料理や加工食品など、私たちの生活に欠かせない「塩」。身近な存在である一方で、その製造現場がどのような仕組みで成り立っているのかを知る機会は多くない。

エア・ウォーターグループの海水事業を担う日本海水は、国内塩生産供給量の約40%を占める国内トップシェアを誇るメーカーであり、赤穂工場(兵庫県)、讃岐工場(香川県)の2工場で、それぞれの風土や地の利を生かした高品質な塩を生産している。

本稿では、日本海水・赤穂工場の見学を通じて、日本における塩づくりの仕組みを整理するとともに、国産塩を取り巻く環境や、同社が進めるカーボンニュートラルへの取り組みを紹介する。

  • エア・ウォーターグループ・日本海水 赤穂工場

    エア・ウォーターグループ・日本海水 赤穂工場

国内の食用塩を支える日本海水

兵庫県の最西端、岡山県との県境に位置する赤穂は、瀬戸内海沿岸の気候条件を生かした塩田が古くから発達してきた地域だ。現在、塩田は残っていないものの、そうした製塩の歴史を背景に、日本海水はこの地に製塩拠点を構えている。

塩田のイメージが強い塩づくりだが、日本の製塩は昭和47年(1972年)を境に、イオン交換膜電気透析法と蒸発結晶装置を用いた工業的な製法へと移行した。自然条件に左右されやすかった製塩は、品質や生産量を管理できるようになり、現在の安定供給体制の基盤が築かれている。

  • 日本の製塩技術の変遷(提供:日本海水)

    日本の製塩技術の変遷(提供:日本海水)

日本国内における国産食用塩の需要は、年間およそ80万トンとされている。減塩志向の広がりや人口減少を背景に、かつての100万トン規模からは縮小しているものの、塩は生活必需品であり、安定した供給が求められている。

日本海水は、この国内需要のおよそ40%を担っている。内訳としては、赤穂工場が約20%、香川県の讃岐工場が約20%を占め、2拠点体制で国内の食用塩供給を支えている。赤穂工場単体の生産能力は年間23万トンで、1日あたり約650トンを生産する体制をとっており、ほぼ24時間稼働で操業している。

生産された塩の多くは、家庭用としてだけでなく、醤油や味噌、加工食品、外食産業など、業務用原料として使われており、食品産業全体の基盤を下支えしている。

日本の塩はこうして作られている!

赤穂工場で行われている製塩は、「採かん」と「煎ごう」と呼ばれる二つの工程で構成されている。「採かん」は海水を汲みあげ濃縮し、濃い塩水をつくる工程で、「煎ごう」は濃縮した塩水を煮詰めることで、結晶として塩を取り出す工程を指す。

  • 昭和47年以降、日本の製塩で採用されているイオン交換膜方式の工程図(提供:日本海水)

    昭和47年以降、日本の製塩で採用されているイオン交換膜方式の工程図(提供:日本海水)

工場ではまず、瀬戸内海から取水した海水を二段階の砂ろ過器に通し、不純物を除去する。これにより濁質の99.9%が取り除かれ、次の工程であるイオン交換膜透析槽へ送られる。

透析槽では、2種類のイオン交換膜を交互に配置し、直流電流を流すことで、海水中のナトリウムイオン(Na+)と塩化物イオン(Cl-)を移動させる。この仕組みにより、海水中の塩分濃度は約3%から20%まで高められる。

  • イオン交換膜製塩法の濃縮原理

    イオン交換膜製塩法の濃縮原理

また、イオン交換膜の微細な構造により、海水中の油や有機水銀、農薬といった有害物質は通過できず、製造工程の中で遮断することができる。日本海水ではこの透析槽を23槽設置しており、イオン交換膜は延べ11万枚にのぼるという。

  • イオン交換膜透析槽

    イオン交換膜透析槽

濃縮された塩水(かん水)は、次の工程である蒸発結晶装置へと送られる。装置は真空状態に保たれており、それぞれの缶では沸点などの運転条件を変えることにより、粒径の異なる塩を用途に応じて作り分けている点だ。

  • 蒸発結晶装置

    蒸発結晶装置

結晶化した塩は遠心分離によって脱水され、乾燥工程を経た後、包装工程へと進む。包装工程では、金属検出器やウエイトチェッカーなどの数々の検査機器にて全数検査が行われ、さらに品質保証室での確認を経て出荷される。

こうした工程を経て生産された塩が、赤穂工場から全国へ供給され、日本の食を支えているのだ。

  • 包装された塩をパレットに自動で積み重ねるロボットパレタイザー。品質に合格した製品はこの後、トラックや船で全国に運ばれる

    包装された塩をパレットに自動で積み重ねるロボットパレタイザー。品質に合格した製品はこの後、トラックや船で全国に運ばれる

赤穂工場のカーボンニュートラルへの対応

イオン交換膜電気透析槽を用いる製塩は、電力を多く消費する産業の一つであり、赤穂工場でも大量の電力と蒸気が必要とされている。

赤穂工場では、昭和47年のイオン交換膜電気透析法へ製造方法が転換されたのと同時に、工場内に発電設備が保有された。

その後、老朽化した発電設備は、都市ガスを使うコージェネシステムへ更新し、発電時の蒸気や排熱を製塩工程で再利用する仕組みへと進化している。

この都市ガス発電設備の導入に伴い、赤穂工場まで都市ガス管が延伸され、地域インフラの整備を後押しする形となっている。

さらに、カーボンニュートラルの達成に向けた取り組みとして、赤穂工場には2015年、2021年と段階的にバイオマス発電設備が開設され、CO2削減が進んでいる。将来的には2035年を目処にバイオマス由来の電力を製塩工程に活用する構想を描いている。

  • 第一バイオマス発電設備

    第一バイオマス発電設備

  • 裁断された木質バイオマスチップ

    裁断された木質バイオマスチップ

輸入塩が増える中で国産塩を作り続ける理由

日本には、海外に見られるような大規模な岩塩資源が存在しない。そのため、国内で使われる塩の多くは輸入に頼っている。一方で、食用塩に限ってみれば国内生産が日本の食を支えている側面もあり、日本海水は国産塩の製造を続けてきた。

その背景にあるのが、品質と国内における安定供給に対する責任意識だ。日本海水の担当者は、「万が一、塩の供給が滞れば、食品産業全体に影響が出てしまいます」と話す。塩は人が生きていくうえで欠かすことのできない物資であり、供給を止めないこと自体がメーカーの重要な役割になる。

赤穂工場で生産される塩は、家庭用だけでなく、醤油や味噌、漬物からファーストフードといった食品の原料としても幅広く使われている。業務用原料としての需要も大きく、取引先から「赤穂の塩」を指定されるケースもあるなど、長年の取引を通じて品質への信頼が積み重ねられてきた。日本海水では、赤穂工場と讃岐工場の2拠点体制をとることで、想定外の事態が起きた場合でも供給を維持できるよう備えている。

また、国内製塩の重要性を伝える取り組みとして、同社は国産塩の意義を発信する「日本塩協会」の設立を主導してきた。担当者は、「塩は非常に重要な物資です。国内で作り続けること自体が、私たちの役割だと考えています」と語る。

赤穂工場の見学を通じて見えてきたのは、塩づくりが決して単純な工程ではなく、安定供給や品質、安全性、さらにはエネルギーの使い方までを含めた総合的な産業であるという点だ。日本海水は大量生産と品質を両立させながら、電力多消費産業としての課題にも向き合い、積極的にカーボンニュートラルへの対応を進めている。

※なお、日本海水 赤穂工場では、現在一般向けの工場見学は実施していない。