、オフィシャルの学校ホームページでは取り扱っていない情報を補完する機能を持たせることも必要とした。
2-2 サブプロジェクト「小中学生向けの社会科の授業に利用できる教材作成」
本サブプロジェクトは、小中学生を対象とした社会科の海事・海洋に関する教材を作成し、出前授業を通して、次世代の海事・海洋分野で活躍する小中学生を育成することを目的としたもの。今回は「小学生の部」と「中学生の部」に分けて報告された。
2-2-1 小学生の部
この取り組みは、小学生を中心に、幼稚園、保育園児をも対象に加えて、社会科の海事・海洋に関する教材を作成し、出前授業を通して次世代の海事・海洋介護分野で活躍する人材を育成することを目的として実施されている。
ある学習塾のアンケートによると、子ども全体で8割以上が「将来なりたい職業や将来の夢がある」と回答。その割合は、未就学児が66.0%、小学生72.8%、中学生52.4%、高校生75.6%で、中学生になるといったん減り、高校生になると上がる傾向が見られた。「将来なりたい職業を思いついたきっかけ」では、動画や本、インターネットの情報の影響(44.6%)の次に「家族の影響」「褒められた」「1位になった」などのリアルに体験した物事(35.5%)となっており、年齢が上がるにつれて、この割合も増加する結果となっている。以上のことから、早い段階から船員の仕事について身近なものに感じてもらい、憧れを持ってもらうことで、数ある職業の中から将来の職業選択の土俵に上がれることを意識した取り組みとなる。
本プロジェクトでは、次世代の海洋人材の育成として、小学生や保育園、幼稚園児に海事・海洋に興味関心を持ってもらう取り組みとして、社会科の授業に利用できる教材づくりと出前授業を実施。 海運や船員の仕事を中心に、環境問題や工作なども取り入れながら、各校工夫を凝らした講義が行われた。小学校を中心に、幼稚園や保育園、科学館や地域のイベントにブースを設けるなど、様々な場所で実施。 出前授業の実施後は可能な限り参加者へのアンケート調査を実施し、海事・海洋分野への関心度についての評価が行われている。
令和6年度は28件のべ811名、令和7年度は36件のべ1,267名が参加。作成された教材は、社会を中心に、国語や工作といった内容についても取り上げられている。さらに、各校で行われた取り組みの様子を紹介。アンケート結果を見ると、「出前授業は楽しかったか」「海や船に興味を持ったか」については、おおむね良好が回答が得られたが、「出前授業の内容はわかりやすかったか」については、「わからなかった」という回答が約3割となっており、高専教員が小学校に出向いて講義するのに対して、さらなる対応策が必要なことが明らかとなった。そのほか、自由記述では、「将来、船乗りになりたいと思うようになりました」との回答があり、本事業の意義が伝わっていることを高く評価する。
令和7年度は令和6年度よりもイベント数、参加人数ともに増加。これは、コロナによる規制が完全に明け、自由にイベントが実施できるようになったことが理由と考えられる。本プロジェクトが始動した頃は、受け入れ側の理解を得るために大変な苦労があり、各校が講義の内容を対象年齢に合わせたり、地域性に合わせたりするなどの工夫を凝らしたことで、最近では小学校側から依頼されるなど定着化が進んでおり、今後は企業や団体と共同で実施することによって、さらなる参加人数の拡大を目指す。海洋人材の育成には幼少期からのイメージ作りと保護者の理解が不可欠であり、引き続き小学生や幼稚園および保育園児、そしてその保護者を対象とした海事・海洋に関する啓蒙活動を継続していくとした。
2-2-2 中学生の部
中学生の部も、小学生の部と同様で、小中学生を対象とした社会科の海事・海洋に関する教材を作成し、出前授業を通して、次世代の海事・海洋分野で活躍する小中学生を育成することを目的としている。取り組み内容についても、令和6年度から7年度にかけての2年間、作成した教材および新たに追加した教材を活用して、各校で出前授業や実技型イベントを含む体験型授業を実施。体験授業後には、可能な範囲でアンケート調査を行い。海事・海洋分野への関心度や理解度に関する評価が行われている。
学生対象の体験授業は、中学校で学習する社会科の学習指導要領を意識し、その延長線にある海事啓蒙・海洋教育を目標として、プレゼンテーションや資料を用いて授業が行われた。学校によっては、イベントなどと同時に実施したり、海事施設の見学をセットに実施したりするなど、相乗効果を狙った取り組みも行われた。令和6年度は10件、令和7年度は現時点で8件を実施。おそらく今年度中には昨年実績と同等になる予定となっている。また、近年では出前型に加えて、集合型のイベントを積極的に開催し、中学生やその保護者に対して授業などが行われている。
各校での趣向を凝らした体験授業後に行われたアンケートの結果を見ると、イベントの形態によってアンケートの形式は異なるが、「楽しかった」「興味を持った」などの肯定的な意見が多く認められ、生徒がほぼ満足するという結果が得られている。その一方で、広島商船高等専門学校でのアンケート結果を見ると、約半数が同商船高専を知らないという結果になったが、9割以上の参加者が、イベントに再度参加したいという意向を示している。また、中学生は小学生とは異なり、進路について考える時期となっているが、「就職する際の選択理由」については、「やりがい」と「給料」が約6割を占めており、イベントを通じて、海上職の「やりがい」や「待遇」を伝えることは、生徒に対して有効なアピールになると考えられる。
出前授業は、地域の学校とのつながりを深めるうえで非常に貴重かつ重要な取り組みとなっているが、開催件数が小学生と比べて半減している事実からも、中学校のカリキュラムや学校行事の都合により、授業時間の確保が難しく、実施には調整や負担が伴うのが現状。今後は、休日を活用した集合型イベントと出前授業を両立させ、船や海事分野に触れる機会をさらに増やしていくとした。そして次年度は、「理解を深める教材の充実」、「満足度の高い体験活動の拡充」、「進路情報の適切な提供」などを組み合わせることで、学習効果と興味喚起の双方をより高めた事業を構築していくとした。
2-3 サブプロジェクト「小中学生向けの練習船体験講座の実施」
サブプロジェクト「小中学生向けの練習船体験講座の実施」では、海事思想の普及を目指して、校内練習船を活用した体験講座・見学会を行うことで、まずは商船・海・船を知ってもらうことが大きな目的。対象者は、小中学生および保護者となっているが、小中学生への情報発信元として一般の人々や教員も対象として実施されている。
体験講座は、練習船を使って海・船の世界を知るきっかけづくりと位置づけられており、学校単独で行うだけでなく、近隣のイベントに参加したり、近隣公共機関や観光施設、各種団体とのコラボレーションを通じて、参加者を増やす取り組みが行われている。なお、現在は各校の校内練習船が代船建造の時期と重なっていることもあり、最新の練習船を使っての広報活動という側面も担っている。
各校の練習線は、令和5年度の大島丸(大島商船)を皮切りに、順次建造が進められており、令和6年には弓削丸(弓削商船)、令和7年には鳥羽丸(鳥羽商船)がそれぞれ竣工。令和8年3月には若潮丸(富山高専)が竣工予定で、広島丸(広島商船)も今年度より建造が開始される予定となっている。
令和6年度は実施件数21件で参加人数2,077名、令和7年度は実施件数30件で、参加人数1,510名を数えており、関係団体などステークスホルダーや近隣の市町村、小中学校と連携し、各校の特徴を活かした取り組みが行われている。令和7年度の参加人数が減っているのは、連携したイベントの規模に影響されたもので、大型イベントの開催時期と練習船の都合が合わなかったことが理由となっている。その一方で、令和7年度は、体験乗船や船内見学にあわせて、体験画の講座の開催が増えているのが特徴となっている。
事後アンケートの結果でも、参加者からの評価は概ね好評となっており、「海事・海洋に関わる仕事を知ることができた」「船の仕事に興味を持った」「子どもが海や船に関心を持つきっかけになった」など、海事思想の普及にも大きく貢献していることがわかった。また、練習船体験講座では、学生がボランティアとして参加しているが、ボランティア学生が参加者に対して説明を行うことが「コミュニケーション能力」の向上に繋がっており、学生にとっても非常に貴重な機会となったことが、主催者側にとっての想定外の成果のひとつとして挙げられた。
各校において特徴を活かした体験講座が繰り広げられているが、今後はその実施方法などのノウハウを確立し、さらなるブラッシュアップを行うことが必須。今後も継続的に事業を展開していく中で、参加者がより具体的に「船員の仕事」を理解できるように、乗船体験に加えて、職業イメージに直結する内容を取り入れることも重要であり、航海士・機関士の業務紹介や船舶の安全運行に関する話題などの講座開設なども検討していきたいとした。また、高専の人員・予算面の制約が一層厳しくなる中での実施回数の確保を今後の課題として示し、代船建造が進み、最新の練習船が就航していることをもっと広く告知していくと同時に、開催時期が気象・海象の良い夏・秋に集中している現状から、実習などが過密でない冬に開催できるイベントの企画も急務となっている。
2-4 サブプロジェクト「商船系以外の工業系と連携した総合体験型学習イベントの実施」
令和5年から感染症の制限が解消されたことにより、クラス・学年単位で大人数が参加するイベント開催が可能となった。そこで、校内練習船を利用したイベントを想定して、工業系学科と連携してイベント数を増やし、スペースが制限される船内でも対応可能な総合体験型学習イベントが実施された。イベントは学校全体の取り組みと位置づけられ、海事・海洋の啓蒙イベントとし実施。令和6年度のイベント数は12件、令和7年度は年度末までに計13件のイベント実施が予定されており、2年間でのべ2,000名以上の参加者を集めている。
平成6年5月に福山港のフェリーターミナルで開催された大人数参加型のイベントでは、広島県福山市の中学2年生192名と教員12名が参加。イベント実施校である弓削商船高等専門学校からは、商船学科だけでなく、電子機械工学科、情報工学科、そして総合教育科も参加し、体験講座などを担当した。船内は狭く、通路や出入り口、動線が制限される関係上、船内移動の動線も考慮したプログラムが必須。本イベントでは、5クラスの生徒のうち、午前中に3クラスが体験乗船を行い、残りの2クラスが中学校で体験型イベントに参加した。生徒の学校と船の間の移動を含め、生徒が集中しないように、かつタイムスケジュールがあわせてイベントを実施するのは非常に困難だったと振り返る。
しかし、事後アンケートの結果を見ると、生徒からの評判は高く、海事・海洋への啓蒙効果も高いイベントとなった。また、参加した教員の評価も高く、多くの中学校から総合体験型イベントの依頼が来るきっかけとなった。一方、地元の学校に関わるイベントということで、新聞やテレビにて報道が行われたことは、一般家庭に対しても海事・海洋に関心を持つきっかけになることが期待される。ただし、クラス、学年単位などの大人数が参加するイベントになると、学事予定に組み込まれないと実施することができないため、継続的にイベントを行うためには、関係機関とのコネクション作りと実施校の実施体制の維持が特に重要になると考えられる。
未来に向けて(連携機関からの提言)
5商船系高専による次世代の海洋人材の育成に関する事業についての発表が行われたあとは、本事業に対して支援・協力を行う連携機関から、「未来に向けて」と題した提言が行われた。参加連携機関および参加者として、日本船主協会常務理事の越水豊氏、全日本船舶職員協会 専務理事の徳嶋明宏氏、全日本海運組合 国際局長(中央執行委員)の池田義之氏、国際船員労務協会 常務理事 事務局長の池田良一氏、海技教育機構 理事(航海訓練)の渡邉兼人氏、日本内航海運組合総連合会 理事長の河村俊信氏、日本海洋少年団連盟 理事長の平田友一氏、前参議院議員 全日本船舶職員協会 顧問の 赤池誠章氏の8名が登壇し、熱いメッセージを贈った。
「高専・海事教育フォーラム」には今回が初参加となった、日本内航海運組合総連合会内航総連の河村理事長は、5商船系高専が海洋人材の育成に対して真摯に取り組む姿勢に経緯を表しつつも、優秀な外航船員の養成を本来の目的として設立されたという経緯から、「内航との関係を強化するのはなかなか難しい問題」と指摘。しかし、高専卒業生の多くが内航へ就職する現在では、「こうして胸襟を開き、共に連携する体制を作っていただいたことに改めて感謝を申し上げたい」と、感謝の意を示し、今後の連携に期待を寄せた。
人材育成の面では、「これは全産業的な傾向でありますけれども」と前置きしつつ、新卒採用者の離職率が高くなっている現状を示唆。内航業界として、職場環境の改善などの取り組みを進めるが、学校教育の場においても、船舶ならではの特殊な環境を見据えて、「仲間と強調して困難を乗り越えるシーマンシップや逞しさを育んでほしい」との思いを明かす。また、広報活動においても、連携した取り組みを希望。内航業界が持つ地域のネットワークの活用を呼びかけた。
未来に向けて(高専からの提案)
「海事・海洋分野の人材育成」
連携機関からの提言に対して、高専側からも、人材育成、広報活動の両面に関する考えがあらためて示された。
商船系高専を取り巻く環境は非常に厳しく、教員定員減や予算の制約などの問題に直面している。しかしながら、縮小均衡は是とせず、「海洋国家として日本人船員の必要性」が広く浸透している現状、さらに「商船系高専5校に1隻ずつの新練習船」が配置されるという動きからも、社会からの期待に応える必要性を強く訴え、「縮小均衡にせず、変革・改善・高度化に向けて、我々高専教職員は果敢にチャレンジしたい」との意欲を明かした。
そして、「時代の変化」に対応した船員養成/教育の必要性を唱え、そのためにも、安全性やシーマンシップ、STCW条約に則ったカリキュラムなど、“変えないところは変えずに”基本的な学習内容の質保証に努め、背景も様々な多様な学生に対するキャリア教育、新たな教員研修、そしてDX・GXといった新技術への対応など、“変えるべきところは変化に柔軟に対応”することが重要であり、これは学習の動機付けに繋がるとともに、本事業で取り組むべき内容であるとした。
そして、これまでに積み上げてきた人材育成に関する事業を着実に継続実施することの重要性を示し、グローバル化への対応や専門教材、オンデマンド教材の作成などは着実に実施していくとともに、キャリア教育など改善の余地のあるものについては、プロジェクト内で引き続き検討していくとした。一方、DX、GXに対応する新規事業については、令和7年度に基盤の整備を実施。令和8年度からは、データサイエンスに強い船員の養成を目指して、新規事業の展開が予定されている。まずは外部から講師を招聘するところから始め、学生や教員に向けた特別講義の実施、国内外の海運業界のDX・GXに関する動向調査、さらには教育ニーズの発掘、教材開発など新しい教育プログラムの検討。船員としての資質を高める工夫を進めていくと同時に、教員研修もDX、GXに絡めながら実施していくとした。
また、海事関連団体などとの連携も重視し、年2回の運営委員会や業界との意見交換を定期的に実施。業界の人々により学校見学の企画を検討するなど、幅広く、実質的な連携を深めていくことで、より良い船員養成、海洋人材育成を常に考え、教育の高度化を行い、社会からの要請に応えていくことを誓った。
「海事・海洋広報活動」
5商船系高専では、児童・生徒を中心としながらも、保護者や教員など幅広い世代に海洋に触れる機会を設け、将来日本の海洋産業を支える人材の裾野の拡大、人材確保を目指した広報活動も展開している。
広報活動で実施されているイベントの件数について、直近5年間の推移を見ると、コロナの影響があった令和3年から増加傾向で、令和7年度には90件におよぶイベント件数となっている。参加人数も増加傾向にあり、令和3年度の約2,000人に対して、令和6年度は6,000人、令和7年度は5,000人と、コロナの影響を脱し大きく拡大していることがわかるが、連携機関と協力しながら、さらなる拡大への工夫が必要との認識を示した。
将来的に海事産業に就業する人材を3つ段階に分けると、小中学生は「理解醸成段階」、中学生は「進路段階」、高専生は「就職段階」となる。本プロジェクトにおける広報活動は、「理解醸成段階」および「進路段階」を対象として行われてきたが、これまで広報活動に取り組んできた手応えとしては、初めて海事産業を知るという人が圧倒的に多く、海事産業に対する理解醸成に資する取り組みはさらなる充実が必要であり、全方位的に広げていくことが重要となる。また、進路段階は理解醸成段階よりも少なくなるため、この段階を増やす取り組みはもちろん、理解醸成段階を拡大することで裾野を広げる努力も重要。出前授業や体験乗船といったこれまでの活動に加えて、遠方でも参加できるようにインターネットを使った取り組みが重要だ。進路選択段階では、リピーターを増やす必要性から、海事関連団体との連携イベントや学生参加型プログラムの必要性も言及した。
海事関連団体との広報連携による取り組みは、日本船主協会との「5校合同進学ガイダンス」、全日本海運組合と国際船員労務協会との「J-CREWプロジェクト」、それから日本海洋少年団連盟や日本内航海運組合総連合会との「体験乗船」など、すでに幅広く展開されているが、ここにリピーターを増やすために、一度参加した人にあらためて情報を伝えるためえの工夫が必要となってくる。また、学生参加型プログラムの取り組みもすでに進められているが、学生からの情報発信をさらに増やしていく必要性についても示唆。イベントに学生が参加することで、参加する小中学生や保護者の安心感が高まるのと同時に、学生側も自己成長やコミュニケーション能力の向上につながるとの見解も示された。
高専からの提案をもって、「第7回 高専・海事教育フォーラム」にプログラムは終了。最後に、弓削商船高等専門学校の内田誠校長が登壇し、海事クラスターの協力と理解を願うとともに、連携機関からの提言を胸に、5商船系高専の教職全員が邁進していくことをあらためて約束した。





















