背中や腰に少し痛みがあったものの、いつの間にか治っていた——。そんな経験はありませんか。実はその痛み、知らないうちに起きた骨折だった可能性があります。

高齢者に多い「いつの間にか骨折」は、強い衝撃がなくても起こり、気づかれないまま進行することが少なくありません。放置すると姿勢の変化や転倒、寝たきりにつながることもあります。どんな人に起こりやすく、見逃しやすいサインは何か。予防や治療のポイントとあわせて解説します。

痛みがほとんどないのに起こる「いつの間にか骨折」とは

  • ※画像はイメージです

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骨折と聞くと、起きた瞬間に激しい痛みが走るイメージを持つ人が多いかもしれません。しかし実際には、痛みがほとんどない、あるいは軽いまま起こる骨折もあります。

こうした気づかれにくい骨折の代表が、背骨に起こる「いつの間にか骨折」です。

軽い衝撃や転倒で起こる脊椎(背骨)の圧迫骨折

いつの間にか骨折として起こりやすいのは、脊椎の骨折です。脊椎とは、いわゆる背骨のこと。背骨はブロック状の椎骨という骨が連続して重なり合って構成されており、その椎骨が押しつぶされる状態を脊椎圧迫骨折といいます。重い荷物を持ち上げたときや、転んで尻もちをついたときなどが、圧迫骨折の起こりやすい場面です。

骨粗しょう症で骨がもろくなっていると起きやすい

健康な人では、多少重い荷物を持ったり転倒したりしても、圧迫骨折が起こることは一般的にはまれです。しかし、骨粗しょう症で骨がもろくなっていると、わずかな衝撃でも圧迫骨折が起こることがあります。

痛みが軽いため、気づかないまま進行するケースも

圧迫骨折が起きた瞬間に、腰や背中に軽い痛みを感じることはありますが、痛みの程度は強くない場合が多く、誰にでも起こりがちな腰痛や背部痛と区別がつきにくいことがあります。骨折に気づかないまま放置すると、後にさまざまな影響が現れてくることがあります。

「自分は大丈夫?」いつの間にか骨折が起こりやすい人

いつの間にか骨折は、誰にでも起こるわけではありません。背景には骨の弱さや、年齢・生活習慣といった要因が関係しています。

50代以降の女性に多く、閉経後のホルモン変化が関与

いつの間にか骨折を起こす人の多くは、骨粗しょう症を背景にしています。骨粗しょう症は女性、とくに閉経後の女性に多い病気です。女性はもともと男性より骨量が少なく、閉経後には骨の健康を保つ女性ホルモンの作用が低下するため、骨が弱くなりやすくなります。

やせ型・運動不足・カルシウムやビタミンD不足もリスク

やせ型の人は骨量が少ない傾向があり、骨粗しょう症のリスクが高まります。また、運動不足やカルシウム、ビタミンDの不足は骨の新陳代謝に悪影響を及ぼし、骨をもろくする要因となります。

男性でも加齢に伴い発症しやすくなる

骨量や骨密度は加齢とともに低下します。この変化は女性だけでなく男性にも起こるため、男性でも70歳前後から骨粗しょう症や、いつの間にか骨折を起こす人が増えてきます。

見過ごしがちな「いつの間にか骨折」のサイン

いつの間にか骨折は、はっきりとした症状が出にくいことが特徴です。そのため、体の変化を「年のせい」と見過ごしてしまうことも少なくありません。

背中や腰に鈍い痛みがあるが、時間とともに和らぐ

脊椎圧迫骨折が起こると、背中や腰に鈍い痛みが出ることがありますが、多くの場合、時間の経過とともに痛みは和らいでいきます。目安として1カ月前後で軽くなることが多いものの、個人差があります。

背中が丸くなった、身長が低くなったと感じる

圧迫骨折が起きると椎骨がつぶれ、背骨全体が短くなるため、身長が低くなります。洗濯物を干すときに手が届きにくくなって気づく人もいます。また、背中が丸くなり、首が前に出る姿勢になりやすくなります。

寝返りや起き上がる時に痛みが出る

安静にしていると痛みは軽いものの、寝返りや起き上がる動作の際に痛みが出やすいことがあります。座ると楽になるものの、長時間同じ姿勢でいると痛みが出ることもあります。

放置が危険な理由――いつの間にか骨折のその後

痛みが軽くなったからといって、骨折が治ったとは限りません。実は、気づかないままにしておくことで、別の問題を引き起こす可能性があります。

背骨が連鎖的に折れて円背が進行

いつの間にか骨折による痛みは、時間とともに軽くなることが多いものの、放置してよいわけではありません。いったん圧迫骨折が起こると、その前後の椎骨にも負担がかかり、二度目、三度目の骨折が連鎖的に起こりやすくなります。これにより背中が丸くなる円背が進行していきます。

肺や消化管への負担が増す

円背が進行すると内臓が圧迫され、呼吸や消化管の働きに悪影響が及びます。肺活量の低下や、胃食道逆流症、食欲低下などが起こりやすくなります。

転倒リスクの上昇と寝たきりの可能性

姿勢の変化により転倒しやすくなり、転倒をきっかけに足の付け根の骨折を起こすこともあります。長期間動かない状態が続くと筋力が低下し、寝たきりになるリスクが高まります。

気づいたらどうする? 診断と治療、再発予防のポイント

いつの間にか骨折が疑われる場合、早めに医療機関で相談することが大切です。診断や治療だけでなく、再発を防ぐための対策も行われます。

検査で正確に診断し、必要に応じて治療を検討

いつの間にか骨折が疑われる場合は、レントゲン検査や必要に応じてMRI検査を行い、状態を正確に把握します。治療は痛み止めや装具療法が基本ですが、症状によっては、つぶれた椎骨に医療用のセメントを注入し、痛みの軽減や変形の進行を抑える治療が検討されることもあります。

骨を強くする治療で再発を防ぐ

圧迫骨折が起きた場合、骨粗しょう症が背景にある可能性が高いため、骨吸収抑制薬や骨形成促進薬などを用いた治療を継続することが重要です。これにより、再発や他の部位の骨折リスクを下げることができます。

骨密度測定でリスクを早期に把握

骨粗しょう症の治療を受けていない人も、健診や自治体の骨粗しょう症検診を活用しましょう。「要精査」と判定された場合は、必ず医療機関を受診してください。

背中の変化は全身のサインかもしれない

背中が曲がってきた、身長が低くなったと感じたとき、それを単なる加齢のせいと片づけるべきではありません。高齢者の骨粗しょう症患者では、いつの間にか骨折をきっかけに身体機能が低下し、5年生存率が約60%と報告されているデータもあります。これは骨折そのものが直接の死因になるというより、その後の活動量低下や合併症が影響していると考えられています。

いつの間にか骨折を軽く考えず、早めに診断と治療を受け、継続して対策を行うことが、寝たきりを防ぎ、健康寿命を延ばすことにつながります。

最後にいつの間にか骨折に関して、整形外科の専門医に聞いてみました。

「いつの間にか骨折」の多くは骨粗しょう症を背景にした脊椎圧迫骨折で、転倒のような強い外力がなくても、くしゃみや前かがみ、布団の上げ下ろし、荷物を持つなど日常の負荷で椎体がつぶれて起こります。

閉経後女性や高齢男性、やせ型、運動不足、栄養不足、ステロイド使用、骨折歴がある方は要注意です。痛みが軽い、腰痛や筋肉痛に似ていて数週間で和らぐため受診が遅れがちです。放置すると円背・身長低下が進み、呼吸や消化機能の低下、ふらつき・転倒、骨折の連鎖から寝たきりリスクが高まります。

背中腰の重だるさ、寝返りや起き上がりの痛み、姿勢変化や身長低下、外出減少は、「いつの間にか骨折」のサインです。段差やコードを減らす、夜間照明を整えるなど転倒予防を行い、重い物は膝を使って持つなど過度な前かがみを避ける工夫が有効です。整形外科で画像評価と骨密度測定を行い、栄養と運動、骨粗しょう症治療の継続が予防の要です。

近藤 陽(こんどう あきら)先生

一宮西病院 整形外科医長/四肢・骨盤骨折治療センター長
資格:日本専門医機構認定 整形外科専門医